第227話 脱出
結果だけ述べるとすれば、言い訳は必要なかった。
そもそもロジャースが無口過ぎて、江梨子を洗っている時の声が聞こえていたのかどうかすら分からなかった。
分からないということは、わざわざこちらから自白するような真似をする必要はないということ。相手が内で思っているだけで、行動に出して来なければ、あまり関係はない。俺とロジャースは友達ではなく、利害関係が合っているだけに過ぎないんだからな。
風呂を終えた後、この監獄の生き残りを、敵味方関係なく探したのだが、みな死んでいた。地下に居た罪人たちももちろんのこと、地上に居た看守たちもみな命を落としている。
「江梨子を救えただけで、十分な収穫か」
「何人か顔を合わせたが、戦力になる者は少なかった。言ってしまえば、足手まといしか居なかったから、死んで良かった……そう思え。きっと心が楽になる」
「……そうだな」
口では肯定したものの、そこまで割り切ることはできない。
逆に割り切ることができないからこそ、人の命を尊重できる――そんな人で居ればいい。そんな人が一人は必要だろう。複数になると、こんな世では生きていけなくなるだろうが……。
「次は従魔たちか麗華のことを探しにいかないとな」
「従魔のことは、悟に任せることができるが、麗華に関しては一切の情報がない状態で、ゼロから探さなければならないということだな」
「ああ。江梨子だって偶々知ることができたから、ここに辿り着くことができたが、同じ幸運が続くとは思えない。ゼロから足で探すしかないよな」
ウチの従魔は【シンクロ】で視界を繋げて、その場所を特定することができる……かもしれないが、麗華に関しては一つの情報も残っていない。侵入時に麗華の姿を見た者が居れば良いのだが、それが味方である保証はどこにもないため、下手に聞きまわることもできない。
とにかく足を動かしまくって、麗華の姿を認知することしか、索敵方法は残されていないのかもしれないな。
「じゃあ脱獄するか」
「……悟、この騒ぎは外に届いていると思うか?」
「分からない。この壁がどれだけ防音性能があるのか分からないし、外は人気のない場所だったが、敵の目がなかったとは言い切れない。結局は運ゲーだな」
「そうか。確定していないのであれば、静かに出るのが良いな」
入ってきた時に作った穴へと降りる。
水が入って来ているが、【シンクロ】で亀之助の力を借りることで、これといった障害となり得ることなく、抜けることができる。
警戒をしたまま、水堀へと抜け出た。出た瞬間が一番狙われると思い、江梨子もロジャースも戦うつもりでいたようだが、攻撃どころか人の気配一つ感じ取れなかった。
これをありがたいと思えるほど、俺たちは素直ではなく、逆に怪しいとしか思えなかった。
「……江梨子、風の力で索敵できないか?」
「風を張り巡らせることは可能だが、逆にこちらに気付いていない実力者が近くに居た場合、私の脱獄が悟られてしまう可能性があるが……悟はどちらを選ぶ」
「……なんで俺に判断を任せるんだ?」
「この要塞内でのリーダーは、悟だからな」
「……なら風の索敵を頼む。敵にバレるよりも、奇襲を受けてしまう方が、俺たちにとって不利益だ」
「ふっ、私もそう思っていた」
ツッコミを入れる間もなく、江梨子は風を吹かせる。
地を這うような風の流れは、自然にも不自然にも思えるが、これは江梨子によって生み出されていると知っているからこそ、抱いてしまう感想なのだろう。
風は一気に広がり、地面に蓋をしていた落ち葉を舞い上げた。カサカサという音が以前の日常を思い出させて、少しほっこりとしてしまうが、この敵地に居るという環境が、弛んだ気を一気に引き締める。まるでサウナだな。と意味がよく分からない言葉でも残しておこうか。
そんなことを考えていると、江梨子の表情が変わった。それは驚き。ただこれは俺の感想に過ぎないため、江梨子自身が口を開くまでは、その表情が表す感情を決めつけることはできない。
「誰も居ない」
「……本当か?」
「ああ、嘘を言う必要は何処にもないだろう?」
「確かにそうだな」
本当に誰も居ないのであれば、早くここから逃げなければならない。
今は露見していないのだろうが、いつバレてもおかしくない。人が居なくても、ここが敵地であることに変わりはなく、どのような監視方法を用意していても、おかしくはないのだからな。
「俺が江梨子の情報を聞いた人が居るから、一先ずそこを目指そう」
「分かった」
俺たち三人は、できるだけ気配を殺しながら、信綱が経営している喫茶店を目指す。
特にありません
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