第238話 倒した甲斐がある
開かれた宝箱に入っていたのは、ワイトキングが持っていたのに近い、とても禍々しい杖だった。
「……触ったら呪われそうだな」
「私の空間拡張鞄に封印だな」
江梨子が風の力で持ち上げる。
宝箱から外へ出されると、その禍々しさに磨きがかかったように見えた。容易に触れるべきではないだろう。回復性能に特化したまいちゃんが居れば、話は変わってくるのかもしれないが、生死不明である以上は頼るべきでない。つまり封印が最適解のはずだ。
「なにそれっ?」
俺と江梨子の間から手が伸びた。
その薄汚れた中に白さが輝く手の中には、風によって持ち上げられていた杖が握られている。杖が纏っていた禍々しさが、女の腕へと移った。
「――っ!?」
「運が良かったのか、ダンジョンによる導きか」
「ん?」
当の本人だけ分かっていなかった。
しかし客観的に見ることができる俺たちには、その光景を目に焼き付けていた。杖にこびり付いていたはずの禍々しさが、女の腕へと移った瞬間から、肌に吸われていき、やがてその性質が消失していた。
「なあ、このダンジョンに入るまでスキルを持っていなかったんだよな?」
「なによ、そうに決まってるじゃない」
「このボスは異常だったから、スキルは得ているはずだけど、ここまで適したスキルを得たのは、恣意的なものを感じるな」
「江梨子はそういった経験があるのか?」
「ない……と言ったら嘘になるな。私の【魔導之王】スキルがそう言えるな。これがなければ【皇居ダンジョン】から脱出はできなかっただろうし、日本のダンジョン協会の権力はもっと低かっただろうからな」
「つまり江梨子が【魔導之王】を得ることが、日本における冒険者の地位向上に繋がったという訳か」
冒険者の地位が低ければ、世界的な冒険者大国へは至れなかったはずだ。そうなれば、日本国内に広がる大量のダンジョンの大半は、未開拓で終わったはず……もしダンジョンに意思があるのだとしたら、わざわざ人にダンジョンの攻略を促したということになる。
ダンジョンの目的は人に潜らせることなのか?
……平時ならまだしも、今考えても意味を持たない。一先ずレオン政権を打倒すまでは、そのことだけに集中するべきだ。
「それで、お前はどんなスキルを手に入れたんだ?」
「……」
「急に黙ってどうしたんだ?」
「――よ」
「なんだ? 声が小さくて聞こえなかったぞ」
「なんでアンタは、お前だの、女だのって呼ぶのよ!!」
いやなんでって……
「だってお前の名前知らないし」
「……あっ」
そもそも関係の始まりは、強盗と被害者。
俺たちが寛容だったから許されたのであって、厳しい人間相手であれば、死を迎えていたはずだ。
そのあとすぐに、はぐれてしまい、自己紹介なんてする暇は何処にもなかった。
「私は甲斐、成田甲斐よ」
「成田甲斐? 戦国時代の武将の?」
「誰よそれ」
「知らないのであれば、別に気にしないでくれ」
北条家に属していた成田家の一人で、忍城で《《豊臣》》の猛攻を防いだ――って専門的過ぎて、知っている人は少ないか。
「それで成田は、どんなスキルを得たんだ?」
「……」
「しっかり呼んだのに、なんで不満そうなんだよ」
「名前で呼びなさいよ」
「なんでだよ」
「……」
はぁ、ここで変な言い訳を並べないだけましか。
理由は分からないが、名前で呼ばれたい理由があるんだろう。
「はぁ、じゃあ甲斐はどんなスキルを得たんだ?」
「私が得たスキルは、【サムライ魂】よ」
「……」
「なによ、意外そうな顔して!」
「いや、意外というか、そのスキルでどうやって杖から禍々しさを吸ったんだ?」
サムライ魂と聞くと、精神性とかそういった方向にバフが掛かるスキルだと思うが、あの杖が纏っていた禍々しさは、状態異常系の力のはず……精神論でどうにかできる力ではなかったはずだ。
「吸った?」
甲斐は不思議そうに、まじまじと杖を見つめていた。
同じように見つめてみるが、先刻までの禍々しさが嘘みたいに、普通の杖にしか見えなかった。
「うおっ」
「れ――」
冷笑か、とツッコミそうになったが、甲斐はネットに対しての造詣が深くなさそうと思い、その言葉を咄嗟に呑み込んだ。
そしてその声を出してしまうのは、仕方ないとも思った。
「なんだよそれ」
杖が先刻まで纏っていた禍々しさが、杖の先端から漏れ出ていた。
だがその禍々しさに敵意は感じられず、それどころか何処か安心感すら感じてしまった。
「その杖の禍々しい力を、支配下に置いたということだな」
「これって戦いの役に立つ?」
「さあ分からん。だが試してみる価値はあるだろうな」
江梨子の答えに、甲斐は目を輝かせているように見えた。
ウキウキの甲斐を先頭に、俺たちはダンジョンを後にした。
遂に女――改め成田甲斐の名前が判明しました。
野望シリーズファンとしては、好きな名前です。姫武将はロマンがありますね。
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