第242話 祭り
祭り当日を迎えた俺たちは――
「やはり祭りの飯は美味い」
「江梨子、食いすぎるなよ。腹いっぱいで動けなくなったら、最悪だぞ」
「大丈夫だ。人よりも消化が速いからな」
普通に祭りを練り歩いていた。
これまで缶詰などの、非常食ばかりを食べて来た俺たちにとって、祭りの屋台飯は久方ぶりのまともな飯と言っても過言ではない。それを楽しまなければ、一生楽しめる日はやって来ないかもしれないと思うと、食べざるを得ないだろう。
「どうして祭りの焼きそばは、こんなにも美味しいんだろうな」
「祭りの雰囲気がスパイスになっているからだろ。同じ味付け、同じ環境で作ったとしても、平時と祭りとでは味の感じ方に差はあるはずだ。そこに関しては、キャンプ飯も同じだ」
「確かにそうかもしれないな。以前食べた悟のキャンプ飯は、見た目や味付けは普通だったが、異常に美味しく感じた」
キャンプ飯は雰囲気のお陰で美味しく感じるけど、これといった特別なことはしていないからな……バーベキューとかも同じだろうな。
「江梨子、こういうのは難しく考えたらダメなんだよ。頭空っぽで楽しまないと、十分に楽しめなくなるぞ」
「……それもそうだな」
俺たちは二人で人混みの中を進んで行く。
甲斐や信綱、たぬ吉たちは、作戦を始めるまでは喫茶店で待機だ。甲斐や信綱であれば、特段目立つことはないため、別に着いて来ても良かったんだが、たぬ吉たちは目立ちすぎる。
そのため作戦に必要な俺たちだけが祭りへと繰り出し、甲斐たちは喫茶店での待機になった、という訳だ。
「……江梨子」
「ごうじた」
食べてる途中に話しかけた俺も悪いが、呑み込んでから返事をしてくれ。俺が見る分には構わないが、周囲の人からの目線が痛いから。
「何人の人が死ぬんだろうな」
「……分からん。ただかなりの数が命を落とすことになるだろうな。しかし私たちはそれでも戦う。そう決めただろう?」
「……そうだな」
覚悟はしていたが、改めて人々の笑顔を見ていると、その覚悟が揺らぎそうになって仕方がない。俺も分かってはいる。豊臣陣営と対等に戦うためには、【皇居ダンジョン】を手中に収めておくのは必須事項。
世界の崩壊と世界の王になることを望む豊臣を、俺たちは許すわけにはいかない。その戦いまでの道中に、どれだけの屍を積み上げようと、俺たちは戦い続ける。そんな覚悟を俺たちの共通認識にしたはずだ。
「……人は適応してしまう」
「どうしたんだ急に」
「特に日本人はそうだ。明治維新に始まり、戦後の高度経済成長期とその後に訪れた長期間の不景気、ダンジョン発生後、ダンジョン協会によって齎されたダンジョン特需、そして世界の変革後の現在、人々は置かれた環境に適応し、その環境下での最大の幸福で満足してしまう。不況が訪れなければ、ダンジョンが発生しなければ、もっと大きな幸福を享受できたのかもしれないのに、それを知ろうとする人は少なく、その環境下での最大の幸福に到達したら、維持するのに必死で、それ以上を求めようとはしない」
「……まあそうかもな」
「これは大きな話だが、小さいところに焦点を当てると、段ボールの家しか知らない子は、ピカピカの段ボールで満足するが、外から見ると満足してるはずがないと思われてしまう」
「まあだろうな」
江梨子の話したいことは何となく分かる。
だがこの話が、先刻の人が死ぬことを許容しなければならない話と、どう繋がってくるのかが、俺には分からなかった。
「私はお節介だと思われようと、子に自分が持てる最大の幸福を教えてあげたい。それでも段ボールで満足できるのであれば、その子はそういう子なのだろう。しかし段ボールで満足できなくなるのであれば、段ボールしか知らないのは、環境がそうさせたということになる。そこから這い上がれるのか、満足できないまま仕方なく段ボールに留まるのかは、その子の運と実力次第になるが、上を知るというチャンスは与えた。そうしたら、全てを環境のせいすることはできなくなる」
「つまり?」
「世界が変わっても、人の庇護下で生きようとするこの群衆は、環境が良かっただけだ。外の世界では努力が足りずに死にそうになっている者も、運悪く死んでしまった者も、運と実力のお陰で這い上がれた者もいる。それが今の世界であり、人類の大多数に架された苦難だ。であれば、ここに居る群衆に、外の世界の環境を教えてあげるのは、段ボールで満足できる子に、それ以上の幸福を教えてあげることと同じということだ」
「……こういう話で、マイナス面の平等を図るってのは珍しいな」
「世界は不条理だからな――」
悲しげな声色をしていたため、今の江梨子はどんな顔をしているのだろうか。そう思って江梨子の顔を見ようとしたが、割れんばかりの拍手の音で、その行動を止めてしまった。
「麗華……」
作戦実行まであと少し……
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