第199話 要塞の王
意識ははっきりしているが、身体は動かせない。
殴り飛ばされた時に生まれたエネルギーが強力過ぎて、自身で生み出せるエネルギーでは対抗できないのだろう。
――ドォォンッ!!!
何かに激突したのだろう。痛みはなくとも、衝撃は走る。
身体が揺れ、頭が揺れる。何とか意識は保っているが、まともな思考を練るのに、数秒を要すだろう。
その数秒間。男にとっては十分な時間となったのだろう。俺は遥か遠くへと殴り飛ばされたはずなのに、男は既に眼前へとやって来ていた。
「頑丈な身体だね」
かなりの距離を移動してきたはずなのに、男は一切呼吸が乱れていない。そこに居ることが至極当然のような、当たり前であるかのような普通さを纏っている。
いくつかのスキルを同時に使用しているんだろうが、あまりに自然過ぎる。
スキルを使用すると、当然体力を消耗する。それが同時並行で複数のスキルを使用するとなると、消耗度が跳ね上がるのだが、アイツからは体力を消耗した疲労というものを、一切感じられない。
「……どんなスキルを持っているんだ?」
期待はしていない。アイツが驕っているのであれば、もしかするかもしれないため、念のため問いかけてみた。
「敵に自分の手の内を明かすほど、俺はバカじゃないぞ」
「それは残念だ」
まあ情報は得られなかったが、アイツは油断するような奴ではないということが分かっただけでも、収穫だと考えよう。
攻撃して来る気配がないため、しれっと立ち上がってみる。攻撃は来ない。心のどこかでは俺のことを舐めているのか、力の行使にインターバルを要するのか、どちらにしても勝機があるとすれば、そこにあるだろう。
「……“狐火”」
拳を燃やす。
敵が圧倒的な力を持っていようと、攻めなければ勝利はもぎ取れない。だから攻める。
跳躍。敵は動いていない。余裕そうな表情を崩すことなく、変わらない笑みを浮かべている。カウンターが待っているかもしれない。しかし一度跳んだという事実を巻き戻す手段は、俺の手の内には存在しておらず、そのまま拳を振り抜くことしかできなかった。
“狐火”を纏った拳を、地面を蹴った際のエネルギーと共に振り抜く。拳は敵の頬を捉えた。全力で振り抜いたつもりだが、男の身体は吹き飛ぶどころか、仰け反ることもない。ただ顔を斜めにすることしかできなかった。
「良いパンチだけど、俺には効かないみたいだね!」
カウンターでパンチが飛んできた。
超至近距離だったことで、俺の反射神経では避けきれず、拳は俺の頬を捉えた。行動的には全く同じもののはずだが、俺の身体は地面へと叩きつけられている。
それの答えはとても単純な物。ただ俺とアイツとでは実力に差があり過ぎるということだけだ。土埃に埋もれ、笑っているアイツのことを見上げている俺の姿は、とっても惨めなものなのだろう。しかし諦めるつもりなんてさらさらない。
「想像以上に頑丈だよ」
「お前のパンチが弱いだけだろ」
「煽りかい? でも弱者の煽りなんて、惨めなだけだろう?」
煽り耐性もあるみたいだ。ここで激昂するような奴であれば、どうとでもなったかもしれないが、難しい相手だ。
「【シンクロ】」
赤いオーラが溢れ出る。
身体能力を上げたところで、アイツ相手にどこまで通用するかは分からないが、やらないよりはマシだろう。拳を握る。
「――おっと」
アイツは掌をこちらではなく、別の場所へと向けた。
それは要塞があった方向だ。刹那、吹き飛ばされそうになるレベルの、自然現象では考えられない突風が吹き荒れた。
しかしアイツの髪は一切揺れることなく、凪いでいる。そこに風など吹いていないかのように、髪は垂れ下がったままだ。
「それにしても、こんなところまで飛ばすなんて、化け物じみた膂力の持ち主か?」
「そっくり返すが、そんな場所まで短時間で、さらに仲間を連れて移動して来るなんて、なんて化け物だい?」
宙に浮かぶアイツと対峙しているのは、当然江梨子だ。その傍には従魔たちや麗華の姿があり、戦況が変わったと見ていいだろう。
「……君らに教えておこう。俺はレオン。あの《《要塞の王》》だ」
急な自己紹介に、時が止まる。
だがそれも一瞬。俺たちの総攻撃がアイツ――レオンへと襲い掛かった。拳に火を纏い、跳躍と振り抜き。時間にして一秒にも満たないだろう。
「――ッ!?」
空振り。俺の攻撃だけでなく、江梨子や麗華、たぬ吉たちの攻撃も空振っている。そもそもレオンは姿を消していて、攻撃が命中したかどうかは、己の感覚でしか分かっていない。
しかしレオンの実力から考えると、避けられたという確信が、俺たちの共通認識としてあった。
「……スキルが分からない以上、不用意に攻めるのは得策ではないだろうな」
江梨子ですら弱気。それがレオンの異常な実力を物語っているだろう。
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