第220話 レオン政権の暗い部分
コツコツと積み重ねた結果、道は開けた。
運が良かったのか、そもそも人気のないところへと出れたのか、理由はまだ分からないが、誰の目にも留まらない場所へと出ることができた。
だが死角に入っているわけではなく、人と偶然出会ってしまう可能性は高いままなのは変わらないため、何処かへと隠れなければならない。
「……」
近くに建てられた建物の影に隠れ、内部へと潜入する。
人以上の感覚を持っている俺が、人の気配を感じ取れていないから、俺の存在を感じ取っている敵は居ないはずだ。
何となく手前にあった部屋に入る。
大量のファイルが保管されている部屋だ。そして怪しさしか漂わせていない金庫。書類しかない部屋での金庫は、最重要機密が入っているのが相場だが、今の俺に開ける手段は存在していないから、無視することしかできないな。
代わりに得られる情報は、そこら中に広がっているため、棚に入ったファイルへと手を伸ばす。
「――」
廊下から聞こえて来た声に、伸ばした手を引っ込める。
まだ何も触れていないから、姿を隠すことができれば、俺の存在に気付くことはないはずだ。その姿を隠す行為が、一番難しいということを除けば、比較的簡単な業務だ。
息を殺し、デスクの裏にある入り口から見た時の死角へと隠れる。扉が開かれた。そこに立つ人の気配は感じ取れるが、強者特有の覇気というものは感じ取れない。制圧しようと思えば、容易に制圧できる相手だろう。
だがそんなことをしてしまえば、今後の隠密行動に支障が出てしまうため、姿が露見するまでは、隠れる方向でいいだろう。
「それにしても、ブルーノ様はどういう考えなんだろうな」
「御上の考えを、下っ端である俺たちが分かるはずないだろ。俺たちはただ命令を遂行して、甘い汁を啜っていれば良いんだよ」
「それもそうだな」
足音が近付いて来た。
念のため拳を握る。もし見つかってしまったとしても、声を出させてはならない。声さえ出させなければ、時間を稼げる。逆に声を出されてしまえば、こいつらを制圧しても発見されたも同然だ。
足音は段々と近付いて来て、隠れているデスクの一個手前のデスク前で止まった。そして置かれたファイルをペラペラと捲っている。
「それにしても、汚い部屋だなぁ。掃除でもしていくか?」
「止めとけよ。こんなところに長居なんてしたくねぇだろ」
「違いねぇ。奴隷どもの情報なんて、キモイだけだな」
ガハハと笑う下種びた奴らに、メラメラと怒りが湧いて来る。
確かに人の権利を保障する法は消え去ってしまったし、命はとても軽くなった。だが奴隷なんてものは、長い人類史の中でも大きな汚点だ。そんなものを再び用いるなんて、許しがたい行為だろ。
奴らの声が遠のいていく。そして扉が閉じられた。
怒りは一度置いておき、奴らが何を持っていったのかを確認する。デスク上に開かれた状態で置かれているファイル。書類を透明なフィルムへとしまうタイプのファイルのようだ。
一枚だけ空になったフィルム。奴らが持っていったのは、そこに入っていた書類だろう。
「何が入っていたんだ」
持っていった書類の予想を行うため、前後の書類を確認する。
一枚前のところには、人の写真と経歴――履歴書のようなものが入っていたのだが、一番下部の項目には、収監理由と死亡日が書かれていた。
「――」
空白の次のページも同じように履歴書のような紙が入っていたのだが、名前が佐藤江梨子――エリザベスの本名が書かれており、びっしりと書き込まれている収監理由と共に、空白になっている死亡日があった。
「まさか――」
俺の読みは当たった。
奴らが書類を持っていったのは、死亡日を記入するため。このファイルは監獄内の戸籍のようなもので、この順番で処刑が行われているということだろう。
現に、空白以前のページには、全て死亡日が記入されており、空白以後、江梨子以降のページは、死亡日が全て空白となっていた。
どれくらいのスパンで処刑が行われているのかは知らないが、あまり時間が残されていないのは、確かなことだろう。
拳を握る力が強くなる。垂れた血が正気へと引き戻してくれるが、内で孕んだ熱が冷却されることはない。
「最優先事項は、江梨子の奪還だ」
部屋を後にした。
証拠隠滅はしていない。あまり時間が残されていない以上、隠れている暇なんてないのだからな。
建物を燃やそうとも思ったが、ここが外界から密閉されている空間のため、不用意に二酸化炭素を増やすのはよろしくないだろうと踏みとどまった。
「待ってろ、江梨子」
隠れることをせず、廊下をまっすぐに進んで行く。反響して聞こえて来る、先刻の下種野郎どもの声を追って。
収監者の奴隷化は、レオンによる政策です。
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