第262話 新たなスキル
【皇居ダンジョン】へと足を踏み入れた。
ダンジョン侵入の輝きに目を瞑り、再び開くと、そこには異世界が広がっていた。比喩ではない。
俺たちは丘に立っている。見下ろすと、平野を住処とする魔物の姿はあるが、目を奪われるのは遥か先にあるものだ。巨大な壁、それに覆われた中世ヨーロッパのような街並み。日本における異世界と言えば、といった光景が広がっていた。
「……江梨子、これはどういうことなんだ?」
「どういうこともなにも、ここが【皇居ダンジョン・一階層】だ」
「……どうして街があるんだ?」
「ここは特殊なダンジョンだ。これまでの常識に当てはめない方がいい」
ダンジョンなんてファンタジー世界だけのものが存在しているんだ。ダンジョン内に異世界があっても、なんらおかしくはないだろう。
「取り敢えず、どのようなスキルを得たのか、確認してみろ」
「ああ……」
俺が【皇居ダンジョン】への入場で得たスキルは……【配下強化】。
シンプルでありながら、多くの従魔を抱える俺にとっては、とてもありがたいスキルだ。
「【配下強化】だったぞ」
「丁度いいスキル、悟は運がいいな」
「確かに運は良いかもな」
初めて入ったダンジョンでゴン太と出会って、ご飯をあげたら【テイム】スキルを得て、次に得たスキルが従魔の力を借りることができる【シンクロ】……運がいいのか、世界の導きなのか……とにかく運はいんだろうな。
「甲斐はどうだったんだ?」
「私は……【武士道】ってスキルよ」
「【サムライ魂】に続き、【武士道】……どうも世界は、甲斐のことを武士にしたいみたいだな」
「武士なんて嫌よ。全く可愛くないじゃない」
「甲斐……」
「な、なによ」
「お前も可愛いものが良いなんて感情があったんだな」
「あ、当たり前よ!」
甲斐は顔を真っ赤にして怒っている。
ここまでそこそこの時間を共にしたわけだが、そういった素振りは一度も見せていないのだから、そう思っても仕方ないだろ。まあ口にしたら怒られるだけだから、声には出さないが……。
「まあ二人とも、スキルは目安にするだけで、最終的な判断は自分で決めなければならないんだ。スキルの名前に一喜一憂する暇があるのなら、自分なりの活かし方を考えればいい」
「……それもそうね」
「二人とも納得したようだし、このダンジョンの魔物と戦ってみようか」
「そうだな」
「じゃあ行くぞ」
江梨子が丘から飛び降りた。
崖とまではいかないが、その傾斜はかなり急だ。走って下りるには、厳しいと言えるレベルの急斜面。江梨子はそれを風の力で浮いて進んで行く。
「……」
俺は単純に駆け下りる。
たぬ吉たちも俺を追って、坂を駆け下りて来た。
ヒトから脱することで強化された筋力があれば、この程度の坂であれば走ってでも駆け下りられる。問題は甲斐だ。
中々下りてこないため、心配で後ろを振り返ってみたが、一向に降りて来る気配はない。
「おーい、甲斐も下りて来いよ」
身体を捻り、後ろを向いて叫んだ。
既にかなりの距離が開いてしまったようで、向こうからの返事がこちらへと届くことはなかった。だが今から戻るのは、かなり面倒くさい。やろうと思えばできるのだが、甲斐への心配よりも面倒くささが上回っている。
「江梨子、甲斐が下りてこないが、どうするんだ?」
「……彼女なら大丈夫だろう」
それはどこから来る自信なんだ。
そんな疑いの眼差しで江梨子を見つめていると、背後――丘の頂上から甲斐の声が急激に近付いて来た。
「退いてェェェ!!!!」
「――ッ!?」
振り返ると、そこには俺や江梨子を圧倒的に上回る速度で坂を下って来ている江梨子の姿があった。あと十数秒もすれば、俺たちに激突するだろう。
「あぶっ――ッ」
駆け下りる足を止め、横へと飛び退く。
刹那、元々俺が立っていた場所を猛スピードで、甲斐の身体が通り過ぎた。それは先刻目にした時よりも、かなり速くなっているように感じた。
「――ッ江梨子、止めてやってくれ!」
「――確かにそうだな」
俺とは反対側に飛び退いた江梨子が、急加速して甲斐の背中を追った。
甲斐は速度を調節できていない。あのまま加速していけば、地面に激突してしまうはずだ。あれ以上の速度で地面に激突すれば、いくら肉体が強化されていようと、大怪我は免れないだろう。
だが俺にできることはないため、江梨子に頼むしかなかった。
「……速いなぁ」
甲斐もかなりの速度が出ていたが、江梨子はそれ以上の速度が出ている。それに甲斐と違う点は、それだけの速度を出しても、完璧の操作できている点だ。
「――」
遂に江梨子の風が、甲斐の元へと届いた。
猛スピードで地面へと向かう甲斐の身体を、江梨子の風が優しく包み込んだ。数秒間は速度を緩められていなかったが、時間が経つにつれて速度は落ちて行った。
「大丈夫だったか?」
「気絶しているが、怪我はしていないな」
江梨子の腕の中に居る甲斐は、白目を向いて気絶していた。
この光景は俺たちの中で、永遠に蓋をしておこう。この姿は甲斐の名誉に関わる。
甲斐は、その名にふさわしい侍の道へと進んでいます。
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