第215話 親衛隊
勝利への道筋は、あまり見つからなかった。
だが勝たなければ、未来を切り開くことはできない以上、戦わないという選択を採ることはできない。
「悪いが、俺の存在がレオン側の人間に露見するまで、この場所を借りるぞ」
「構わないよ」
「じゃあ地上に案内してくれ」
「分かった……念のため、帽子でも被っておきなよ」
「そうだな」
クソ医者から帽子を受け取り、地上へと出た。
注ぐ日差しに目が眩むが、一瞬で適応して周囲の情報が一気に入ってくる。要塞内に広がっている光景は、現代の高層ビルなどの建築はないにしろ、近代レベルの建物は多く建っていた。
こんな世界になっても、これだけのコミュニティを抱えられるのは、レオンの才能と評価していいだろう。スキルの力なのかもしれないが、それも含めての才能だ。
目的もなく道を歩いているが、周囲の人間の表情はとても穏やか。
魔物の存在を知らないかのように、ただ以前のような平穏を享受している人間にしか、できないであろう柔らかな表情に、俺は顔を顰めそうになってしまう。
外の惨状を知っている身からすると、ここでの平穏はレオンという圧倒的な暴力装置によって作られた、仮初の存在でしかないと思ってしまう。
まあ変革以前も、日本の外へと出れば、同じような惨状が色々な場所で広がっていた……結局は、自分が当事者になってしまったからこそ、このようなことを考えてしまうのだろう。
「明後日はレオン様の生誕祭だねぇ」
隣を通り過ぎた女性が口にした言葉に、思わず噴き出しそうになった。アイドルでもやっているつもりか、とツッコまなかった自分を褒めてやりたいくらい、レオンのやっていることは面白かった。
一国の首相が誕生日を祝わせる……というよりも独裁者が無理矢理祝わせていると表現するべきだな。
「親衛隊も全員集まるみたいだし、目に焼き付けておけよ」
「うん!」
親衛隊……きっと【皇居ダンジョン】への侵入を許されている、レオンの側近集団だろう。そんな親衛隊という言葉に対して、子供は目を輝かせている……思っていた以上に、ここはレオンによって纏められているようだ。
レオンに反抗的な存在を探し出して、協力体制を築かなければ、物量で磨り潰されるのが関の山だろう
「ペドロ様よ!」
少し離れたところから聞こえて来た声に、思わず帽子を深くかぶる。その人名に心当たりはないが、様付けで呼ばれている以上、組織の中枢に食い込んでいる人間に違いない。
そんな考えの下、限りなく気配を薄くする。ここでバレてしまえば、逃げ出すのは困難。しかしここで急旋回するのも不自然なため、すれ違うしか選択肢は残っていない。
二十メートル、十、九、八……三、二、一、ゼロ……気付かれなかったようだ。その瞬間から歩くスピードを少し上げ、できるだけ距離を取れるようにする。
「ちょっと待て。今すれ違った帽子の男、止まれ」
「――ッ!」
バレた。
脱兎が如く、一気に加速する。
俺が悟という人間であることがバレていないにしろ、独裁的な場所で疑われてしまった時点でアウト。捕まってしまえば、再起できる可能性は限りなくゼロに等しくなってしまう。
人混みが歩みを邪魔して来る。野次馬でしかなく、事情も知らない一般人なんだろうが、日本の空気感が俺の身体を捕えようとしてくる。
「待つんだ」
「――」
一度開いた距離が、段々と近付いて来ている。
どこかで撒きに掛からなければ、直ぐに追いつかれてしまう。そんなことを考えていると、丁度いいところに路地があった。
曲がる。一気に加速し、不規則に曲がりながら進む。
足音も痕跡も残さず、奥へ奥へと進んで行った。
路地に入ってから三分くらいが経過しただろう。ようやく足を止め、後ろを確認する。人の気配は感じられない。敵地であることに変わりはない為、気を抜くことはできないが、最大限に警戒を強めておく必要はなくなっただろう。
「厳しいな。これだけ人口密度の高い場所で、連絡も取らずに合流するのはかなり難しいな。逆に騒ぎを起こして、目立つ行動でもするか?」
そんな独り言をブツブツと洩らしながら、さらに人気のない場所へと進む。諦めたのかどうかの確かめようがない以上、急いで別の場所から大衆に紛れなければならない。
そして数十秒、路地を抜けた。
路地から出て来た俺に、一瞬だけ視線が集まるが、直ぐに戻った。そのまま大衆の流れに乗り、再び気配を消す。
「……」
ペドロ。
すれ違った時に、一瞬だけ姿を確認したが、あれはレオンには劣れど、化け物と評価していい実力者だ。
腰に差していた剣も、身に付けていた純白の鎧も、世界で戦える業物だった。《《彼女》》と正面から戦うとなると、苦戦を強いられるだろう。
病院を出た時は快晴だったが、多くの雨を降らしそうな暗雲が空を覆おうとしていた。
親衛隊
レオン直轄の武力部隊。
ペドロは親衛隊の部隊長。
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