第7話
イスカが戻って来てから数時間後、日はすっかり高くなりこれからダンジョンを登る冒険者や、一仕事終えた冒険者が店に来ていた。
みんなイスカが居ることに最初は驚いたけど、経緯を聞いて爆笑する。
「あんな盛大なお別れ会やったのに一晩で戻ってくるなんてな!」
「この子は間違いなく大物だよ」
戻って来たイスカを囲んで、みんなは昼から酒を煽りながら騒ぐ。
イスカの前にも果実ジュースのジョッキが置かれ、イスカはそれを不貞腐れたように飲んだ。
「イスカちゃん良い飲みっぷりだ!」
「俺も負けてらんねぇな、店主もう一杯だ」
「あんたたち昼から盛り上がり過ぎよ、イスカちゃんは迎え待ちなんだからね」
「でも本人は何やらご立腹だぜ」
店長が注意しても冒険者たちは景気よく酒を煽る。
そう、朝からイスカは何やらご機嫌斜めで、ずっと暴飲暴食を続けていた。小さい体のどこに、これだけの量が入るのやら。
冒険者たちが騒ぐ中、壊れんばかりの勢いで扉が開かれる。
「イスカはここにいるか!?」
その声に冒険者たちは一斉に入口の方を向いた。
迎えが来た。ドラ子さんは肩で息をしながら店の中へ入ってくる。冒険者の中にイスカを見つけたドラ子さんは情けない声を上げる。
可哀想に、ずっと探していたんだろうなぁ。
「イスカぁ……いたかぁ」
ドラ子さんに見つかってもイスカはそっぽを向き果実ジュースを飲んでいた。よっぽど何かが気に食わなかったらしい。
「一体何か気に食わなかったんだ……詳しい話をするその前に、貸し切りだぁ!」
ドラ子さんは店長に金貨を投げつけながら叫び、冒険者たちを再び追い出した。うーんデジャヴ。
そして例によって店内には店長、俺、イスカ、ドラ子さんが残った。
ドラ子さんはテーブル席でそっぽ向いてるイスカをあの謎の言語で説得していた。
「$?*#"='&!」
「~_`&%ダンク?」
気のせいか時折俺の名前が呼ばれていてなんかドキドキするな。俺なんかやっちゃいました?
説得はしばらく続き、俺と店長は理解できない言葉を聞きながら邪魔しないようお茶をすする。
あの会話には参加できないし、俺たちは見守るしかないのだ。
やっと説得が終わったのかイスカを連れたドラ子さんが、俺たちが座っていたカウンター席にやってくる。
「終わりましたか、原因は何だったんです?」
「昨日休む前に冒険者用の携帯食料を食べたんだよ、それがマズかったらしくて……」
「何とまぁ……」
あのパーティーの後まだ何か食べたのか、それにしても携帯食料がマズくて戻って来たとは。
たしかにあれは美味くないし、普段普通のご飯を食べている一般人からすると褒められた味じゃないだろう。
でもあれは保存も効くし腹も膨れる、旅をするにもダンジョンに潜るにもあの携帯食料は必須だ。
けど気持ちは分かる。何を隠そう、俺もあの携帯食料の味に慣れないうちの一人なんだから。
あの味から解放されるため、俺はパーティで料理をしていたと言っても過言ではない。
「でも携帯食料に慣れないと遠出は厳しいわよね」
「そこでだ、ダンクよ。お前、また俺たちの依頼を受ける気はないか?」
「え?」
説得の時に出ていた俺の名前はこのためだったのか。
確かに携帯食料の味には共感できるけどその依頼ってやっぱり……。
「イスカの依頼が完了してもここで働いてるって事は何か理由があるんだろうが……イスカがどうしてもってな。冒険者経験があって店に出せる料理の腕もある。俺はこれ以上お前に手間を掛けさせるのはどうかと思うんだがなぁ」
「うーんでも俺、もう冒険者引退しちゃったし……」
「だ、だよな。ほらイスカ、引退って事はもうギルドカードないんだ」
「あっ、ギルドカードはありますよ。冒険者だった記念に取っとこうと思って」
「あるんかい!」
思いっきりドラ子さんに突っ込まれた。
その突っ込みはやけに重く、俺の体の芯を揺らした。
「お前なぁ……冒険者は辞める時、ギルドにギルドカード返さなきゃいけないって最初に言われただろ!」
「そう言えばそんなこと言われたような……」
「あらそのまま取っておいたらダメだったの?」
横で聞いていた店長も身に覚えがあるのか驚きの声を上げている。店長元冒険者だったのか。通りでガタイがいいはずだ。
「そっちもか!いいか、記念にギルドカード取っておくお前らのせいでこっちは引退冒険者の把握に時間がとられてるんだ!俺が忙しいのは大半がこのせいだ。特にBランク以上の冒険者にはギルドや貴族から直接依頼が行くこともある。引退したならきちんとギルカ返還しろ!」
ドラ子さんはキレ気味にまくし立てた。
「はぁ……ギルドカードは持ってるんだな?ムカつくから今回の依頼の拒否は許さん。お前はイスカが帰りに同行するんだ」
「でも俺、店が……」
「拒否は許さんと言ったぞ。嫌ならギルドカードをこの場で返還してもらう。店主もきちんとギルドカード返還しろよ。それと、こいつが抜ける分だ」
ドラ子さんはそう言って店長に金貨一枚を投げ渡す。
「この件はギルドの命令で機密事項だ。ギルドカードを持つお前たちにこの決定に反論はさせない。それとこれからの事を話したい密室はあるか?」
「密室ではないけどイスカちゃんが使ってた部屋はどうかしら?そろそろ店も開放してほしいし」
金貨を受け取った店長はあっさり俺の身柄を引き渡した。そして、店長を除いた俺たち三人は二階の元イスカの部屋に向かった。
「帰る旅に同行するのは分かりましたが具体的にどこへ行くんです?」
俺はずっと気になっていたイスカの帰る先、つまりどこから来たのかを聞く。
けど、ドラ子さんは具体的な話はしようとはせず俺に準備の事だけ伝えた。
「ここじゃ駄目だな、近くに人が多すぎる。詳しい話は帰りの道中でしてやる。まず出発だがあまり人目に触れたくない、今夜こっそり行く。次に準備だが戦うためのベストな装備をしてこい。最後に、これで持てる分の食材を夜出るまでに準備しろ」
ドラ子さんは俺に金貨を一枚渡す。
「いや、多いですよ……」
「ん?そうか?だったら思い切り豪華にしてやれ」
ドラ子さんは気にせず親指を立てる。
食材だけで金貨を渡すなんてもしかしてこの人、金銭感覚が俺とはだいぶ違うみたいだ。店長にも金貨ホイホイ渡してたし。
イスカとドラ子さんの二人は夜まで冒険者ギルドに身を置くらしいので、俺は一人食材を買いに行くのだった。




