第236話 不死者の王
全員の納得を得て向かったボス部屋。
そこに鎮座していた魔物は、俺が拳で倒したリッチと似た姿をしていた。だがそれがリッチではないのは、ダンジョンに対する見識が薄い女を除いて、この場に居る全員が分かっている。
その身体はリッチと同じように、骨のみで構成されているが、纏っているコートのような物は、格段に豪華となっている。そして握られている杖も、巨大で豪華になっていた。
「あれはワイトキング……予想でしかないが、ダンジョン異常の可能性が高い」
「異常に強いってことか」
「大体の強さを表現するとしたら、【魔境群馬ダンジョン群】の三十四階層に居た猿魔レベルといったところだろうな」
「……それは、かなりの強さだな」
あの時は【先駆者】が複数揃っていたからこそ、比較的簡単に戦いを進められたに過ぎず、今この場に居るのは江梨子だけで、さらに戦うを力を持たない足手まといも連れているわけで、苦戦するのは避けられないだろう。
「女のことは頼むな」
「ポン!」
女のことはたぬ吉たちに任せて、俺と江梨子がメインウエポンとして、ワイトキングと戦っていく。
俺たちは門を潜り、ワイトキングの前へと立つ。
「なんだか久しぶりな気がするな」
電源が落ちていたかのように、身動き一つ取っていなかったワイトキングだが、俺たちがボス部屋へと足を踏み入れた瞬間、スイッチが押されたかのように目に生気が宿った――不死系魔物なので、その表現が的確なのかは分からないが、とにかく鋭い眼光がこちらを睨みつけている。
「来るぞ」
江梨子の警告。
それに遅れて眼前を煙が覆った。遅れたと表現したが、その時間は一秒にも満たない刹那の時。つまり警告とほぼ同時に、俺たちの視界を煙が覆ったということだ。
「江梨子、吹き飛ばせるか」
「――」
この煙は視界だけじゃなくて、音も阻害して来るのか。
連携が取れないとなると、下手に動けないぞ。俺は別にいい。俺の攻撃が江梨子に対して、致命傷になるとは考えられないからな。しかし江梨子の攻撃は、この場に居る誰に対してでも、致命傷になり得る攻撃だ。
「くっ」
正面を目指して走り出す。
その先にあるのがワイトキングが居る場所なのか、視界が閉ざされてしまっている間、分かることはない。しかし動かなければ、無駄に時間を浪費してしまうだけだ。
そこにワイトキングが居ることに賭けて、ただひたすらに駆ける。【シンクロ】による“赫猛”で身体能力を上げ、急な接敵にも備えておく。
「――」
何かを感じ取った。
即座に拳を突き出そうとしたが、それがたぬ吉たちではない保証はどこにもないということに気付き、一瞬だけ躊躇ってしまった。
結果、それはワイトキングで、攻撃できなかった俺は、迎撃を受けて吹き飛ばされてしまった。
「はぁはぁ」
その際に頭を打ってしまったようで、中々思考が纏まってくれない。
直ぐにでも動き出す必要があるというのは、自分でも分かっているのに、身体は動かせずにいた。
「――」
耳に入ってくる音。
それが江梨子のものか、従魔たちのものか、はたまたワイトキングのものなのか、断定はできないが物音ではない事だけが確かな音が耳へと入り込み、鼓膜を揺らしていた。
その音は段々と接近してきて、やがて目の前へとやってくる。ほぼゼロ距離と言っても過言ではないのに、その音は変わらずノイズが掛かって、誰のものなのかが分からない。
状況的に九割九分九厘ワイトキングの物なのだが、変わらず頭は回っていないので、身体は思うように動いてはくれない。
「……」
風が頬を撫でる。
その風に刺々しさは感じられず、とても優しい風であった。
「なるほど、このワイトキングはかなり強いデバフを使うようだ」
その声と共に、すぅーっと頭が冷たく覚めていった。
霧掛かっていた思考は、とても明瞭になり、身体も自由自在に動いてくれる。晴れた視界で見上げた。
そこには見開く目がなくても、分かるレベルで驚いているワイトキングの姿があった。
「取り敢えず、これでも喰らえ」
即座に立ち上がり、拳を突き出す。
タイミング的に頭部は捉えられなかったが、杖を持っていない左手を捉えることはできた。リッチ以上の強度。しかし“赫猛”を使用している拳は、容易に砕くことができた。
このまま連撃をお見舞いしてやるつもりで、二撃目を放とうとしたが、ワイトキングは何らかの力で姿を消し、俺のパンチは空振ってしまった。
「くっ――」
膝から崩れ落ちる。
これがデバフの効果だということは分かっているのに、頭は非情に怠くなっていた。気持ちの問題で立ち上がれない。こんな状態は初めてだ。
「えりこぉ」
あまりにも弱々しい声に、一瞬自分の声ではないと錯覚してしまった。
この個体がデバフを使ってくるだけで、ワイトキングの攻撃方法に統一性はないです。
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