第219話 侵入を試みる
店長の喫茶店を後にした俺は、江梨子が収容されているであろう監獄へと向かっていた。そこへ近付くにつれて、俺という存在を包み隠してくれる大衆は数を減らし、監獄が視界に入ってきた頃には、周囲に人の気配は消えてしまった。
しかし人の気配がなくなったということは、周囲の目を気にしなくていいということ。監獄内からの監視だけを気にしていれば、発見される可能性は限りなく低いだろうから、逆に簡単になったかもな。
それにしてもあの監獄は、どうやって作ったんだろうか。人工的に作られたであろう水堀に囲まれて、強固であろう外壁が監獄内を完全に密閉している。
「どうやって攻略しようか……」
一番最初に候補として出て来るのは、水に潜って地中から潜入することだ。この作戦の難所を挙げるとすれば、水中に潜る以上、制限時間があり、潜入までにかなりの時間を要してしまう。それに地中からの潜入になるため、敵の前に出てしまう可能性も捨てきれないというところだ。
もう一つは外壁を破壊して、目立ちながら潜入すること。これに関しては隠れるのは不可能なため、正面から敵の軍勢と戦い抜く必要がある。雑魚敵たちはどうとでもなるだろうが、問題は雑魚の邪魔が入りながら、親衛隊と戦わなければならないという点だ。
まあ後者は敵の戦力が分かっている時であれば、良かったのかもしれないが、敵の戦力が分からない今回は、前者の潜入方法が適しているだろう。
「【シンクロ】」
それに亀之助という従魔が居る俺にとって、水中を進まなければならないという点は、そこまでデメリットにはならない。
亀之助の力を借りながら、水中へと落ちる。すると身体にまとわりつくはずの水たちは、俺の身体を避けるように離れて行った。
「水中に罠を仕掛けているとかはないのか……まあ疑いながら行くのに、損はないか」
監獄を目指して水中を進んで行く。水中と言っても、水底を歩いているだけなので、困るようなことはない。ただ地上を歩くのと同じように足を動かせば良いだけ。直ぐに監獄の地下へと辿り着けた。
「問題はここからか」
下手に土を掘って、相手に感知されてしまえば、わざわざ水中を進んだ意味がなくなってしまう。だから慎重に進んで行く必要があった。
「取り敢えず濡らしてみるか。【シンクロ】」
たぬ吉から“湧沸”を借り、水を押しのけていることで露出している監獄の地下部分を削っていく。
「……」
ちょろちょろ……とまではいかずとも、俺が使いこなせる水力では、到底削り取れない。もっと大胆に削りに掛からなければ、日が暮れるどころか数週間かかってしまうだろう。
「……【シンクロ】」
借りた力は悟空の“赫猛”。
いたってシンプルな答えだ。底上げされた身体能力で、全力のパンチを放つ。拳が痛くなるかもしれないが、これ以上の威力を持つ攻撃を、俺は持ち合わせていない。
「――」
振り抜いた。痛い。だがこれまでに味わってきた痛みに比べたら、全くもって痛くないと評することができる。それに味わった痛み以上の成果は得られた。
俺が拳をぶつけた場所は、先刻“湧沸”によって削った量の数千倍以上抉れている。時間は掛かってしまうだろうが、日が暮れる前までに削り切ることができるはずだ。
拳。拳。拳……といった具合に両腕でパンチを放ち続けて、三時間。大人一人が快適に埋まることができる分だけを抉ることができた。埋まると快適が同居することはないだろうが、そのくらい開けているということだ。
その穴へと入り、上を見る。側面と変わらず土があるわけだが、同じように殴りつけるわけにはいかない。崩落する可能性もそうだが、横を殴るよりも敵に感知されやすくなってしまう。
「どうするべきか……」
考えている間も時間は刻一刻と過ぎてしまうため、時間が掛かることは承知で、“湧沸”をぶつけてみる。削れた土が顔へと降りかかってくるが、気にせず削っていく。
数時間。ただ一点を狙い続けた結果、穴が開いた。降り注ぐ光が目を刺激し、涙が零れてしまうが、これは嬉し涙でもある。
「……」
監獄内と繋がったことで、一切の音を出せなくなった。
問題はここからだろう。“湧沸”であれば、そこまでの音を出さずに穴を広げることは可能だが、時間が掛かってバレてしまう可能性が高まる……まあこんなことを考えている暇があれば、身体を動かすべきか。
糸数本分の穴を作るのに数時間――大人一人分の穴を開けるためには、どれほどの時間が掛かるのだろうか……。
「ふぅ、あと少しか」
監獄内の情報は、一切外部に出ていません。
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