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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第192話 優しい風

「……ここがダンジョンじゃなくて良かった」


 ダンジョンであれば、ある程度の不壊性があって、雪村の“天翔雷轟(てんしょうらいごう)”のような上澄みも上澄みが放つ高威力技でしか穴を開けることができない。

 しかしここはダンジョンに似ているとはいえ、地下に作られたアリの巣に過ぎない。


「……麗華の身体を乗っ取っておいて、この体たらくとは、やっぱり寄生系の魔物は弱いな」


 地面から飛び出した江梨子。

 いくら麗華の力を十全に扱えていないからといっても、その強度はかなりのもの。【先駆者】である江梨子ですら、砕くことは難しい。だから彼女は地面を掘った。


 ここがダンジョンであれば、地中を繊細に掘ることは難しかったかもしれないが、ここはダンジョンではなくアリの巣。江梨子は精神をすり減らすことを許容すれば、一瞬で掘り進めることができる。


 それを行った結果、寄生花(パラサイトフラワー)の不意を突き、一気に距離を詰めることができた。


「その身体を返してもらう」


 吹き荒れる突風。いつもであれば切れ味の鋭い、風の刃を含んだ嵐を発生されていたが、今回の突風は違う。麗華の身体を包み込むような、荒々しさの中に確実な優しさを感じさせるものだ。


 麗華の頭部に咲いていた花が、ぽっきりと折れた。だが寄生状態が解けたわけではない。張り巡らされた根を取り除かなければ、麗華が寄生花から解放されることはないだろう。


「私は【先駆者】だ。様々なダンジョンに潜り、様々な戦利品を得た。当然、寄生する魔物を討伐できる道具も得ている」


 それは俺を安心させるためか、そもそもブラフで寄生花が自分の意思で退くことを望んでいるのか、どちらにしても結果が全てだ。

 寄生花の本体であろう根が、麗華の頭から離れた。麗華という圧倒的な力を失った寄生花は、当然風の餌食となる。


 江梨子はバラバラになった寄生花には目もくれず、全身の力が抜けたように倒れる麗華の身体を受け止めに行った。ここからでは麗華の生死は分からない。


 しかし江梨子の反応的に、最悪の事態は免れることができたのだろう。それにしても俺は何時になったら、ここから降りれるんだろうな。


「ポン!」


 たぬ吉たちが寄生花に操られた麗華によって生み出された氷の壁を砕いて、江梨子の下へと合流したようだ。それにしてもあの氷の壁を砕けるようになるなんて、ウチの子たちもかなり成長したなぁ……それに比べて俺は同じ氷相手に身動き取れず、助けを求めることしかできない……弱いご主人だなぁ。


「ああ、かなり弱ってはいるが、命に別状はない」


「ポン!!」


 たぬ吉は喜びを全身で表現しながら、江梨子と麗華の周りをグルグルと回っている。

 楽しそうだなぁ。

 なんだか世界が変わる前に戻ったような感想を抱いてしまった。俺たちに平穏が返ってくることはあるのだろうか?


 豊臣を倒さない限り、完全なる平穏が返ってくることはないだろう。それに平穏が帰って来たとしても、以前のような文明が完全に戻るとは思えない。今の世、力なき科学者や技術者が生き残れるとは思えないし、様々な文献、論文だって消失しているはずだ。

 きっと戻って来た平穏で構築される文明は、スキルの存在を元に作られる全く新しい文明になるのだろう。


 そんな風に未来を考えている間も、俺は氷によって壁に磔にされたままだ。いくら身体が丈夫になったからと言っても、耐寒能力には限界がある。つまり寒い。風邪をひいてしまいそうなほど、滅茶苦茶寒い。


「あのー」


 俺の声が届いたのか、江梨子やたぬ吉たちが驚いたようにこちらを見上げた。その表情は何処か気まずそうで、まるで俺のことを忘れていたかのような反応だ。そんなわけないはず……ないはずなんだ。


「……なんかごめん、悟」


 うん、忘れていたみたいだ。

 何となく察してはいたが、ウチの従魔たちも俺のことを忘れるなんて、どういうことなんだい? えっ、麗華のことが心配過ぎて、俺のことはすっかり忘れていた? ああ、そうですか。まあ俺も麗華のことは心配していたから、その気持ちは分かるが――


「悟、忘れられていた事には同情するが、ブツブツと独り言を言うのは止めておいた方がいいぞ」


「……口に出ていたのか」


「ああ、一人コントのような独り言は、ちょっと痛いぞ」


「うぐッ――」


 浮かんできた江梨子の言葉は、俺のメンタルを切り裂いた。

 社畜時代は、この程度の言葉でメンタルが崩れることはなかったのだが、周りに恵まれてしまったが故に、メンタルが弱くなってしまったのかもしれない。


「ほら、元気を出せ。麗華は無事だったんだからな」


「……それもそうだな」


「今度こそ、皇居を目指すぞ」


「ああ」


 一瞬にして氷が砕け散った。

 もしかして江梨子であれば、あの氷の壁も簡単に砕けたのでは? 江梨子に聞く勇気はなかったため、この疑念は心の奥底へと封じ込めた。だって俺がピンチに陥っているのに、力を抜いていたなんて思いたくないからな。



次回で【第2章 千葉攻防戦】が終わります


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