第103話 【魔境群馬ダンジョン群・二階層】
【先駆者】たちの圧倒的な力のお陰で、俺たちは何の被害を受けることもなく、【魔境群馬ダンジョン群・一階層】を突破することができた。
【先駆者】たちと言っても、魔物との戦闘を行ったのは総裁であるエリザベスと盲目の侍である柳生のみであるため、【先駆者】の実力は殆ど分かっていない。
消耗なく辿り着くことができた二階層は、一階層と変わらず果てしない広さの平原だった。一個違う点を挙げるとすれば、俺の視力で見える範囲には、魔物の姿が見受けられないということだろう。
「ここの二階層は難しい」
「何が難しい――」
麗華に聞くよりも早く、その難しさの原因であろう魔物が、平原の奥から地響きを鳴らしながら近付いて来ていた。
「あれは……蜘蛛?」
「そう。一階層に居た猛毒鬼蜘蛛たちが、猛毒鬼母蜘蛛によって、強化されている」
「……つまり」
「一階層とは比べ物にならない程、強い魔物になっている」
俺や凜々花、従魔たちでは到底届かない相手なのだろうが、それは一階層だろうが二階層だろうが変わらない事実なため、一階層よりも強いと言われても実感が湧かなかった。
それにいくら一階層の魔物が強化されたからと言って、あれほど一方的な展開で決着を付けたエリザベスや柳生が負けるとは思えない。
「それに猛毒鬼母蜘蛛を倒さないと、子である猛毒鬼蜘蛛たちは増え続ける」
「それは一階層の魔物もそうじゃないのか?」
「確かにそう。だけど速度が桁違いってこと」
こんな風に麗華と話し合えているのも、柳生が飛び出した安心感からだ。普段であれば、いくら麗華が居るからってダンジョン内でここまで気を抜くことはない。
俺の信頼に応えるように――柳生にそんな気持ちは一切ないだろうが、鍔鳴りを鳴らしてから刀を振り抜いている。
到底刀のリーチでは届くはずがない距離に居る魔物たちだったが、一瞬にして魔石へと変わっていた。
しかし柳生が猛毒鬼蜘蛛を一瞬で斬り伏せようと、無限と思えるほどに湧き続ける猛毒鬼蜘蛛の全てを捌き切るには至っていなかった。
「大丈夫だよ」
猛毒鬼蜘蛛たちが柳生の攻撃を抜けても、【先駆者】たちは動こうとしていなかったため、俺と凜々花は武器を抜こうとした。
しかし麗華に止められたため、武器を抜くのを止める。合わせて殺気立っていた従魔たちも落ち着き、冷静に迫り来る猛毒鬼蜘蛛のことを観察していた。
「若いのに、抜けられたと思われているぞ」
「この程度で抜かれたと思われるとは、心外だな」
エリザベスに心を読まれてしまったようで、俺と凜々花が「猛毒鬼蜘蛛が抜けて来た」と思っていたことが、柳生に伝わってしまった。
しかし柳生がそこまで気にしている素振りはなく、若干声色から不満さが滲み出ている程度に収まっている。
「ふっ」
柳生は振り向きざまに刀を振り抜いた。
刹那、こちらへと走っていた猛毒鬼蜘蛛たちの脚が止まる。彼は魔物の脚だけを狙ったようで、目の前にゾロゾロといる猛毒鬼蜘蛛たちは胴体だけとなっていた。
「脚だけだと思うなよ」
柳生は俺の方を指差しながら、刀を鞘に仕舞った。
鍔鳴りと共に、目の前で猛毒を吐き続けている猛毒鬼蜘蛛たちが小間切れとなり、魔石へと変わっている。
鍔鳴りと共に魔物が魔石に変わったことから考えると、猛毒鬼蜘蛛の脚を切断した時点で、既に身体も切断していたと考えられる。つまり斬られたことを気付かせない程、繊細な一撃を放っていた……まさに神業だな。
「……多いな」
ここまで圧倒的な展開を演じていた柳生がそう呟くほど、猛毒鬼蜘蛛の数は異常だった。
いくら柳生が一撃で屠ろうと、無限に湧き続ける猛毒鬼蜘蛛相手では分が悪い。そんな状況にも拘わらず、他の【先駆者】たちは動こうとしない……先刻と同じで、柳生には勝ち筋があるのだろう。それを知っているからこそ、他の先駆者たちは動いていない……はずだ。
「少々本気を出すか」
と柳生が口にすると、抜き身の刀から途轍もない覇気を感じるようになった。その覇気は以前麗華が戦った氷龍を優に超えるものであり、俺の知識内にあるものでは表現できないレベルで強大だ。
「“奈落・隕弩羅”」
上半身と下半身が切断された……そう錯覚してしまう程、刃が漏らしていた覇気は強力だった。
後に俺の勘違いがあながち間違っていなかったことを知る。
柳生が納刀すると、三階層へと繋がる階段を目指して歩き出した。それに合わせて【先駆者】たちも歩き出し、その背中を追って麗華も歩き出したため、残された俺たちも慌てて麗華の背中を追う。
階段へと続く道は、とても安全だった。
一体たりとも魔物の姿はなく、目に入ってくるのはそこかしこに落ちている魔石のみ。つまり先刻の柳生は、ゴン太たちを除いた全ての魔物を切断したということになる。そんな規格外の一撃が放たれていたのであれば、自分も斬られたと錯覚しても可笑しくないだろう。
「なあ、そろそろ急いだほうがいいだろ」
「身体も温まって来たところだし、構わないぞ」
モコモコの服を着ている男が柳生のことを急かした。
ここまで殆ど一人で戦っていた柳生が怒ると思っていたが、怒るどころかその意見に賛成の様子だ。
「それでいいよな、江梨子」
「ああ、構わん。ダンジョン踏破が最優先だ。調査などは後回しで構わない」
「じゃあド派手に行くか!」
モコモコの服を着ている男は、地面に両手を置いた。
先刻までとは比較にならない、バチバチという爆音が二階層に響き渡る。
「“天翔雷轟”」
刹那、視界が白色に包まれた。
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