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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第102話 【魔境群馬ダンジョン群・一階層】

 【魔境群馬ダンジョン群】の内部は、果てしなく広かった。

 見通しの良い広大な平原に、ダンジョン外に魔物を輩出したことを忘れさせる大量の魔物たち。未踏破ダンジョンである所以が突入直ぐに目に入って来た。


「相変わらずここは魔物の密度が高いな」


 江梨子――エリザベスは【魔境群馬ダンジョン群】を知っているような口ぶりだが、よくよく考えてみれば日本のダンジョンを管理する組織のトップなんだから、日本で長年未踏破になっているダンジョンに突入していても何らおかしくないよな。


 エリザベスはダンジョン外でやっていたように、掌をこちらに敵意を向けていない魔物の群れへと向けた。


「【――】」


 そして知らない言語での詠唱を始める。

 詠唱はダンジョンに響き渡り、魔物たちの気を引いた。

 一斉に殺意を漏らし、エリザベスの下への大行進を開始した魔物の群れは、一見統率の取れた軍隊のように思える。しかし一体一体が他の魔物を押しのけ、我先にと先頭を奪い合っていた。


「やはり魔物が群れたところで、たかが知れている」


 そう呟いたのは、盲目であるはずの侍だ。

 目を潰すような傷跡と常時目を瞑っていることから盲目だと決めつけていたが、本当は見えているのか?


「“――”」


 そんな侍のことを考えている内に、エリザベスは呪文の詠唱を終え、魔物の大行進へハリケーンを生み出した。

 

「――ッ!」


 だが数百の魔物がハリケーンを抜け、【先駆者】の下へと辿りついた。

 そんな【先駆者】たちの中でも、先頭に立つのは先刻の侍。


 辿り着いたのは、ゴブリンの最上位種であるゴブリン皇帝(エンペラー)や首を執拗に狙う殺人兎、全てを溶かす毒を有する猛毒鬼蜘蛛など多種多様な魔物たちだ。


「江梨子、一階層如きで抜かれるなど、腕が鈍っているのではないか?」


「仕方ないだろう。総裁に就任してから、長らくダンジョンに潜っていないんだ」


 俺はエリザベスの言葉に驚きが隠せない。

 彼女の言う長らくが、どの程度なのかは分からないが、それでもブランクがある状態で、ダンジョンを飛び出してきた魔物たちを殲滅できる威力の魔法を使えるなんて、調子が戻ったらどれだけの威力を出せるんだと驚きを通り過ぎて恐怖すらも感じている。

 

 俺がエリザベスの言葉に驚いている間にも、彼女の魔法を抜けた魔物たちが接近して来ていた。


「近付くなよ」


 と侍が言い終えると、鞘と鍔が触れ合う鍔鳴りが響く。

 魔物たちの喧騒がダンジョンに響き渡っているにも拘わらず、その鍔鳴りは明瞭に聞こえていた。


「ふっ――」


 侍の息遣いが聞こえて来たかと思うと、大量の魔物が斬り伏せられて、一瞬にして魔石へと変わっていた。


「一撃でこの威力……」


 全く見えなかった。

 侍の構え的に、斬撃を放ったということは想像がつくが、鞘から刀身を抜いたことも、身体を動かしたことも認識できない。まさに神速の一撃と呼ぶに相応しい攻撃――まあ予想だけどな。


「じゃあ進むとするか」


「いや、そう簡単にはいかないようだ」


 侍が警告したように、俺たちは歩みを進めることができなかった。

 エリザベスのハリケーンと侍の斬撃によって、殲滅されたはずの魔物たちだったが、突入時に見えていた群れとは、比較にならないほどに大量の群れがハリケーンの音に引き寄せられて来ていた。


「ふむ、私が出るべきではないな。では頼むぞ、柳生」


「言われなくとも、俺が出るつもりだった」


 盲目の侍――エリザベスから柳生と呼ばれた男は、横に立つ【先駆者】たちから数歩前に飛び出した。

 それに合わせて鍔鳴りが響くと、柳生の姿が揺らぐ。ワンテンポ遅れて先刻のハリケーンには遠く及ばずとも、俺たちのことを吹き飛ばすには十分足るだけの突風が吹き荒れた。


「大丈夫?」


 麗華が氷の壁を作ってくれたおかげで、吹き飛ばされずに済んだが、もし彼女が動いてくれなかったら、吹き飛ばされて壁に激突していただろう。そう思うレベルの突風が吹き続けている。


「すごいよね」


「ああ、前衛であの規模の突風を生み出せるなんて、万能なスキル構成なんだろうな」


「違うよ悟」


「何が違うんだ?」


「あの人は移動しただけ。この突風を表現するとしたら、地面を蹴った際に発生したエネルギーが風になっただけ。だからこの突風は純粋な脚力が生み出した副次効果だよ」


 この突風が柳生の純粋な脚力によって生み出されている、ということも十分驚くべきことなのだろうが、俺が最も驚いているのは麗華が饒舌に長文を話していることだ。


「……麗華も長く話せるんだな」


「……うん」


 麗華のフィーバータイムは終わってしまったようだ。

 そして柳生による攻勢も終わったらしい。先刻まで聞こえていた魔物の大行進が引き起こしていた地響きは鳴りを潜め、【魔境群馬ダンジョン群・一階層】には静寂が訪れていた。


「流石にあの数を一人でやるのは、疲労が溜まるな」


「汗の一つでもかかないと、説得力がないぞ」


「ふっ、確かにな」


 やはり先駆者は化け物揃いなんだ。

 そう改めて認識する初戦だった。



エリザベスや柳生が化け物なだけで、【魔境群馬ダンジョン群・一階層】は、麗華でも苦戦する場所です。


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