第223話 覚悟と行動
鼻が曲がるレベルの激臭が漂う地下にて、それはあった。
真正面にある鉄格子の先、他の牢屋とは一線を画す頑丈度合い、確実に強者を封しているであろうそこには、一組の男女が目を瞑りながら座っていた。
男の方は世界でも有数のボディービルダーと言われても違和感のない、鋼の筋肉を纏った巨漢。
女の方は正反対。低い背に童顔、子供にしか見えない少女――江梨子。そんな正反対の二人が、隣り合って座っている光景は、とても異様な雰囲気を醸し出していた。
「遅かったな、悟」
「済まない、思ったよりも頑丈でな。それで、隣の人は?」
「……コイツはアメリカのナンバー2。アメリカにおけるダンジョン関連の海外部門を一手に引き受け、世界が変わった時に偶々日本に来ていた、ロジャースだ」
「……」
ロジャースという男は、一切口を開かない。それどころか瞼すらも閉じたままだ。人見知りかと疑ってしまうが、海外部門を受け持っているということは、外向的な人のはず。目も口も開かないのは、何かしらの理由があるのだろう。
「それで、なぜそんな人と江梨子が捕まっているんだ?」
「ロジャースの理由は知らないが、私は周囲に人が多すぎて、抵抗できなかった。この枷のせいで、スキルも使えなくなったしな」
「これが原因か」
言われて気づいたが、江梨子とロジャースの首には、どう足掻いても外せなさそうにない、頑丈そうな首輪が付けられている。話を聞くに、スキルを封印するか、無効化する力があるらしい。
軽く触れてみる。
「【シンクロ】」
確かにスキルが発動しない。だが【テイム】由来の従魔との繋がりが切れた感覚はないため、全てのスキルを使用不可にするわけではないのだろう。そして俺の身体にある、内なる火は変わらず燃え続けている。
試しに、右手で首輪を握ったまま、左手に火を灯す。掌から炎が燃え出る。やはり俺のこの力は、スキル由来ではないのだな。
「――」
俺が火を出した瞬間、ロジャースが目を見開いた。
その目は、アルビノのような美しい瞳だった。だが肌の色や髪色的に、アルビノではないと思う。汚れてしまっているため、アルビノなのかもしれないが、その瞳からは不思議な力を感じる。
「……その力、魔物由来の物だな」
「確かに、ウチの従魔と同じ力だ。詳しい由来については、分からないけどな」
「それは魔物の魔力によって、生み出されている炎だ」
「……なぜそんなこと分かる?」
「この瞳は特別なんだ。スキルや魔物、魔道具などのダンジョン由来のものを全て見通すことができる」
全てを見通す……首輪が付いた状態でも使えるということは、【テイム】と同じ類のスキルなのか、俺の炎と同じでスキル由来ではない力なのか……どちらにしても、敵にしたら厄介な力だ。
「……江梨子、早く抜け出すぞ。麗華やたぬ吉たちのことも探さなければならないからな」
「そこまでバラバラになってしまったのか……だが、そう簡単には抜け出せないだろう。この首輪を破壊するのは容易いことだが、壊した瞬間に、この地下の空間が吹き飛ぶ。他の囚人たちは勿論のこと、私たちだって危ういだろうな」
爆弾か。スキルで人の域を超えても、死ぬときは簡単に死ぬ。明智が良い例だろう。いくら強いスキルを得ても、それで強靭な身体を得ても、人である以上は、死というのは簡単に訪れる。
だから爆弾であろうと、甘く見ていては死んでしまう。それにダンジョン由来の物を見通せるロジャースが居て、その判断をしたということは、爆発イコール死。ということに違いないはずだ。
「どうするべきか……何か考えはあるんだろ? 江梨子ほどの奴が、この虚無に近い空間で、何も考えないわけがない」
「ある……が、私とロジャースだけが助かって、他の囚人たちは死ぬだろう」
「じゃあその作戦で行こう」
「……良いのか悟。ここで囚人たちを見殺しにするのは、必要のない犠牲かもしれない。何か最適解があって、死者を出すことなく、切り抜けられるかもしれない。ここでの選択は、きっと悟の心に残り続ける。それでも、見殺しという判断でいいのか?」
江梨子の真剣な表情に、していた覚悟が揺らぐ。
これれまでも人を切り捨てて来た。だが助けなかっただけで、直接無関係の人を殺したことはなかったかもしれない。直接殺すわけではないのかもしれないが、俺の判断で間接的に死ぬのであれば、俺が殺したも同然のことだ。
他人の多数か、身内の少数……両方を救えるのが最善なのだろうが、今の俺たちにそんな余裕も、実力もない。救えるのはどちらかだけ……それも救えるとは限らない。
「ああ、覚悟は決めた」
「そうか……なら行うとするか」
俺たちは破壊した扉を目指すため、階段を上っていく。
ブルーノの部下を殺し切ったのか、理由は分からないが、敵の襲撃を受けることなく、階段を上り切ることができた。
「じゃあ同時に破壊すればいいんだな」
「……」
「頼むぞ、悟」
江梨子とロジャースの首輪を軽く握る。
【シンクロ】が使えなくなったが、身体の変化と共に強化された膂力は、変わらず残ったままだ。ゆっくりと力を籠めていく。
――ミシミシ
もう少しで壊れる。そして地下に残っている囚人たちは、強力な爆弾によって、その命を散らすだろう。覚悟はできているが、かなり精神的に来るものがあるな。
「はっ!」
握りつぶした。下から突き上げるような揺れと共に、爆弾の者と思われる熱が、俺たちの身体を襲った。
未だに動きを見せないブルーノ。その理由とは
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