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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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225/295

第225話 脱げ

 脳の処理が追いつかない内に、江梨子とロジャースは前後に別れた。

 当然、事前に話していたように、ロジャースが後衛で、江梨子が前衛でだ。

 確かに江梨子も明智と戦える程度には、近距離戦ができる。その明智が上澄みも上澄みのため、江梨子の近接術も世界有数のものだろう。だが比較するのが、アメリカのナンバー(ツー)で、あのガタイの持ち主だ。勝てると思う方がおかしいだろう。


「【――】」


 江梨子が詠唱を始めた。

 あれは遠距離攻撃を齎す詠唱ではなく、近接戦を行うための準備の詠唱だろう。当然、ブルーノによる邪魔が入る。


「させると思っているのか!」


 既に破壊した部分が治った人型土塊は、拳を振り上げて、詠唱を続ける江梨子の下へと落とそうとしている。邪魔するために立ち上がろうとしたが、揺れる脳がそれを許さなかった。

 足から力が抜ける。俺は無力にも、地面に伏してしまう。何とか顔だけは上げるが、それが精一杯のできることだった。


「邪魔するな」


 爆ぜた。俺の乏しい語彙では、そう表現することしかできない現象が、ブルーノの巨大な拳を襲った。

 江梨子の詠唱を邪魔しようとしていた巨大な拳は、それが存在していたことを疑ってしまうほど、跡形もなく消えている。前後関係からロジャースが行ったことは明確であるが、どうやったのかが全く分からない。


「“――”」


 江梨子の詠唱は完遂された。

 それは幻覚龍イリュージョンドラゴン戦で見せた風の鎧。ハリケーンを思わせるエネルギーを孕んだ風の鎧は、触れるだけで腕が吹き飛んでしまう……そんな高密度のエネルギーだ。


「本体は何処に居るのか、確かめよう」


 ミサイルですら置いてけぼりにする速度で、巨大な人型土塊へと迫った江梨子。発生したソニックブームは、未だに天を塞いでいるドームにヒビを入れた。


 ブルーノは拳で迎撃しようとしているが、全く追いついていない。既に江梨子は、鎧と同じように拳を高エネルギーの風で包み込むと、軽く突き出した。


 爆ぜた。ロジャースも同じことをやったが、規模が違う。ロジャースが拳を爆ぜさせたのに対し、江梨子が爆ぜさせたのは、巨大な人型土塊そのもの。中で操っていたであろうブルーノの姿が露出し、全身から血を吹き出しながら宙へと放り投げられた。


「脆すぎる。この程度で幹部を張れる親衛隊……悟、レオン以外に対してそこまでの警戒はしなくてもよさそうだ」


「……いや、俺がこうなっているんだが?」


 俺は地面に伏しながら、ゆっくりと宙から降り立つ江梨子と目を合わせた。【先駆者】のトップ。そんな上澄みも上澄み、世界のトップテンに入るであろう江梨子からすれば、どんな相手でもそこそこの相手にしかならないだろ。


「……まあ、ダイジョブだろう」


「カタコトになってるぞ」


 差し出された手を掴み、何とか立ち上がる。

 顔が歪んでしまう。


「どうした、顔を歪めて」


「……女性相手にすごい言い辛いが、江梨子、お前滅茶苦茶臭いぞ」


「――ッ!?」


 江梨子の顔が一気に赤く染まった。茹蛸。アリがちな表現だが、頭から湯気が出ているようにも見えるため、リンゴとかよりも茹蛸と表現するのが適しているだろう。


「……どうにかして、風呂に入ろうな」


「……うん」


 見た目相応の話し方に、思わずキュンとしてしまった。

 だが鼻にこびりつくような激臭に、そんなキュンとした気持ちは何処かへと消え去ってしまう。


「一応、ここのトップを倒したわけだが、安心して風呂に入るわけにはいかないよな……俺がお湯を出すから、交互に監視しておいてくれるか?」


「分かった。ロジャースもそれで大丈夫だろう?」


「……」


 変わらずロジャースは無口だ。

 江梨子の問いかけに対して、ただ首を縦に振ることしかしていない。


 まあ意思の確認は取れるわけだし、俺が文句を言えるような相手でもないから、何かを言うつもりはない。これもまた、弱肉強食の一種――違うかもしれないが、力ある者であれば、何をしてもいいという点では同じだろう。


「じゃあ先にロジャースを洗うから、江梨子、警戒を頼む」


「ああ、大丈夫だ」


「ロジャース、脱いでくれ」


「……」


 必要最低限の布面積しかなかった服を脱ぐと、全身に鋼の鎧を纏っている――そう思ってしまう筋骨隆々の肉体が出て来た。その分傷もすごく、見ているだけで痛くなってくるような、痛々しい傷が全身に刻まれている。


「【シンクロ】」


 亀之助の水を生み出す力に、自分の火を生み出す力を合わせることで、丁度いい温度のお湯を作り出す。“湧沸”もお湯を生み出すが、お湯レベルではない熱湯なので、あまり湯浴みには向いていないだろう。

 江梨子やロジャースレベルの人間なら、熱湯でも気持ちいいと思うのかもしれないが、火傷させたら申し訳ないので、手間をかけてお湯を作る。


「かけるぞ」


「……」


 頭からぶっかけた。

 そして洗濯機の如くブン回す。石鹸はないため、そこまでの効果はないだろうが、やらないよりかは幾分もマシだろう。



次回、江梨子のお風呂回です。


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