第100話 報告
俺たちは凜々花を連れて、クソ医者のいる病院へと来ていた。
凜々花は以前と同じように、眠り続ける状態異常に掛かっていたようで、一切の抵抗をする暇もなく囚われたらしく、どうやって攫われたのかは覚えていないようだ。
今の説明から分かる通り、凜々花はまいちゃんの力によって既に目覚めている。だがもしもの時を考慮して、クソ医者の病院へと来ていた。
「流石聖女だね」
「てことは?」
「うん、異常は一切見られないよ。まあ久しぶりに君たちが来てくれたから、喜びで診察が適当になっちゃったかもしれないけど」
「おい!」
「冗談、冗談。流石に診察を適当にやることはないよ」
こいつならやりかねないから、冗談で済ますことができない。
イカレ具合もそうだが、この医者は俺たちに対してだいぶ気軽なんだよな。気軽さゆえに診察が軽くなったりする可能性を排除できないわけで、全幅の信頼を寄せることはできないだろう。
「それで【ダンジョン嫌悪派】の件は大丈夫かい?」
「ああ、これからギルドに伝えるつも――まて、なんで知っているんだ?」
「私は医者だからね。色々な患者が居るわけで、それ相応の情報も入って来るのだよ」
「……ならいいか。ギルドに伝えたところで、何事もなく終わらせることなんてできないだろうな」
【ダンジョン嫌悪派】の明智は、【魔境群馬ダンジョン群】でスタンピードを引き起こすと言っていた。あそこは日本に残る未踏破ダンジョンの一つであり、大量のダンジョンが混ざり合った特殊なダンジョンだ。
幾つものダンジョンが混ざり合っているせいで、出現する魔物には規則性がなく、異常も起きやすい……とまいちゃんは言っていた。
つまり【魔境群馬ダンジョン群】は、日本最強の冒険者である麗華が、ダンジョン内の知識を持っていてもなお、踏破することができない――名の通り魔境のダンジョンということだ。
「まあ、あそこでスタンピードが起きれば、関東圏は魔物の楽園となりかねないよね」
そんなクソ医者の独り言を耳にしながら、診察室を後にした。
元気になった凜々花たちとこれから向かうのは、ギルド。それもダンジョン付近に作られた支部ではなく、各地にあるギルドを統括する総本山、【日本ダンジョン協会・皇居ギルド】だ。
「一応、アポイントは取ったけど……会ってくれるかどうかは、五分だと思う」
「麗華ですら、五分なのか!?」
【日本最強の冒険者】ともなれば、ダンジョン協会“総裁”であろうといつでも会えると思っていたが、そう簡単にはいかないのか。
「あの人は、気難しい人だから」
そういうことか。
忙しいからとかではなく、人柄的に会ってくれるか分からないのか――いや、日本が危機的状況に瀕しているのに、会ってくれないってのは、ダンジョンをコントロールするギルド組織のトップ失格じゃないか?
「入るよ」
皇居ギルドに来るのは初めてだが、写真で見ていた通り巨大だ。
表現するとしたら、東京駅に似た建築方法だが、流石に東京駅と比べると一回り程度小さいだろう。
「どうしたの?」
「……ああ、あまりの大きさにな」
「大丈夫。私といれば、何回も来る」
「……そうか」
先に行った麗華たちの背中を追って、俺も皇居ギルド内に足を踏み入れる。
ギルド内も同じように、【アニメックスダンジョン】のギルドとは大違いだ。規模も勿論違うが、テナントとして入っている企業が、世界規模で商売している大手企業ばかりで、装備を付けている冒険者だけでなく、サラリーマンと思わしきスーツを着ている人たちも多くいた。
「西園寺麗華です」
受付で麗華が名前を述べると、周囲の視線が一瞬にして集まった。
彼女の名は日本で知らぬ者は居ないレベルで轟いており、引退したとも囁かれていた彼女が再び現れたともなれば、周囲の視線を集めるのは当然のことだろう。
「西園寺麗華さまとお連れ様ですね。総裁がお待ちですので、一番の部屋にお入りください」
受付嬢は慣れているのか、一切の反応を見せずに捌いてみせた。
本当に驚いていないのか、驚きを一切顔に出さないポーカーフェイスの持ち主なのか、どちらにしても尊敬できる人だ。
「行こう」
麗華が振り向き、俺たちに対して手招きを行った。
彼女の行動に合わせて、周囲の視線がこちらへと移る。あまり表舞台に立たないまいちゃんと、無名の俺と凜々花、そして従魔たちに対する視線は、とても不思議そうなものだった。
「麗華は、いつもこの視線を浴びているのか」
「……それが嫌だからギルドに行かなくなった」
確かにギルドに行かなくなれば、引退説がまことしやかに囁かれていても可笑しくないな。北海道で出会った時も、ダンジョンから出て来た時だったし、ダンジョンには行って、ギルドにはいかない生活をしていたってことか。
「でもゴン太くんたちと戯れられるなら、この視線も大丈夫」
「問題が解決したら、どこか人のいないところで存分に遊びたいな」
「……うん!」
麗華の笑みは、とても美しかった。
しかし一瞬で笑みは消え、いつもの気怠そうな表情に戻っている。
俺たちは麗華の隣に立ち、一番と書かれている部屋の扉を開いた。
「久しぶりだな、麗華」
「久しぶり、総裁」
ダンジョン協会の総裁は、想像していたよりもフランクで、とても小さかった。
あと少しで第6章が終わります。
100話という節目に到達できたのも、読んでいただいている皆様のお陰です。
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