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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第214話 病室から

 目を開けた。

 見たことのない天井だ。冒険者になって以来、何度もこの発言をしてきたわけだが、全く心当たりのない天井を目にしたのは、久方ぶりかもしれない。

 

 そもそも気絶した理由も分からなければ、ここが何処なのかという見当もつかない。


「やあ、起きたようだね」


「――ッ!?」


 江梨子でも麗華でもない声に、反射的に跳ね起きた。

 ベッドに寝ていたようで、跳ね起きたと言っても、上半身を起こしただけだ。それでも警戒心から、いつでも拳に炎を灯せるようにしたが、必要なかった。


「クソ医者」


「久しぶりだね。全く病院に来なくなったから、強くなったのか、死んだのかの二択で悩んでいたよ」


 ベッドの隣に置かれた椅子に、腰を下ろしていたのは、冒険者になってから何度もお世話になった病院の医者だ。

 クソ医者だの、イカレ医者だの呼んできたが、医者としての技量は確かであり、俺が罵声を浴びせているのは医者あるまじき性格にだ。


 ウチで死ぬ死なないを考えるのであれば、俺も文句を口にすることはないが、こいつは思ったことを全て――もっと過激なことを考えていることも捨てきれないが、一般的に口にするべきではない発言を容易に吐き出すため、クソ医者と呼ばれても仕方ないはずだ。


「それで、記憶が飛んでいるんだが、俺の身に何があったんだ?」


「簡単に言うと、ここの入口に仕掛けられた地雷を踏んで、衝撃で意識と記憶を奪われたんだろうね」


「地雷か……やはり侵入してくることは、予想していたってことか。それで、お前はどっちなんだ?」


「どっち、とは?」


「味方か敵か、それしかないだろ」


 ここが要塞内ということは、クソ医者が敵であるという可能性の方が高いだろう。元々医者という顔しか知らないわけで、本性や思想は一切知らない。平和な世界であれば、医者という肩書である程度の信頼を置いても良かったのかもしれないが、こんな世だ。何も知らずに信頼を置くことは避けるべきだろう。


「どちらでもないね。私は世界が変わろうと、医者でしかなく、病人やけが人の味方。そこに身分も立場も関係ない。君を売るつもりもなければ、情報を与えるつもりもない……まあ持っている情報なんて、殆どないけどね」


 医者の鑑のような発言に、危うく尊敬の念を抱いてしまいそうになった。だがこいつはクソ医者。何か裏が存在しているはずだ。


「……本音は」


「危険な目には遭いたくないからね」


 やはり裏があった。だが攻めるべきではない。

 人は誰しも自分が大切だ。自分の命を賭けて、人の命を助けようとする人だって、己の正義感を満たすためにやる。結果に善悪はあれど、人に行動を齎すのは、命を守るためや欲求を満たすためでしかない。


「そうか。まあ売らないのであれば、情報が貰えなくても、文句を言うつもりはない。ただ聞いておきたいんだが、俺の従魔や仲間の安否はどうなんだ?」


「仲間については、誰のことを指しているのか分からないから、当然知らない。そして従魔に関してだが、私が君のことを発見した時には既に、その姿はなかったよ」


「そうなのか……」


 完全にはぐれてしまった。

 江梨子や麗華が簡単に捕まったり、くたばったりするとは考えにくいが、この要塞の王であるレオンの実力を鑑みると、ないと言い切ることはできない。


「なあここはどこら辺にあるんだ?」


「ここは地下。私が管理する病院の地下にある部屋で、ここを知る者は限られているから、バレることは心配しなくてもいいよ」


「……あ? ここに居て良いってことか?」


「まあ見知らぬ人間であれば、放り出していただろうけど、君は顔見知りだ。完全に敵対するまでは、ここに居ていい」


「……お人好しだな」


「まあね。こんな世になっても、医者としての役割を全うしているくらいには、お人好しだよ」


 日本政府による法や秩序が崩れ去ったここ日本において、医者などの特殊技能を持つ人間は、希少な存在と言って良い。やろうと思えば、法外な報酬を求めることだって許される。それなのに患者に寄り添って、治療をするこいつは、かなりのお人好しだろう。


「それで、君はこれからどうするつもりだい?」


「レオンから皇居を奪い取る」


「……皇居って言うと、【皇居ダンジョン】のことかい?」


「ああ。江梨子が大きな敵と戦っていくうえでは、【皇居ダンジョン】の奪還は必須だと言っていた」


「その江梨子、というのが誰なのかは知らないけど、その【皇居ダンジョン】の奪還が必須というのは、間違ってはいないだろうね」


「【皇居ダンジョン】がどんなダンジョンなのか知っているのか!?」


 世界がこうなる以前は、ダンジョン協会と【先駆者】によって、情報を完全に遮断していた。となると、レオンによって押さえられてから、知ったことになるが、わざわざ重要機密を漏らすような奴か?


「宣伝していたからね。【皇居ダンジョン】の魔物は全て異常(イレギュラー)であり、倒せばスキルを手に入れられると」


「――なるほど、秩序よりも戦力を優先したのか」


 【先駆者】たちが情報規制を行っていた事にも頷ける。

 スキルを必ず手に入れられると判明すれば、冒険者だけでなく、一般市民ですら暴徒と化すだろう。レオンは爆弾のような情報を餌にして、急拡大を図ったという訳か。


「……つまりここの戦力は、【皇居ダンジョン】によって強化されているということか?」


「まあ一部の人間だけみたいだけどね」


 ああ、一部だけなんだ。とはならないよなぁ。

 レオンクラスでないにしろ、それに匹敵する実力者が複数いる。対する俺たちは、江梨子や麗華は居るものの、多勢に無勢。最悪なことにバラバラになって、再開できる保証はない……本当に勝てるのか?



悟の孤独な戦いが、今始まりました。


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