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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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252/294

第252話 少しの猶予

 信綱の刀は、レオンの首を捉えられてはいなかった。

 刀の軌道が悪かったわけでも、レオンが防御したわけでもない。狙っていたはずの首が消えた――レオンの姿が消えたのだ。


「むっ――」


 空中の信綱は体勢を立て直し、俺たちの隣へと着地した。

 近くで見ると、とてもグロい。殴られたことで内出血が起きているのだろう。身体の至る所が赤黒くなっており、合わせて至る所からの出血が見られる。


「その傷は大丈夫なのか?」


「この程度の傷は、若いころ何度も経験しておる」


「……それは若かったから大丈夫だったのでは?」


 そんな疑問を口にしてしまったが、声が小さかったため、信綱の耳には届いていないのだろう。信綱の口から答えが返ってくることはなかった。


「それで、レオンが何処に行ったのか分かるのか?」


「分からん。だが斬撃は確かにレオンの首を捉えた。高速移動で避けようとしたが、反応が間に合わなかったのだろう。その証拠に」


 と言いながら信綱が見せて来た刀には、乾ききっていない血液が付着していた。つまりシュペンのように攻撃を透かすということはできないということ。


 本来、攻撃を透かせないのが当たり前なんだが、こんな世になってしまってからは、当たり前が当たり前ではなくなってしまったから、こういったことを確かめておくのは大切なことだ。


「レオンの不意打ちを警戒しながら、この民兵をどうにかしないといけないってことか」


「あと数分もすれば、この風のドームも突破されてしまう。悟よ、作戦を考えておいてくれ」


「……ああ、分かった」


 風の壁に張り付いている人々の顔は、知性を感じさせない虚ろな表情だった。しかしその虚ろな表情の奥底……見えていないはずなのに、嫌々身体を動かしているという感情が伝わって来ていた。


 これを見てしまったら、全滅させるなんて選択を絶対に取れなくなってしまった。元から殺すつもりはなかったが、事故でも殺すわけにはいかなくなった。


「……」


 しかし解く方法が分からない。

 これが呪いや状態異常であれば、まいちゃんの力でどうにかなったかもしれない――まあまいちゃんは居ないから、どうにもならないことに変わりはないんだが……。


 これはレオンが王であることを前提としたスキルの可能性が高くて、レオンから王の位を簒奪すれば、解ける可能性がある……これは予想に過ぎないが、解ける可能性は一番高いと思う。


 そんな自分の考えを、江梨子と信綱に説明した。

 近くに居るたぬ吉たちは、ロジャースのことを見張ってくれている。レオンの“王の裁き”によって、行動不能になっているが、いつ動き出してもおかしくはない。もし住民の殲滅を是としているのであれば、絶対に目を話してはいけないからな。


「なるほど、王の位を簒奪すれば、この王命で動く一般市民も動きを止めるということか、あり得るな」


「……だがその王位とは何を指す? 奴は中世やもっと昔の王権神授説のように神話を使った正当性ではなく、力と壁の建設という実績を以て王となっている。もしその二つの実績が、奴を王たらしめているのであれば、壁を作り直し、奴を負かさなければならないということになる。もしそうなら本末転倒だろう」


 信綱の言う通り、レオンが王であるために必要なことが、俺たちには分かっていない。それが分かれば突破口は開かれるだろうが、逆に分からない限り、俺たちに勝機はないということになる。


「江梨子、壁の破壊は可能か?」


「可能か不可能かで言えば可能だろうな。しかし時間は掛かるし、民を巻き込まない保証はどこにもない。一番の問題は、壁の破壊に掛かりきりになってしまうということだろう。もし壁の破壊でレオンの王位が揺らぐとなれば、絶対に邪魔をしてくる。奴レベルの邪魔を受けていては、壁の破壊は叶わないだろうな」


「俺と信綱、たぬ吉たちだけでレオンを足止めしないといけないということか」


「しかしやらねば、やられるだけ」


「どうする悟」


「……」


 レオンを止められるのか……。

 殴れはしたし、信綱の刀は届いた。当然、たぬ吉たちの力も借りられるから、数だけを見れば俺たちの圧勝だが……奴の底が未だに見えてない以上は、負ける可能性も大いにある。


 ならばこちらは遅滞戦術を取って、江梨子が壁を破壊するまでの時間稼ぎをするのであれば、どうにかなるのかもしれない。だが賭けだ。負ける可能性も大いにある――それどころか負ける可能性の方が高いだろう……。


「……遅滞戦術で行こう」


「了解。もし壁の破壊で、奴の王位(ちから)を奪えなかった時点で、私たちの敗北が決まるということだな」


「ああ、でも賭けに出なければ、この要塞内で奴は倒せない……はずだ」


 分からない。もっと楽に倒せる方法があるのかもしれない。だが俺は戦術家でも、軍師でもない。ただの戦士が関の山の俺が、戦術を考えるのはこれが限界だ。



江梨子が壁の破壊に意識を向けた瞬間、風のドームは壊れます。


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