第221話 燃えるとうそう
下種野郎どもの背中を追っているが、いつ振り返るかは分からず、一本分曲がり角を挟むしかないため、かなり離されてしまっている。
「……」
何処が目的地なのか。
江梨子たちが収監されている場所を目指しているのであれば、かなり好都合な展開だが、現実はそう甘くないだろう。
「――ッ!?」
反射的に裏拳を放つ。
当然、拳は空振った。なぜ裏拳を放ったのか、自分でも分からない。だが身体が動いたということは、何かそこに居たのは確かだろう。
「おい、誰だてめぇ!」
「チッ」
あまりに速い裏拳によって、風を切る音が鳴ってしまった。
それに気付いた前を歩いていた下種野郎たちに、俺の存在を認識されてしまった。
「――」
顎を狙い、拳を振り抜く。一人の意識は刈り取れた。だがもう一人は間に合わない。
意識が残っている方の男が、首から下げているホイッスルに口を付ける。そして思いっきり息を吸い、全力で吐いた。
――ピッー!!!
「――」
もう一発のパンチで意識は刈り取ったが、侵入がバレてしまった。
こうなってしまえば、隠れている意味はない。江梨子を探し出すことに、全力を注ごう。
「あいつだ!」
「かなり早いな」
笛の音を聞いてやってきた、複数の看守が道を塞いでいる。
肌で感じるものが、こいつらは強者ではないと言っているため、このまま押し通るのが最適解だ。
「【シンクロ】」
“赫猛”を使い、男たちの下へと駆ける。
そのまま突っ込んでくるとは、誰も思っていなかったのだろう。迫り来る俺に対して、男どもは狼狽しているだけだ。
「はぁぁッ!!」
シンプルに拳を振り抜く。
炎を纏えば、もっと簡単に倒せるんだろうが、今後戦いが続くことを考えると、こんな相手に消耗するわけにはいかない。
「はぁはぁ」
追加で増えたこともあり、殲滅するのに五分も掛かってしまった。
戦場における五分は短いのかもしれないが、敵地での五分は命取り。聞こえて来る敵の増援の音に、かなり気が滅入る。
追手のことは走りながら考えればいい。とにかく足を動かして、江梨子のことを見つけさえすれば、この圧倒的なアウェイな場所でも、勝利を掴むことができるだろう。
そんな希望を探し出すため、敵しかいない監獄を走り回る。
自分が出るまでもないと舐めているのか、何か出て来れない理由があるのか、どちらにしてもブルーノとやらが出て来ないのは、俺にとってかなりの幸運だ。
「お前が侵入者だな!」
「邪魔すんな!」
進行方向を敵が塞いでいる。
背中から聞こえて来る追手の声に、判断が鈍りそうになるが、絶対に“火拳”は使わない。その覚悟の下、俺が使ったのは何時ものように【シンクロ】だ。借りた力は“赫猛”であり、近接戦でゴリ押す。
「どけェ!」
パンチが一人の男を吹き飛ばす。生死は分からないが、少なくとも意識は刈り取れたはずだ。
あとは二人。こちらに掌を向けている男と、槍の先端を向けている女。先に取るべきなのは、男の方だ。それがどんな攻撃であれ、遠距離攻撃持ちを後に残しておくと、厄介なことになる。
「チッ、近距離もそこそこできるのか」
全力で拳を振り抜いたが、顔を反らされてしまった。
俺に残ったのは、敵に隙だらけの胴体を晒しているという現状のみ。男の掌にできた火の球もそうだが、向けられていた槍の先端も、俺の命を刈り取らんと近付いて来ている。
世界がゆっくりと進む。俺という存在が拒んでいるのだろう。命を散らすという、最期の瞬間を。であれば、何が何でも切り抜けなければならない。
「――」
火達磨になった。
敵ではない。俺が、火達磨になった。
放たれた火の玉を呑み込み、向けられた槍を溶かす。それだけの熱に包まれていながら、俺は一切の熱を感じていない。これは身体の変化によって齎された炎の力を、全身から放出しているに過ぎず、拳に炎を纏うのと違って、これは汗と同じで殆ど体力を消耗せずに済む。
「ふぅ」
火は邪魔した男女を巻き込んだところで、完全に鎮火した。
これは内部にため込んだエネルギーを放出することで、ようやく使うことができる力なため、連続使用はできないだろう。まあ体力の消耗を覚悟すれば、できないことはないがな。
「あいつだ!」
「チッ」
前方を拒む者が居なくなっても、後方から追いかけて来る奴らは、畑から採れる野菜の如く湧いて出て来る。もっと距離を取って、どこかで撒きに掛からなければ、ジリ貧で捕まってしまう。
「はぁはぁ」
走り続けている弊害で、呼吸も乱れ始めている。
足を止めれば、直ぐに呼吸を整えられるが、そんな猶予は残されていない。俺が江梨子を救いに来たということがバレているのであれば、処刑時期が早まっても可笑しくはない。
「ここは――」
一時間に及ぶ逃走劇の末、俺が辿り着いたのは、強力な何かが閉じ込められているとしか思えない、とても厳重な扉の前だった。
悟は新技を獲得しました。
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