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迷子の塔  作者: banbe
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第6話

 beautyに入り、ドラ子さんからの依頼を店長とイスカに伝える。

 店長は二つ返事でOKを出してくれて、イスカは両手を上げ喜んだ。

 そしてまだ日が高いのに店は一時閉められ、パーティーの準備が始まった。

 とは言ってもその場にいた客の冒険者たちも準備を手伝うと申し出でくれた。そのため料理の提供を一時中断しただけ。

 噂を聞きつけた他の冒険者たちがどんどん手伝いにやってくる。ごつい腕で店の飾りつけをする姿はシュールだったけど、人数がいたこともあり、飾りつけはあっという間に完成してしまった。

 後は料理ができるのをイスカは満面の笑みで待っていた。

 俺が作るのは蜜を練り込んだ甘いタルトだ、たぶん冒険者たちからは不人気だろうが、これはイスカのためのデザートだ。

 それから何とか日が落ちる前に、デザートを含めた料理が完成する。

 街の中では既に話が広がり、次々と冒険者がbeautyに集まった。


「さあ準備が出来たわ!イスカちゃんbeauty卒業パーティーの始まりよ!カンパーイ!」


 店長は音頭を取る。このパーティーではドラ子さんから貰った金貨でできる限りの食べ物と酒を準備した。そのおかげで冒険者たちはタダ酒に喜んだ。


「うおおおおおお」


 店の中で冒険者たちは大いに騒ぐ、そして主役であるイスカの周りには色んな冒険者たちが集まった。


「イスカちゃーん元気でな~」

「家に帰ったらもうここに来れないの~?さみしいわ~」

「俺の唯一の癒しなんだ、帰らないでくれぇ!」


 みんな思い思いの言葉をイスカに伝える。イスカはどうしていいのか分からないみたいでおろおろしていた。


「ちょっとちょっとイスカちゃんも困ってるじゃない!それにこのパーティーでイスカちゃんには役割があるんだから」

「役割?」


 店長の言葉に俺は首をかしげる。なんか催しでもやるのかな?何も聞いてないけど。


「本日限定イスカちゃんのお酌よ!」

「おおおお!」


 冒険者たちのイスカへの最後のふれあいって事か、良い催しじゃないか。


「はい、並んで並んで。お代はこっちの箱に入れてね」

「いや、お金取るのかい」

「これは金儲けチャンスよ!」


 店長は椅子に座るイスカの横に集金ボックスを持って冒険者たちを並ばせる。

 有料と聞いてもイスカとの最後のふれあいのためか、冒険者たちは素直に店長に従いイスカの前に列を作る。みんな律儀だなぁ。

 それからイスカのお酌が順に始まった。列は結構長いけどパーティーの主役にこんな働かせていいのかな。


「お、なんだなんだ」

「パーティー?」


 そこへ今までダンジョンに潜っていたパーティーを知らない一団がやって来た。

 その中には俺の仲間たち、グレート団の姿があった。


「おう、ダンクこれはどうしたんだ?」


 イグレがパーティーについて聞いてきた。事前に知らなかったらそりゃ驚くよな。

 俺は今日会った事を説明する。


「イスカの迎えが来たんだ、それでここで働いてたイスカのためにお別れパーティーをしてたんだ。代金は迎えの人から出してくれたから料理も酒も早い者勝ちだよ」

「なんだって、おいお前ら早く行くぞ!」


 グレート団もパーティーに加わって、酒の入ったジョッキを持ったままイスカに絡みに行った。

 ダンジョンから帰ってすぐのはずなのに、元気な奴らだ。

 パーティーは冒険者たちが酔っぱらっても続く。

 ようやくお酌から解放されたのか、イスカは周りに絡まれながらもタルトを頬張っていた。

 デザートのタルトは女性冒険者も少しは食べてくれたみたいだけど、ほぼイスカ専用になっていた。まあイスカのために作ったから良いんだけどね。

 俺はイスカの隣に座る。


「美味いかい?」


 俺の言葉にイスカは満面の笑みで親指を立てる。

 俺がイスカのために作れる最後のデザート。気に入ってくれてよかった。

 絡んでいた冒険者たちも空気を読んだのか、俺とイスカから離れ騒ぐ。ちょっとくらいゆっくり話してもよさそうだな。


「イスカ、ありがとな。俺、みんなに追いつけないのずっと悩んでたんだ。でも君が来てくれたから冒険者をやめる決断が出来たんだ。本当に感謝している」


 ちゃんと話を聞いてくれていたのかイスカは俺の肩に手を置き、またも親指を立て言った。


「ドンマイ!」

「ははっなんだそれ」


 俺の気持ちを分かっているのか、いないのか、イスカの適当過ぎる励ましに俺は噴き出す。


「イスカはこの一週間どうだった?」

「#~=*……コンポート!パイ!タルト!ウマカッタ!」

「デザートばっかりじゃないか、でも美味かったか!……イスカらしいな」

 

 俺とイスカは満面の笑みで向き合う。

 一週間一緒にいたけど、どうやら湿っぽい別れにならずに済みそうだ。


「なんだ二人して楽しそうだな」


 イグレたちがジョッキとつまみを持って俺とイスカの周りに集まってくる。


「お別れの挨拶でもしてたのか」

「私もするーイスカちゃーん、また会えるかなー」


 そう言ってナンティはイスカに抱きつく。

 ナンティからは酒の匂いが漂ってきてイスカもしかめっ面をして困っていた。

 ギルドマスターが直接迎えに来るくらいだ。一冒険者がおいそれと会えるような身分じゃないんだろう。

 イスカには悪いけどナンティの熱烈なお別れを俺は暖かな目で見守っていた。


「しかし、ダンジョンから落ちて来た子はどこにどうやって帰るのだろうな……」


 そうグルーが呟く。

 確かに、落ちて来た時も家族の場所を聞いたらダンジョンの上を指していた。高ランクな冒険者の所の子供なのか、でもギルドの受付も冒険者じゃないとダンジョンには入れないって言ってたし、結局謎は残る。

 ドラ子さんも話すために人払いまでしたし、俺たちが真相を知る機会はないんだろう。

 そう考えると、今後本当にイスカと会う機会がなくなるんだろうな。

 もう二度と会えない故のお別れ会。俺はふと納得してしまった。


「実は迎えに来たのがギルドマスターだったんだ、だからあまり詮索しない方が良いかもね」


 俺はグルーに返す。


「……Zzz」


 腕を組み、考え込んでいるかのようなグルーからの返事をしばらく待っていたが、何とグルーは寝ていた。


「また寝てるのかよ!」


 ホントこいつ紛らわしいな。

 隣を見るとナンティもイスカにもたれ掛かり眠っていて、イスカはあきらめてそのままデザートを食べていた。反対のイグレも眠気で舟を漕いでいた。

 周りを見ると店内の半分くらいの冒険者も酒でつぶれていて、お別れ会は終わりに近づいていた。

 用意していた酒も料理もなくなり、今残ってる冒険者たちは自腹で飲み食いしている状態だ。

 店長は俺の元へ来る。

 

「そろそろお開きね、今日は特別に店は閉めないでこいつらをこのまま寝かせておくけど片付けは手伝ってちょうだい」


 俺は店長の言葉に席を立つと、イスカもナンティを払いのけ一緒に立ち上がる。


「あら、イスカちゃんは主役なんだからゆっくりしてていいのよ?」

「んーん」


 仲間外れが嫌なのか、イスカは不満げな顔で店長の言葉に首を振る。


「くぅ良い子ね!じゃあ少しだけ手伝ってね」

「ヴィ!」


 イスカは元気よく親指を立てた。


「ほら、仲間の寝床を提供するんだからあんたたちも手伝いなさい!」


 そろそろ店も閉める時間。店長はそう言ってまだつぶれていない冒険者たちを手伝わせた。

 そして閉店後、潰れていない冒険者はその足で帰り、カウンター席には俺とイスカ、店長が三人で座っていた。


「あなたはお酒飲まなかったのね」


 店長が飲んでるのはおそらくお酒なのだろう、それを飲みながら俺に聞いてきた。


「……これは俺の冒険者として最後の依頼ですからね。酔っ払いながらイスカを見届けるなんてできませんよ」

「そう……」


 片付けも終わりイスカの迎えを待つ中、イスカは俺の作ったコンポートを食べていた。

 迎えを待つ間イスカに作ってとねだられたのだ。

 イスカの座る椅子の脇には、この一週間で増えたイスカの荷物が置かれていて既に帰る準備は万端だ。

 

「すまねえ!遅くなった!」


 そこへドラ子さんが飛び込んでくる。幸い、その音で起きる冒険者はいない。こんな所なのにみんな熟睡しすぎだ。


「うわ、なんだこれ……」


 潰れた冒険者たちを見てドラ子さんは一瞬入るのを躊躇する。あたりを見ると死屍累々、気持ちは分かるけどみんなイスカとの別れを惜しんで来てくれた冒険者たちなのだ。そのことをドラ子さんに伝える。


「みんなイスカとお別れするために来た冒険者たちですよ」

「へぇ、イスカのためにこんなに……店主よ、看板娘取っちまって済まねえな」

「本来はこんなところで働くような子じゃないんでしょ?少しの間でもいてくれてよかったわ」

「そうか、じゃあイスカ」


 ドラ子さんがイスカを呼ぶ。するとイスカは荷物を持つ。


「元気でね」


 別れの挨拶は短めに俺は手を振る。けどイスカは早々にドラ子さんの元へ行って何やら話し始めた。なんかマズかったかな。

 話し終わるとイスカは改めてこっちを見て大きく手を振った。


「アリガト、ダンク!」


 そうか、お礼の言葉を聞いてたのか。満面の笑みで手を振るイスカの姿を見て、少しウルっと来てしまった。

 俺も大きく手を振り二人は店から出て行った。

 これで俺の冒険者としての最後の依頼は終わった。


「行っちゃったわね、さて明日もあるしさっさと休むわよ」

「……はい」


 俺は後ろ髪引かれながらも二階の自室に戻った。



 そして翌朝――仕込みのため厨房に降りていく。


「おはようございます」

「おはよ……」


 潰れた冒険者たちはすでに店長に帰されたらしい。店の奥のテーブル席を見ると冒険者は誰一人いなかった。

 ふとカウンター席を見る、するとそこにはイスカがデザートを食べてる姿が見える。

 こんな幻を見るなんて昨日の別れは自分の中でも結構重かったのかな。

 まあ一週間ずっと一緒だったからな。それがもう会えないとなると名残惜しくはあるか。

 イスカは俺の作るデザートを美味そうに食べてくれていたな。しかしよく食べる幻だ。


「……この幻リアルだな」

「幻じゃないわよ……」

「は?えっ!」


 店長の返答に俺は大声を上げてしまった。幻じゃない、という事は本当にイスカがここにいる?


「イ、イスカ?」

「ヴィ、ダンク!」


 デザートを食べていたイスカは、俺の呼びかけに答えるように元気よく返事をした。


「店長!?なんでイスカがここに?」

「さぁ……朝、仕込みをしようとしたらなんか居たのよ」

「えぇ……イスカ。ドラ子さんはどうしたの?」

「"#$~&!」


 ドラ子さんの名前を聞いたイスカは露骨にしかめっ面をして話す。内容は分からないけどなんか愚痴っぽい。喧嘩でもしたのかな。

 それにしたってドラ子さんはギルドマスター。そんな地位の人が責任ある仕事を途中で投げ出すとは思えない。今頃イスカを探しているはずだ。


「ドラ子さんが迎えに来るまで預かるしかなさそうね」


 店長も同じ結論に達したのか俺たちはイスカの面倒を見つつ仕込みを始めた。

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