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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第187話 音に引き寄せられる

 固い外骨格が砕けるような音が鳴り響く。

 竜馬の風による加速と、悟空の“赫猛”状態が合わさることによって、地獄兵蟻(ヘルソルジャーアント)の強固な外骨格にも打ち勝てる。それは朗報と言って良いだろう。


「畳みかけるぞ!」


 外骨格が砕けたからと言って、地獄兵蟻を倒したことにはならない。

 ここからが肝心だろう。感覚的に、砕けたのは地獄兵蟻の腹部あたりだ。つまり地獄兵蟻の体勢が元に戻ると、せっかく装甲を砕けた部分が隠れてしまうということ。せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。


 たぬ吉、亀之助による巨大な“水弾”による遠距離攻撃。タマの三味線による音の斬撃。竜馬の風で加速した悟空の拳。そんな多種多様な攻撃が、地獄兵蟻の外骨格が砕けた腹部へと、一斉に襲い掛かる。


 地獄兵蟻の悲鳴のような音が、耳を傷めつけて来る。勝利できることを考えれば、必要な犠牲なのかもしれないが、耳栓でも付けるべきかもしれないな。


 そして一斉攻撃が始まってから三十秒ほどが経過した頃、悲鳴のような音と変わって地獄兵蟻が倒れたであろう音が耳へと入って来た。


「地獄兵蟻にも勝てるとは、想定以上の成長をしているな」


 気付いていたが、江梨子はだいぶ前から俺たちの後ろに立っていた。

 もし俺たちがピンチになっていたら、直ぐにでも助けに入って来てくれただろう。だから安心して、戦うことができていたと言っても過言ではない。


「しかし地獄兵蟻の実力的に、女王個体の力は幻覚龍イリュージョンドラゴンクラスの可能性が高いぞ」


「幻覚龍ってマズイだろ」


 幻覚龍。【魔境群馬ダンジョン群】の最終階層を守っていたボスだ。それクラスの魔物がここの最奥に居るとなると、俺たちだけで倒し切るのは厳しい。攫われたであろう麗華が加わって、勝機がある。そんなレベルの相手だ。


 それに幻覚龍と違って、手下も多数いるはずだ。そうなってくると、こちらの戦力も分散されることになって、江梨子一人で女王と戦う可能性だって大いにある。

 その場合、俺と従魔たち、助け出せた場合は麗華も含めて、早く雑魚を倒して、女王との戦いに加勢することが、最適解になってくる。だからもっと早く倒せるようにならなければならないだろう。


「眷族を強化する方面に特化している可能性も大いにある以上、敵の親玉の評価は過大評価にも過小評価にもなる。だから今は目の前の敵と麗華の奪還だけを考えて、先のことは後に考えればいいだろう」


「……そうだな」


 地獄女王蟻(ヘルクイーンアント)のことは後に考えるという共通認識を持った俺たちは、麗華を探し出すために、アリの巣穴を進み続けた。


 地獄兵蟻との戦いから、一時間程度が経過した。かなりの距離を歩いているにも拘らず、アリと出会うこともなければ、分かれ道に出会うこともなく、ただ一直線に続く暗い道を進んでいた。


 敵と出会わなかったとは言え、カサカサという足音や特有の匂いは変わらずしていたため、精神は擦り減り続けている。ここで強敵が現れると、かなり精神的にキツイものがあるだろう。


「悟、そういったことを考えることは、フラグを建てるんだぞ」


「顔も見えないのに……やっぱり心が読めるんだろ」


「なんとなくだ。心を読むような、便利なスキルは持ち合わせていないよ」


 疑念の目で見つめるが、この暗闇だ。江梨子は気付いていないだろう。そもそも気にしている暇はない。先ほどまで聞こえていたカサカサ音。これが確実に大きくなっている。


「フラグは回収されたようだな」


「建ててないって」


 確かに心の中ではフラグが建ちそうなことを考えたが、こういうのは口に出したからこそ、フラグが建つってものだろう。だから今回に限っては、フラグが回収されたわけではない。と心の中では抗議させてもらう。敵を前にしているわけだから、口には出来ないけどな。


 眼前に居るであろう存在は、殺気を駄々洩れにして立っている。地獄蟻(ヘルアント)とも地獄兵蟻とも違う、強力で濃密な殺気を洩らしているそれは、地獄兵蟻よりも上位の個体であることは、江梨子に聞かずとも分かる、強力な個体だ。


「こいつは私でも油断はできない」


 急な突風。俺たちへの配慮がない、触れただけで肌が痛くなるような、荒々しい風だ。それが前方に居るであろう敵に狙いを定めて、一点集中で吹き荒れている。


 巨体が吹き飛び、壁に激突したような音が耳へと入る。勢いと重量のある巨体が成した轟音。それがアリの巣という閉鎖空間に反響した。それは入口から最奥まで、響いていてもおかしくはない。


 予想は当たってしまったようだ。

 今の轟音は最奥まで響いていた。音に引き寄せられたアリたちの大行進が齎す、カサカサの大合唱。最悪な音色が道の先から聞こえて来た。


「江梨子、どうするんだ」


「ここまで来たら、押し通ることしかできないだろう」


「……でしょうね」


 なんとなく思っていたが、江梨子には脳筋の気がある。

 そんな彼女に影響されて、俺も若干だが、ほんと若干だけ脳筋の思考が生まれていると思う。ほんと若干だけどな。



アリの巣の戦いも、最終局面へと向かっていきます。


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