第261話 皇
江梨子たちが口にした言葉の意味――言葉の意味自体はしっているが、どうして俺に対して吐いたのかが分かっていなかった。
だがそんな些細なことに気を取られている余裕はないため、一度忘れて【皇居ダンジョン】への歩みを再開した。
メンバーはウチの従魔たちと甲斐、そして【皇居ダンジョン】に対する知識を持っている江梨子だ。麗華やペドロには地上に残ってもらい、治安の維持とロジャースの見張りを頼んだ。
レオンという共通の敵がいた時は良かったが、それを排除した今、アイツが味方だと断言できる材料が存在していないため、江梨子に次ぐ実力者である麗華に見張りを頼んだ。
残っているペドロも実力者で、疲労困憊とは言えど相当な実力を持つ信綱も居る。ロジャース一人に負けることはないはずだ。
「【皇居ダンジョン】は特殊なダンジョンなんだよな?」
「そうだ。【先駆者】と呼ばれるようになった、私たちが強力なスキルを得たように、入場するだけでスキルを得られて、それぞれの階に居るボスを倒してもスキルを得られる。言うなれば、【皇居ダンジョン】そのものが異常ということだ」
「すごい……」
事前にある程度の話は聞いていたから、あまり驚きはなかった。だが初めて聞いたであろう甲斐は、驚きが声からも漏れ出ている。
「特に入場で得られるスキルは、千差万別だ。私の【魔導之王】のような強力なスキルも、【剣術】のような一般的なスキルも、運次第で得られる。そこに関してはギャンブルとしか言えない」
「……私は運が弱いから、きっといいスキルは得られないわね」
「まあ甲斐は既に戦えるだけのスキルは得ているから、そこまで悲観する必要はないだろう。ボスの討伐でも、スキルは得られるのだからな」
「……そうよね」
【先駆者】は運が良かったということだろう。
【皇居ダンジョン】は第一次ダンジョン発生によって生まれたダンジョンで、入場するまでスキルは所有していなかったはずだ。だから入場の際に得られたスキルが、唯一のスキルだったはずだ。
もしくは、それが世界を望んだ未来という可能性もある。現実味のない話だが、ダンジョンという超常的な物が生まれた時点で、ファンタジーの全てがあり得ても可笑しくはない。だから神も、世界による導きも、あり得るかもしれないし、ないかもしれない。
ない証明は、悪魔の証明になってしまい不可能かもしれないが、ある証明は何時かできるかもしれない……まああったところで、って話になるんだが、ロマンはあるよな。
「ここが【皇居ダンジョン】。ここがダンジョンと化した際、皇室は京都へと移動していたため、皇室への被害は及んでいない」
「それはどういう意味だ?」
「つまり天皇家は今も存在している。ダンジョンの多い東京ではなく、比較的少ない京都に移して」
「……皇室のことは尊敬しているが、人以上に崇拝しているとかではないぞ。そもそも皇室の存在と、今の俺たちにどういった関係があるんだ」
「皇室の存在は、ダンジョンが生まれようと象徴として認められていた。知識に大小はあれど、知らない者は居ないだろう」
全くゴールが見えない。
「つまりこんな世界に変わってしまおうと、皇室……天皇は日本人統合の象徴なんだ」
「だから?」
「もし現在……旧日本の天皇家が全滅していた場合、生存が確定している皇室の舞子だけが、次期天皇になる正統性を有していることになる」
「……神輿として担ぎ上げられるということか」
「あの子は回復能力に特化しているだけで、力自体は一般人とそう変わりはない。もし神輿として担がれたら、抵抗できないだろうな」
「……どうして今になって話したんだ」
「強くなる必要がある、って単純な話だよ」
「……そういうことかよ」
強くなるための理由付けってことか。
元々ゴン太を救い出すという目的があったが、豊臣の討伐という最大の目標を成し遂げる、または近いところまで行く必要があった。距離で表現すれば、かなり遠いところにあるゴール、つまりマラソン的な目標だ。
対してまいちゃんを救うというのはどうだろう。このゴールは、【皇居ダンジョン】への入場と国家運営を安定させた先にある。短いとは言い切れないが、ゴン太の救出よりかは近いところにあるだろう。大体1500メートル走的な目標だな。
ゴールが近ければ、近いほど、そこまでの努力はしやすい。だから目標は大きなものと、小さなものを作っておく必要がある……まあ俺はゴールがなくても、走り続けられる自信があるけどな。
「だから入場によるスキルで満足せず、【皇居ダンジョン】をクリアするつもりで行くぞ」
「【皇居ダンジョン】は何階層なんだ?」
「ここは未踏破ダンジョンで、何階層なのかは分からない。想定で良いのであれば、同じ未踏破ダンジョンの【富士山ダンジョン】と同じくらいだろうな」
「……未踏破を未踏破で比べても、想定できないだろ」
「だが【富士山ダンジョン】は最低でも七十階層はある。つまり【皇居ダンジョン】も七十階層以上はある……と予想しているということだ」
「そんなのを今からクリアするってことか?」
「いいや、流石に準備もなしにクリアするなんて、【先駆者】が万全な状態で揃っていても、不可能と言って良い。だからこれは気持ちの話だよ」
「……なるほどな」
俺たちは「クリアするぞ」という気持ちで、【皇居ダンジョン】へと足を踏み入れた。
ちなみに甲斐は、情報の多さに頭がショートしていた。
次回、【皇居ダンジョン】の中が明らかに!?
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