第110話 エレファントブル
エリザベスにより数を減らされたアイアンゴーレムたちは、【先駆者】たちの手によって絶滅へと追い込まれた。ただダンジョンである以上、時間が経てば元の生態系……アイアンゴーレム単体しか存在していないため、生態系と表現するのは適していないのかもしれないが、まあ元の状態に戻るという意味では、元の生態系に戻ると言って良いだろう。
魔物の居なくなったダンジョンは、だだっ広い平原と変わりないため、苦戦することなく十二階層へと続く階段へと辿り着くことができた。
「次が十二階層か……麗華はこのダンジョンが、何階層まで調べられているのか知っているか?」
「……三十二階層。現役時代の私がそこまで行けた」
「麗華でも三十二階層止まりなのか……」
【洞爺湖ダンジョン】を例に挙げるが、あそこは六十階級のダンジョンになっているが、麗華は一度も苦戦をしていなかった。その事実から分かるように、ダンジョンというのは規模によって同階層でも難易度に大きな差があるということだ。
まあこれはダンジョンに潜る上では必須知識となっているから、知らない冒険者なんていないだろうけどな。
「あそこを突破するのは、私たちでも難しいだろうな」
エリザベスは後ろを歩いている俺と凜々花の会話を聞いていたようで、振り返ってまで話に入って来た。そして彼女が口にした言葉は、俺を驚愕させる。
これまで圧倒的な実力を見せつけて来た【先駆者】たちが、苦戦するような階層が三十二階層という比較的浅そうな――未踏破である以上、総階層数が幾つあるのかは分からないため、最下層の手前というのもあり得るが、【洞爺湖ダンジョン】を比較にした場合浅い階層である三十二階層にあるということは、驚くべきことだった。
三十二階層という浅い階層で苦戦するのに、踏破することは可能なんだろうか……そんな思いが俺の中で大きくなっている。
「君が心配する必要はない。突破するのが難しいとは言ったが、できないとは言っていないからな」
確かに難しいとできないとでは、意味に天と地ほどの差があるからな。そんなエリザベスの言葉を聞き、ある程度の安心感が戻って来た。
「まあ三十二階層へと辿り着くまでは、気にする必要はないだろう。未来に恐怖し、歩みを止めるなどあってはならないからな」
「そ、そうですね」
エリザベスの言う通りだ。
人間は今を生きるべきで、未来を恐れてなんていられない。
階段を降りる【先駆者】の背中を追い、俺たちも階段を降りる。肌で感じる空気感はこれまでの階層と変わりないのだが、先刻の強くならなければならないという覚悟のせいか、気持ちの昂りが抑えられそうになかった。
「三十二階層まで行ったってことは、次の階層にどんな魔物が出て来るのか知っているってことか?」
「うん。確か……エレファントブルだったと思う」
「ゾウなのか、牛なのか、どっちなんだ?」
「ゾウみたいな巨体をした牛だよ」
丁度話が終わるのに合わせて階段を降り終えたようで、十二階層から差す光に目が一瞬だけ眩んでしまう。ただ慣れるのも一瞬で終わり、直ぐに十二階層の光景が目に入って来た。
事前に麗華から聞いていたように、階段の先に広がる平原には、ゾウに近い巨躯でありながらその姿は牛そのものであるエレファントブルたちが、多数生息していた。
草食動物が草食動物のサイズになっている……と言葉だけ聞けば危険度はそこまで高く感じないが、エレファントブルの目は血走っており、危険度はかなり高いだろうと思える。
「俺が行く」
柳生が抜け出した。
急激な加速と共に、抜刀する。そんな単純な攻撃にも拘わらず、エレファントブルの巨体を一撃で魔石へと変えた。
ここまでの戦いで多少目が肥えて来たと思っていたが、それでも柳生が放つ神速の一撃を認識することは叶わないのか。
「……五体か」
柳生は鍔鳴り後に呟く。
目が見えていないにも拘わらず、俺たちの視界に映るエレファントブルの数を正確に当ててみせた。
その異常な感覚に対して、ツッコミを入れるフェーズはとうに過ぎているため、口にすることはなかったが、やはり驚きは隠すことができない。
一度地面に着地した柳生は、再び刀を鞘に仕舞う。
その際に鳴った鍔鳴り……刹那、柳生の姿は消えていた。
「やっぱりすごい剣術だな」
再び柳生の姿を認識できたのは、エレファントブルの頭部に立っている姿だ。そしてそこから飛び降りる際に、数回刀を振るうことで、一体のエレファントブルを魔石に変えていた。
「――」
柳生は着地と共に、地面を蹴って急加速した。
蹴ってというのは俺の勝手な想像であり、何かスキルによって加速したのかもしれないが、あまりの速さに認識することはできない。
そこからの展開はとても早く、一瞬にして残る四体のエレファントブルを切り刻んだ。時間にして十秒の出来事だった。
三十二階層までは、先駆者無双が続きます
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