第101話 開戦
威厳のある言葉遣いをしているダンジョン協会の総裁。
しかしそんな話し方には見合わない、140センチの小学生女子程度の身長と、これまた小学生女子に見間違う童顔……つまり見ただけでは小学生女子にしか見えない人物が、ダンジョン協会の総裁らしい。
「【ダンジョン嫌悪派】からの宣戦布告とは、面倒なことになったものだ……君らもそう思うだろ?」
「えっ――あ、はい」
総裁は俺に対して話を振って来た。
麗華と話し合うとばかり思い込んでいたため、言葉に詰まってしまったが、総裁が気にしている様子はない。
「【魔境群馬ダンジョン群】でスタンピードが起きるとなれば、日本中の上位冒険者を集める必要がある……が、それがブラフだった場合、他の場所で大きな被害が及ぶことになる」
「だけど【魔境群馬ダンジョン群】のスタンピードを放置したら、関東が魔物の手に落ちるよ」
「分かっている。だから私を含めた、【先駆者】を数名動員する」
【先駆者】……ダンジョンに潜る者であれば、一度は聞いたことがある伝説の冒険者たちだ。
日本に初めて発生したダンジョン――【皇居ダンジョン】に潜り、個性豊かなスキルを手に入れた冒険者……とまことしやかに囁かれている。
この噂が本当なのであれば、【先駆者】の協力は大きな戦力になるだろう。
「それなら大丈夫……だと思う」
口ではそう言う麗華だが、その表情は何処か不安さが隠せていなかった。それほど【魔境群馬ダンジョン群】のことを危険視しているのか、【ダンジョン嫌悪派】の戦力を知っているからこその不安なのか、もしくはその両方なのか、どちらにしろ、戦力をそれ以上割くことはできないだろうし、俺も力を付けておかないとな。
「では戦力が揃い次第、【魔境群馬ダンジョン群】に向かうとするか」
俺たちは準備をするため、皇居ギルドを後にした。
――1週間後
皇居ギルドで総裁と話し合ってから、一週間の時が経った。
メイン火力は【先駆者】が務めることとなり、俺たちはバックアップを担当することになった。
俺たちの前に立つのは、背の小さな総裁、盲目の侍、巨大な盾を構えたビキニのサーファー、バチバチと音を鳴らし髪の毛を逆立ってながらモコモコの服を着ている男、そして3メートル近い大剣を引き摺っている額からツノを生やした女……総勢五人の【先駆者】たちだ。
「来る」
総裁の言葉に、先駆者たちが殺気立った。
自分に向けられたわけではないはずなのに、足が震えて立っているのがやっとの状況だ。隣を見ると、凜々花もゴン太たちも、まいちゃんだって震えている。唯一麗華だけは凛として立っているが、彼女を一般の冒険者と括るべきではないだろう。
「では始めようか。我々【ダンジョン嫌悪派】は日本のダンジョンを牛耳るダンジョン協会の殲滅、そして後ろ盾である日本政府の崩壊を掲げ、【魔境群馬ダンジョン群】でスタンピードを引き起こす」
空間の歪みから出て来た明智は、淡々と自分の考えを述べて行った。
当然、先駆者たちの攻撃が明智を襲うが、奴の前に生まれた空間の歪みに呑まれて、明智に届くことはなかった。
「君らにできることは、【魔境群馬ダンジョン群】の踏破のみ。日本を救ってみせるがいい」
刹那、身体が重くなった。
物理的に重たくなったのではなく、淀んだ空気が身体を襲っている。
「本当にスタンピードを引き起こす術を持っているとは、かなり厄介な相手だ」
大地が揺れる。
地震と勘違いするほどの揺れを引き起こしているのは、ダンジョンを飛び出してきた魔物たちの大行進。
【洞爺湖ダンジョン】のボス、氷龍クラスの魔物がゴロゴロいる大行進は、一般冒険者からすれば死の大行進にしか思えない。
だが目の前に立つ歴戦の猛者揃いである先駆者たちは、全く臆している様子はない。それどころか勇んで大行進に突入しようとすらしていた。
「逸るでない。【魔境群馬ダンジョン群】は最下層が分かっていないのだから、消耗は避けろ」
総裁が止めているおかげで、抜け駆けする者は居ないが、ウズウズしている様子は後ろから見ても分かった。
「では開戦の狼煙を上げるとするか」
総裁は掌を魔物の群れに向けた。
「【――】」
総裁は俺の知らない言語で詠唱を唱えていく。
英語でも、フランス語でも、ドイツ語でもない、そもそもこの世界の言語とは思えない発音がいくつか聞こえて来ている。
「“――”」
技名と思われる言葉を言い終えると、魔物の群れを襲う巨大なハリケーンが生み出された。
「このエリザベスが日本を守ってやろう」
「エリザベス?」
確かに肌は白く、遠くから見たらヨーロッパ圏の人に見間違えるだろうが、近くで見たら確実に日本の血を引いている顔立ちをしていた。それなのにエリザベスという名は少し珍しいな。
「エリは自分の名前がコンプレックスなの。本当は佐藤江梨子なんだよ」
「なるほど」
麗華が教えてくれた。
江梨子だからエリザベス……別に佐藤江梨子もいい名前だと思うけどな。
「出て来た魔物は一通り消せたようだし、突入と行くか」
先駆者は一斉に駆け出した。
それに合わせて麗華も駆け出したため、俺たちもその背中を追って駆け出す。
俺たちは地面に落ちる大量の魔石とドロップアイテムを無視し、【魔境群馬ダンジョン群】へと突入した。
――【第6章 疾風で靡くたてがみ】 完
これにて第6章完結となります。
【第7章 魔境群馬ダンジョン群】もお楽しみください
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