第222話 抜けた先
厳重な扉。
軽く押してみるが、鍵が掛かっているのか、単純に重たいのか、どちらでも構わないが、俺の膂力では開けられなさそうだった。
「無理矢理開けるしかないか」
拳に火を灯し、扉に押し付ける。
数秒ほど押し付けていると、扉の一部は赤くなっているため、柔らかくなっているだろうが、俺が熱を感じないのは自分で出した炎だけのため、形を変えることはできない。
「【シンクロ】」
亀之助の水を生み出す力で、熱くなった扉に水をぶっかけた。
それと同時に竜馬の風の力で、圧力を加える。熱せられていた金属に、水を掛けて急速に冷やすと、その過程で脆くなる――この性質を利用して、扉の一部分だけだが、破壊することに成功した。
破壊の道筋が見えたわけだが、想像しているよりも扉は分厚く、想定以上の時間を要することが決まってしまった。その間も敵の襲撃が続くわけで、体力と時間を消耗することは必至。
これで江梨子と合流できなかったら、だいぶ厳しい戦いになってしまうだろうな。ここで退いてしまえば、見える者も見えなくなってしまうため、退くという選択肢は残っていない。
「ふぅ……頑張るか」
時間を掛け、少しずつ扉を削っていく。
その間も背中側から襲ってくる敵は何人もいたが、最後の方は背中を向けたまま、【シンクロ】による“湧沸”で、的確に心臓を撃ち抜くことができるようになった。
技術を磨くには最適の困難だったかもしれない。
一番最初に扉を削った時よりも、自分由来の炎も、【シンクロ】由来の水も、かなり出力が上がっている。しかも想定していたよりも、体力の消耗も小さく、扉の破壊を諦めなくて良かったと思える。
――ビキッ
強固で、俺の侵入を拒み続けていた扉が、遂に悲鳴を上げた。
あと数秒もすれば、この扉は砕け散るだろう。気を引き締めておかないとならない。破壊した瞬間が、一番隙を晒す時。そこを狙われることを、初めから考えておかなければならない。
「“火拳”!」
拳を振り抜く。
その一撃がきっかけとなり、扉が弾けた。それと同時に内から放たれた弾丸が、頬を掠める。運が良かった。いくら肉体強度が上がっていようと、魔道具を使用した弾丸を耐えられるとは限らない。
「【シンクロ】」
“赫猛”を使用して、一気に攻める。
敵の数も、敵の強さも分からないが、ここに居ては弾丸によってハチの巣にされるだけだ。扉の崩壊によって発生した煙を抜け、目視できたのは三人。真横にも立たれていた場合は、もっと数が増えるだろうが、進むうえでの障害は三人だけだ。これなら何とかなる。
「どけっ!」
拳を振り抜く。
“赫猛”によって強化された膂力でのパンチは、大の大人を吹き飛ばす。一人が吹き飛んだ衝撃で、二人の照準がブレる。そんな好機を逃すほど、俺は甘い人間ではない。先刻までの苦行で磨かれた、“湧沸”で残った二人の心臓を貫く。
研ぎ澄まされた感覚は、扉の真横に立っていた四人の存在にも気付いている。心臓を貫いた“湧沸”を、勢いそのままで真横の男たちへと向けた。
貫く。立つ者が俺しか居なくなった頃には、透明だった“湧沸”の水は赤黒く染まっている。
「はぁはぁ……江梨子を探さなければ」
水を支配下から外す。
ただの自然物と化した赤黒い水は、重力に従って地面へと落ちる。
その液体は地面に死を想起させるシミを作り出したはずだが、俺は目線を向けることもなく、前へと進む。江梨子の命が散る瞬間は、刻一刻と迫っているはずだからな。
扉を潜ってから思ったことだが、外に比べてかなり暗い。そもそもこの監獄自体が密閉された空間のため、何処も外ではないというのが正しいのだが、それでも扉を潜る前までは、ある程度の明るさがあった。
だがここはどうだ? 数メートル先が見えなくなる程度の明るさしかない。監獄と言われて、イメージするような場所になっている。
「……火は避けるべきか」
ここまでの敵クラスであれば、よほどのことがない限り、撃退することが可能だ。だがブルーノとやらが何処に居るのかが分からない以上、警戒心はずっと強めておかなければならない。
「……」
――コツン……コツン……
暗闇で足音が反響していると、なんだかホラー映画の導入のような雰囲気が漂うが、ホラーよりも数段緊張感のある場所だ。恐怖心はないけどな。
「――」
人の声のようなものが、遠く、詳しく言えば下の方から聞こえて来た。暗くてあまり見えないが、前方に階段があるように思える。一歩踏み出す。階段だ。
江梨子が居れば最高だが、もし居なかったとしても、レオン政権を倒すための仲間を手に入れられるのであれば、ここまで来た甲斐がある。
コツコツと足音を鳴らしながら、階段を降りていく。
階段は終わり、鼻が曲がるような刺激臭が襲ってきた。不衛生。そう表現するだけでは足りない。人が居るべきではない、最悪の環境と表現しても十分なほどの、悪環境だ。
なぜブルーノは出て来ないのか……
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