第232話 久しぶりのダンジョン
俺たちは一定の速度を保ったまま、魔物との接敵がある地下道を進んで行った。出会う魔物は総じて不死者系ばかりで、悪臭から解放されつつあった鼻が、再び悪臭に侵されてしまった。
「酷い悪臭だが、悟の従魔たちはどうしてこんな場所に潜伏しているんだ。私みたいに臭いを遠ざけられるわけでもないだろうに」
「ウチの従魔たちは頭が良いとは言っても、その見た目は魔物そのものだからな。人と出会うことがない、この地下にしか居場所がなかったんだろ」
比較的動物に似ているとは言っても、地上の動物とは違う点が必ずあるわけで、いくらダンジョンや魔物に関わりの少ない一般人が相手とは言えど、必ずバレてしまうだろうからな。
それに魔物だとバレなかったとしても、こんな世になった以上、動物が保護されるとは限らないから、人から気付かれないようにするのは、最適解なのだろう。
「ほら、また来たぞ」
目の前に現れた魔物は、これまでの魔物とは少し違っていた。
そもそも存在しているのか。そんな疑問を抱いてしまう半透明の身体。足はあるが、宙に浮いている。それは誰がどう見ても、幽霊だと言うだろう。
「江梨子、あれが何て魔物なのか分かるか?」
「ゴーストだな。物理攻撃が効かない。脳筋タイプからすると、天敵と言って良い魔物だ」
「俺からすれば、あまり関係ない話だな」
掌から炎を出す。
そしてそれを纏うのではなく、球状にして投げる。剛速球とまではいかずとも、かなりの速度が出ているだろう。ゴーストのような低位の魔物には、避けられるはずのない火球。着弾と同時に爆発が起こる。
ゴーストの身体は破裂した、と表現するしかない終わりを迎えた。その実態があるのか、ないのか分からないゴースト肉体は、爆発と共に姿を消す。だが元々居た場所には、ゴーストが残したと思われる、半透明の肉片と魔石が落ちていた。
「珍しいな。地上の魔物は総じて死体を残していたが、ゴーストはドロップを残してやがる」
「まあこれが本体で、半透明の身体は、能力によって生み出していた、ということだろうな」
「なるほど、それは納得だ」
江梨子の考察が間違っているのか、合っているのか、学者ではない俺には分からない話だが、納得できる話ではあったので、これ以上ゴーストの生態について考えることはないだろう。
これはたぬ吉たちを探さなければならない、という使命に駆られているからではない。普通に魔物の生態に関しての興味が薄いからだ。魔物との戦いを有利に進めるのに必要であれば、ある程度の熱を以て調べられるだろうが、このゴーストの生態に関しては、そこまで役に立たないだろう。
そんな考えを持っているため、肉片と魔石を持ち上げると、ゴーストに関する思考は、頭の片隅にも置かずに、脳のタンスの奥底へと仕舞った。
「ふぅ、行くぞ」
「ああ、そうだな」
江梨子も俺と同じように、ゴーストのことなど完全に忘れている様子だ。
ゴーストとの戦闘――一撃で終わったので、戦闘と表現していいのか分からないが、とにかくゴーストと接敵してから五分ほど経過した頃、ずっと変わっていなかった地下道に、大きな変化があった。
「こんなに分かりやすいのかよ」
そこは地下道とダンジョンの境目。完全に同化しているが、地下道とダンジョンとでは、壁の材質も、雰囲気も全く違っていた。そして一番の違いは、ダンジョンの壁が放っている淡い光だろう。
「……ここまで直線が多かったが、ここからは曲がりくねった道も多くなるんだろうな。江梨子、これまで以上に探索に力を入れてくれよ」
「ああ、もちろんだ」
足元を風が抜ける。
それを追うように、俺たちもダンジョンの道を進んで行く。事前の予想通り、ダンジョンの道は曲がり角も、歪んだ道も増え、歩くスピードを下げざるを得なかった。
「面倒な道だな。何故かダンジョンに入ってからの方が、魔物との接敵が減っているし、変なダンジョン過ぎるだろ」
俺たちが前にしていたのは、ダンジョン内に作られた低めの崖。
江梨子は風の力で宙を浮かび、先に登り切っている。俺は宙を浮かぶことができないので、自力で登らざるを得ない。
江梨子の力があれば、俺の身体を持ち上げるのも容易のはずだが、当の本人が――
「ほら、あと少しだ。頑張れ」
持ち上げる気がさらさらないようなので、俺はくぼみや出っ張りを掴んで、身体を持ち上げるしかなかった。
そして数分間の格闘の末、頂上に手を掛ける。腕力で身体を持ち上げた。
「はぁはぁ」
並の戦闘で呼吸が乱れることもなくなってきたにも拘らず、この程度の運動で呼吸が乱れてしまった。まだまだ半人前ってことなんだろうな。
「じゃあ行こうか」
「ふぅ、そうだな」
乱れた呼吸が戻るのを待つことなく、俺たちは歩みを進めた。
自然と前後が変わり、俺が後衛の位置に立つこととなった。
遂にダンジョンへと突入しました。
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