第8話
俺はダンジョンの一階、ロビーに立っていた。背中には、明るい内に買い込んだ食材と、beautyの厨房で用意した食料を背負っている。
背中の荷物は、俺の使える数少ない圧縮魔法――コンプスでかなり小さく、そして軽くなっている。
それにしても既に空は暗くなっていて、冒険者ギルドの受付が閉まろうとしているけどドラ子さんはいつ来るんだろう。
「待たせたな!」
ドラ子さんは腕を組んで登場する。
その姿は変わらなかったけど対照的に、イスカの服装は冒険者用の服装に変わっていた。
「俺一人ならイスカを連れてサクサク進めるが、お前がいるとどんな動きになるか分からない。念を押してイスカには装備を整えさせた。じゃあ出発するぞ」
「出発って……ここダンジョンですよ!?」
「そうだな」
まだ何の説明も無いけどドラ子さんはギルドの受付に向かう。
「じゃあやっぱり……」
「ああ、帰り道。それはこのダンジョンだ」
イスカはダンジョンの上から落ちて来た。となれば当然帰るのはダンジョンの上ということになる。
「何度も悪いな、昨日のように頼む」
受付でドラ子さんはイスカがダンジョンに入れるよう特別な手続きをする。そして受付から一枚のカードを受け取った。
「これでイスカは一時的に特例の冒険者扱いだ。ダンジョンに入れるし戦闘に参加することもできるぞ。そしてこれがその証、仮のギルドカードだ」
イスカはドラ子さんから仮のギルドカードを受け取った。普通のギルドカードと何が違うのかちょっと気になるな。
「イスカ、仮のギルドカードちょっと見せてよ」
俺はカードを見せて貰おうとイスカに近づく、けどドラ子さんがそれを止める。
「そんなのは後だ、さっさと行くぞ。とにかく話は人のいない所でだ」
ドラ子さんは急かすようダンジョンの出入り口に俺とイスカを向かわせる。
そして俺たちはギルドが魔法で守っているダンジョンへの扉をくぐった。
ダンジョン一階、中は薄暗く先はあまり見えない。
光源は、壁のいたるところに埋め込まれている魔法石だ。魔法石の光はぼんやりと足元を照らしていて決して明るくはない。
これ以上の光源が欲しい場合は冒険者のスキルや魔法、松明が必要になってくる。
俺たちはドラ子さんを先頭に似たような石造りの道を歩いて行く。
薄暗く似た光景を進んでいると方向感覚を麻痺させるような錯覚に陥る。
冒険者を引退して久しぶりにダンジョンの中に入ったけど、この薄暗い通路、じんわりとした感覚、体がダンジョンを思い出す。
「うーん周囲の冒険者の数が多いな、初心者か帰還者かはわからんが……ダンク持久力は?」
ドラ子さんは周りの気配を探っているのだろう。目を閉じ集中してる。あれで周りの事が分かるのか。
「元冒険者だからそれなりだと思います、ギルドマスターが納得できるかはわかりませんけど」
「まあそれも見てみるか、ダンクはイスカを抱えて俺に付いて来い」
「え、食材も背負ってるんですよ」
そう俺は小さくなったとはいえ荷物を背負っている。更にイスカを抱えるとなると、結構な労力になる。
「できる所まででいい、最短で行くからな。じゃあ行くぞ」
そう言ってドラ子さんは走り出す。
俺は急いでイスカをお姫様抱っこして続いた。
イスカはいきなり俺に抱えられたにもかかわらず、驚きもせずそのまま持ち運ばれた。ホント動じないなこの子。
少し進むとコウモリ型モンスターの群れが現れる、急いで戦闘態勢を取るため、イスカを下ろそうとするが……。
「邪魔!」
ドラ子さんが軽く拳を振るう。生じた風圧だけでコウモリ共をまとめて消し飛んだ。
「う、うそん……」
「しばらく戦闘はこれで行くからな、いちいち止まるなよ!」
「は、はい!」
それから三回モンスターとエンカウントしたけど、全てドラ子さんが拳圧で消し飛ばした。俺は完全にイスカを運ぶだけの役になっている。
「ほら二階への階段だ」
「え、もう!?俺のパーティで進むのよりも何倍も早い」
「ったりまえだ!その辺のひよっこたちと一緒にするな!」
「えぇ……」
俺が最後にダンジョンに潜った時でも一階の攻略速度は最速でも三十分はかかったはずだ、早すぎる。
やっぱり強い人が居れば速度も上がるだろうけど……ダンジョン攻略ってこんな早くできたんだ……。
そんなことを考えながら走っていると、ドラ子さんは階段をどんどん昇って行ってしまう。俺も置いて行かれないように何とかし足を動かした。
戦闘とも言えないエンカウントを幾つかこなし、俺たちは最短距離で階層を進んでいく。
それにしてもなんでこの人階段がある場所分かるんだろう。
「……それは長年の勘だ」
「え?あ、はぁ……」
口に出してないのに答えられた、規格外すぎる……。
それからしばらく俺たちはダンジョンを走り続け、五階を越えた頃ついに俺の限界を迎える。
「はぁはぁ……もう無理……げ、限界です……」
俺はイスカを下ろし、地面に手を着きながら肩で息をする。
「ふむ、持久力はまあまあだな。及第点だ」
「こ、これでですか……」
ドラ子さんは息を乱すことなく再び目を閉じ周囲の気配を探った。どうやら周りに人はいないようでここでドラ子さんは落ち着くことを提案する。
「ここなら誰かに聞かれることはないな。俺が威圧してるからモンスターも来ないぞ。さて、これからの行動も話したいし、知りたいこともたくさんあるだろう。だが何から話すべきか……」
「じゃあここらでちょっとお茶にしませんか?」
「お前そんなの持ってきてたのか……」
「はい。あ、お湯沸かすために魔法が必要なんですが使えますか?」
「それくらいなら……分かったよ」
俺は荷物持ち兼食事係。それを全うするため背負う荷物にはありとあらゆる物が入ってる。専門外だけどお茶の葉も数種類入れて来た。
そしてダンジョンとは言え、モンスターを避けて敷物を敷けばピクニック場の完成だ。
辺りに甘い香りが広がる。ダンジョンの中なのになんて優雅な気分だ。
「確かに食事係として依頼したが……ここまで戦闘を丸投げされてるとなんかムカつくな」
俺が用意した敷物に座り、お茶をすすりながらドラ子さんは文句を言う。
食事係として依頼しといてなんて理不尽な……。
「だが、うん。これは落ち着けて良いな。これならイスカが逃げ出すことはあるまい」
「だったらここで軽食にしますか、イスカもお茶だけじゃ物足りなさそうだし」
イスカが俺の背負っていた荷物をチラチラと見ていたのを俺は見逃さなかった。
そうしてダンジョン内で作戦会議という名の奇妙なお茶会が始まった。
今回用意したのは市販のパウンドケーキ、手作りじゃなくて申し訳ないけどね。
話を聞くのに集中するために自分の手間を限りなく無くす。
全員分のお茶請けを用意して俺も敷物の上に腰を落ち着かせ、早速話を聞く体勢に入った。




