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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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244/294

第244話 ペドロの正義

 ペドロと一定の距離を維持しつつ円を描くように歩く。

 こいつも俺のことを警戒しているのだろう。同じように、一定の距離から詰めて来ようとはせずに、円を描くように歩いている。


 どちらかがリスクを取って、詰める選択を採らなければ、無駄に時間を使ってしまうだけだろう。それは俺の敗北を意味する。アウェーで、戦力でも負けている側が、時間を浪費するのは無意味、もっと言えば利敵行為と何ら変わらないだろう。


「――」


 十数秒もの間続けていた歩みから、一気に最高速度まで加速する。

 既に【シンクロ】による“赫猛”は行使済みだ。拳には炎を灯し、ペドロの顔を狙って全力で振り抜く。加速からを時間にして、一秒にも満たない刹那の行動だったが、ペドロは反応していた。


 抜剣と共に、守りの構えを取っている。

 このパンチをフェイントとして、別の攻撃放つことも頭をよぎるが、過信でなければペドロは防いでくる。そう思い、そのまま拳を振り抜いた。


 衝撃が走る。揺らぐ髪の毛が、一瞬視界を塞いだが、直ぐにクリアになる。俺の拳を、剣の腹で受け止めたペドロの表情は、脅威とも思っていない、そんな涼しいものであった。


「貴様の拳はこの程度か。わざわざ私が降りて来なくても、下っ端で十分だったようだ」


「驕るのは、勝ってからにしろよ」


 前蹴りを放つ。

 感触が悪かった。炸裂タイミングに後方へと跳んで、衝撃を逃がしたのだろう。その証拠に、蹴り飛ばしたはずのペドロは、壁に激突する前に、後ろへの勢いを殺し切っている。


「確かに驕っていたのかもしれないな。では本気で潰すとしようか」


「――っ」


 纏う雰囲気が変わった。

 これまで正義感という覇気は纏えど、人を絶対に殺すという殺気は纏っていなかった。だが今のペドロが纏うのは、絶対に殺すという殺気。こちらも本気を出さなければ、一瞬で潰される――


「かはっ」


 何をされたのか分からない――とまでは言わずとも、認識するのがやっとで、受け止めきることはできなかった。先刻のペドロとは違い、俺は壁に激突することで、ようやく攻撃の勢いを殺すことができた。


 肺から押し出された酸素を、再度取り込むために、呼吸が乱れる。この間にペドロの追撃があったら、拙かったのかもしれないが、幸い追撃を仕掛けてくることはなかった。


「それが己が正義に従った行動ってことか?」


「そうだ。敵であれ、弱っているところを追撃する趣味はない。正面から戦い、己が技量で叩き潰す。それが私の正義だ」


「足元を掬われそうな、正義感だな!」


 駆ける。距離は十数メートル程度だろうか、詳しい距離は分からないが、直ぐに詰まる程度の距離しか開いていない。


「【シンクロ】」


 駆けると同時に借りた力は、亀之助の水を生み出す力だ。

 炎を纏った拳の上から、さらに水を纏わせる。冷たい水は放射熱で温まり、煮え湯のような熱湯へと変わった。


「同じことの繰り返しだな」


 ペドロは守りの構えへと入った。

 

「【シンクロ】」


 “湧沸”を行使。

 拳に纏ってあった熱湯を、一方向のベクトルに絞り、破裂させる。指向性を持った熱湯の破裂は、ペドロの剣だけに熱湯を降り掛けた。剣を握っている右手が、焼けたような音が耳へと入る。

 ペドロレベルであれば、直ぐに治るような火傷でしかないため、ダメージを与えるという面では失敗だ。しかし不意を突くという点では、成功したと言える。


「――」


 焦る表情が映る。

 だがその表情は直ぐに潰れる。俺の拳が炸裂することによって。


 先刻と違ってきちんと吹き飛び、壁に激突した。土埃が舞っているため、その姿を認識することはできないが、先刻までの涼しい顔は維持できていないだろう。


「乙女の顔を狙うなんて、正義のせの字もない行動だな」


 立ち上がったペドロは、口元に付いた血を拭いながら、こちらへと歩いて来る。その表情は一見涼しく見えるが、こめかみの(しわ)が怒りを物語っていた。


「そんなに怒るなって。皺が跡になって、年齢が上で見られちまうぞ」


「――ッ余計なお世話だ」


 これまで一貫して涼しかった表情が、遂に怒りで染まる。

 歪んだ表情に、朱で染まる頬。見る人が見れば、癖に刺さるような表情だろう。こんなことを口にしてしまえば、ペドロのいらない底力を引き出してしまいかねないため、心の中で留めておく。


「怒りに任せて来いよ」


「――私は自分を律し、正義の下、行動する!」


 剣と拳が重なる。

 発せられた衝撃波は、俺とペドロの両者を吹き飛ばした。空中では対処のしようがなく、俺たちは反対方向の壁へと激突した。衝撃と舞う煙で、視界が著しく塞がった。


「はぁはぁ」


 やはり酸素を取り込むためには、呼吸が乱れてしまう。

 だがそれはペドロも同じはずだ。ここの戦況は五分と言ったところ、作戦全体で見れば、若干俺が劣っているといったところか。


「【シンクロ】」



ペドロとの戦いはまだ続きます。


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