第9話
ダンジョン五階――敷物の上で作戦会議をする俺たちは他から見たら奇妙に映るだろうな。
でもドラ子さん曰く、ここらに人目は無いとの事。今ここで結成したばかりのパーティの作戦会議?が始まった。
「まず最初は情報が必要だ。ダンク、金貨一枚でどれだけの食料を買い込めた?」
話を聞く体勢に入っていた俺はいきなり質問され拍子抜けする。
「二週間ってとこですかね、勿論デザート付き。それ以上は携帯食料にアレンジを効かせてごまかすことになります。イスカが逃げなさそうな料理とデザートを用意しました」
食料係として雇われた俺の役割。それは料理を作る事だけじゃなくて、どれだけの日数持たせられるのかも仕事の内だ。
普通の冒険者なら金貨一枚を渡されたら全部装備やアイテムに使うだろう。けど、俺たちはイスカを帰すパーティだ。そのイスカが飯がマズくて逃げ出すような環境を作らない為に俺が居る。
正直イスカの気持ちは凄くわかる。
飯が栄養を摂るだけの作業になったら心がどんどん死んで行く。
故郷を出てしばらく携帯食料だけの日々が続いた時、そりゃあ辛かった。
周りの連中も死んだ目で干し肉をもそもそ食ってたし、できればあんな体験はイスカにさせたくない。
「二週間か……俺とイスカだけなら余裕だったんだがお前もいるからな、正直どれくらいかかるのか見当もつかん。そこで俺たちの状況を把握するべくお互いのステータスを見せ合おうじゃないか」
ステータス確認。本来はパーティを組むか決める時にするもので、今みたいなタイミングでするものじゃないよなぁ。つくづく変なパーティだ。
まずはドラ子さんは自信満々にギルドカードを見せて来た。
[名前]ドラ子
まず目を引いたのはこれだった。ギルドマスターなのにこれで良いのかな。
「えーと、ドラ子さんの名前、愛称か何かと思ってたけどこれ登録してるんですね……」
「本名は機会があれば教えてやるよ」
「偽名じゃないですか……」
続いて、上からカードを見ていく。そうして俺は噴き出した。
[レベル]9999
[職業]ドラゴン、ギルドマスター
[スキル]ドラゴンキャノン、ドラゴンフィンガー
いや突っこみどころ満載なんだが。色々大丈夫かこのギルドカード。そもそもドラゴンって職業なのか?
「あのド、ドラゴンって?」
「そういや話してなかったな、俺はドラゴンだ。今は人化の術を使ってこの姿をしている」
軽くそう答えられる。そ、そうだったのか、通りであんなに強いわけだ。
いやそれだけじゃない、この際思ったことを全部聞こう。
「えっと、このスキル見た事ないんですが一体……」
「ドラゴンってのは竜気ってエネルギーを身体にまとってる。それでなんやかんやするとこのスキルになる」
「こ、効果は?」
「相手は死ぬ」
多分本当なんだろう……あまり深く考えるのはやめておこう。
「っていうかお前聞いてばっかりだな、次はお前のギルカ見せろ」
「うぅ……俺、弱っちいからあんま見せたくないんですよ、だから最後に……」
「ダメだ。イスカのステータスも機密、本来ならお前に見せることもないんだからな。お前から先に見せるんだ」
結局見ることには変わりないのに……仕方ない恥ずかしいけど観念しよう。
俺は腰の鞄からギルドカードを取り出し二人に見せる。
[名前]ダンク
[レベル]9
[職業]タンク
[スキル]プロテクト、アタックガード
「本当に初心者なんだな……まあこれからだ」
「ドンマイ!」
二人の励ましが辛い、イスカは雰囲気で言ってるだろ絶対。
「そう言えばお前魔法は覚えてるのか?」
ドラ子さんは俺のギルドカードを見ながら聞く。そう、使える魔法は人によって千差万別。ギルドカードには魔法の欄は無いのだ。
「あんまり戦闘で役に立つ魔法は覚えてませんよ。初級魔法のフレイムとそれに生活魔法のコンプスだけです」
「コンプスか、珍しい魔法だけど……本当に戦闘には役に立たないな」
コンプスとは物を小さくする魔法だ。なんと、やってみたら出来たから重宝させてもらってる。
この魔法のおかげで二週間分の食料という大荷物もそれなりの大きさでダンジョンに運び込むことができている。
「魔力量は?」
「えっと……30です。コンプス一回につき使える魔力は10なので連続で使えるのは3回だけですね」
「30!?そりゃ戦闘には使えないな。そんなんでよく魔法を覚えようと思ったな」
「ドンマイ!」
素直に質問に答えただけなのにそこまで言われるとは。才能は無いのは自覚してたけどかなりへこむ。イスカの励ましがもはやトドメに聞こえるぞ。
「ドラ子さんの魔法は……?」
俺は若干拗ねながら聞く。
「戦闘用の魔法は初級から上級まで大体使えるぞ。得意なのは炎だな。魔力量も6000はある。まあ料理に必要になったらいつでも使ってやるよ」
「ありがとうございます」
桁の違いに俺はもう涙を流しながらお礼を言う事しかできなかった。
「さて、次はイスカのギルカだが、さっきも言った通り機密情報だ。口外したら俺が直接お前を罰する」
「罰ですか、わかりました……」
俺は息を飲みながらイスカの取り出したギルドカードに目を向けた。
[名前]イスカ
[レベル]21
[職業]エンチャンター
[スキル]なし
えぇ……俺よりレベル高い。俺は再びダメージを受けた。
職業はエンチャンター。魔法でバフをかける職業だからスキルが無いのも納得だ。
「イスカが使える魔法は何ですか?」
「アタックブースト、ディフェンスブースト、リジェネレートだな。前にダンジョンに入った時確かめた」
エンチャンターは確かに珍しいけど、そこまで秘密にする職業でもないような。
魔法も普通だし何がマズいんだろう。疑問に思った俺は思い切ってドラ子さんに聞いてみることにした。
「これが機密ですか?」
「これだけじゃない、イスカに関すること全てが機密だ。そろそろダンジョンを登る目的とイスカについて話してやるか」
beautyでも凄く警戒していたな。ついに秘密が明かされるのか。
「家族に届けると言ってダンジョンを登り始めたんだ、もう察してると思うがイスカはこのダンジョンの最上階から来た。つまりこのダンジョン自体がイスカの家みたいなものだな」
何となく予想はしていた、けどそれだとさらに分からないことが増える。
俺たち冒険者は古代の種族が作ったこのダンジョンを登ってお宝を持ち帰り富を得ていた。
でもイスカの家がこのダンジョンだとすると冒険者って泥棒ってことになってしまう。
「つまり俺たち冒険者は今もいる古代の種族の家を漁って金に変えてるってことですか!?」
「まあ考え方によってはそうなるな」
ドラ子さんは否定しない、今の冒険者は泥棒って事で確定してしまった。
「まあ安心しろ、その古代の種族。つまりイスカの種族たちの了承も得ているし、冒険者ギルドのロビーがあるくらいだ、悪い事じゃない」
「よかった。でも謎は残ります、なんで冒険者はイスカたちの家、ダンジョンで富を作る事が許されてるのか。俺にはちょっと理解できません」
「多分これはお前が聞いてもあまり気持ちのいい話じゃないぞ。けどあらぬ疑念で動きを止められても困るから言うが……本当に機密だからな!」
ギルドマスターであるドラ子さんがここまで警告するって事は本当に大事なんだろう。
「まずイスカの種族、空翼人って知ってるか?」
「いえ、種族にはあんまり詳しくなくて」
「じゃあ原初の魔王の神話は?」
「それなら知ってますよ。小さい頃よく親に言う事聞かないと原初の魔王が食べにくるって脅されてました。この国の子供はみんなそうなんじゃないですかね」
「簡単に言えば、空翼人はその原初の魔王を倒すのに多大な貢献をした偉大なる種族だ」
「へぇ……」
ドラ子さんはそう言うが俺としては遥か昔の出来事。それ以上の感想はない。目の前のイスカは食べることが好きなただの可愛い女の子なんだしな。
「その空翼人っていうことが機密なんですか?」
「そうだ、空翼人の知識は広くこんなダンジョンさえ作り出す。さっきお前は言ってたな、冒険者はダンジョンのお宝を持ち出して富を得るって。空翼人はその気になれば同じものをいくらでも作り出せるって事だ」
「あ……」
実際ダンジョンには普通では作りえない魔力を持った強い武具や生活を便利にする機械。国中が驚くような娯楽、未だどう使うかわかってない謎の物が沢山発見されている。
それらが全て自由に作れて使い方も分かれば……無限の富を生み出すイスカたちはあらゆる種族から狙われることになる。
「た、大変じゃないですか!早くイスカを隠さないとマズいですよ!」
自分の名前が出てイスカはパウンドケーキを食べながら首を傾げた。
「だから機密だって言ってるだろ。全く」
「すいません、じゃあイスカたちがダンジョンに住んでる理由ていうのは……」
「空翼人も昔は地上に住む者たちとの交流があった。しかし次第に心ない者たちがその深い知識と技術力を求めるようになった。だから空翼人は交流を絶つためにダンジョンに住んでいる」
「それが空翼人……でも待ってください、じゃあなんでギルドはダンジョンでの冒険を許可してるんですか?空翼人のことを知られちゃいけないんでしょ?」
「ダンジョンはな、空翼人が生きるために必要な施設なんだ」
「生きるための施設?」
「空翼人だって生きるためにはエネルギーが必要だ。そこでダンジョン内にいるありとあらゆる生物から運動エネルギーを吸収している」
運動エネルギーの吸収?ちょっと話が難しくなってきたぞ。
「えっと?具体的にはどういう……」
「俺に聞くな……それにそこは重要じゃない!ただ俺たちがダンジョンで動けば動くほどエネルギーは溜まるって言ってた。だからモンスターも冒険者も迎え入れてるって話だ」
「な、なるほど?細かい所は分からないですが、冒険者は空翼人の糧になってるって事で合ってますか?」
「そんな感じだな、だから冒険者には気持ちのいい話じゃないんだ。モンスターに負ければ死ぬことだってあるしな。だが最初にダンジョンに立ち入ったのは冒険者の方だぞ。最初ある冒険者がダンジョンの物を勝手に持ち出して、俺が頭を下げに行ったんだからな。けど冒険者の侵入は思いの他エネルギー効率がよかったらしい、それで空翼人は冒険者にもダンジョンを開放した」
「……つまり、許可はあるし俺たちは泥棒じゃないんですね」
ダンジョン始まりの歴史ってそんなんだったのか。
確かに俺たちが糧になってるなんて気持ちい話じゃない。
でもダンジョンがなければ俺も冒険者になろうなんて思わなかったしな。
納得は出来る……けどなんかかっこ悪いぞ冒険者。
「ともかく、そんな理由だからイスカの事は絶対に機密だ。厄介な奴に目を付けられない為にも情報は出さない方が良いんだからな。もし漏らしたりしたら……」
ドラ子さんは鬼のような形相で俺を睨む。ドラゴンだけど。
「分かってます、このことは墓までもっていきますんで!」
威圧に耐え切れず俺は即座に敬礼し返事を返した。こえー。
「ただ道中はドラ子さんもいるし楽そうで安心しました。早いとこダンジョン登っちゃいましょう」
話してる途中イスカはパウンドケーキを俺とドラ子さんの分まで平らげた。買ったものだからお替りは無い。さっさと出発してごまかしたいところだ。
「それなんだが……お前のレベルが想定以上に低くてな。ある程度鍛えてやるよ」
「え?」
ドラ子さんいたずらな笑みを浮かべながら言った。




