第56話
キリクのいた大部屋からしばらく奥に進むと、鉄の扉が現れる。
ドラ子さんはキリクから教えてもらった番号を入力すると、鉄の扉は開いた。
その先には階段が見える。
「ボスかぁ、ハードな連戦が続きますね」
ここまで下の階からモンスタートラップなど決して少なくない数の戦闘回数をこなしてる。直前のキリク戦も大変だったから俺の足は重くなっていた。
「だがこれが終わればもう頂上だ、張り切って行くぞー」
そう言ってドラ子さんはどんどんと前に進んで階段を上って行く。ドラ子さんはやる気だ、こうなったら俺も覚悟を決めるか。
そして俺たちは階段を登り切り100階へ到達した。いざボスへ挑もうと道なりに進むが――。
「……あの、なんかこの道長くないですか?」
「だよなぁ、終わる気がしない。いつもならもうボス部屋に到達しててもおかしくないのに」
俺たちは長い長い一本道を歩き続けていた。
ドラ子さんも違和感を覚えているようだけど、続いている以上とにかく進むしかない。
数分間歩き続けて到着した部屋の扉は、今までのボス部屋の扉と違いとても普通の取っ手式の扉だった。
「これボス部屋ですよね?」
「さぁ?まあ入ってみればわかるだろ」
ドラ子さんは躊躇いもなく部屋の扉を開ける。
すると入った瞬間イスカが声を上げる。
「あ、ここゲーム部屋だ!ダンジョンとそのまま繋がってたんだー」
ゲーム部屋?ボス部屋じゃなくて遊びに関する部屋か?
入ってまず目についたのは複数のベッドのようなものが並んでいる光景。
壁もパステルカラーに彩られていて賑やかだ。半分子供部屋のような雰囲気を纏っている。
隅には白くて丸いテーブルと椅子が数脚。とてもこれから戦うボス部屋って感じではなかった。
「あ、冒険者さんですか?」
すると部屋の入り口で人とも動物とも違う謎の物体に話しかけられる。
「そうだけど君は一体……」
「あー!いやがった!」
俺が謎の物体に対応しようとすると、ドラ子さんがいきなり声を上げる。
ドラ子さんの目線の先にはアイマスクのようなものをつけてベッドのようなものに寝転んだ金髪の男がいた。
「なんだ、騒がしいな」
男はアイマスクのようなものを外して上体を起こして俺たちを見るとすぐに喜びの表情を見せた。
「おぉ!先生だー」
「ええと……あの、説明をしたいのですが……」
謎の物体はドラ子さんと金髪の間でオロオロしながら困ってる。
なんだか場が混乱してきたな。
ドラ子さんは何やら怒ってるし金髪の男は嬉しそう。
挙句の果てにイスカは俺の後ろに隠れてしまう。
「あ、あのドラ子さん、とりあえず説明聞きません?」
「ん?ああそうだな。ラキ!お前は大人しく待っとけ。後で説教だからな!」
「えーいきなり!?俺何もしてないでしょ!」
金髪の男、ラキさんはふくれっ面でベッドのようなものに腰掛けながら文句を垂れた。
「うるさい!あー説明はあんたがしてくれるのか。その前にあんたは何なんだ?見た所生物じゃないようだが」
ドラ子さんは謎の物体に尋ねる。
「はい、私はこのエリアに来た冒険者の世話を任されているオートマタです」
「オートマタ?」
機械の人形のことか。確かに見た目は鉄製の体、足はなく車輪で移動していて顔であろう部分には光で絵が表示されている。
「オーちゃんはね、ここでご飯を出してくれたり、色んなゲームを遊ばせてくれるの」
俺の後ろで隠れながらイスカはこのオートマタの説明をしてくれた。
「それはイスカ様だけです、本来ここは100階のボス部屋、冒険者の皆様には私の指示に従ってもらいます」
「ここはボス部屋なのか?だったらあんたを倒せば良いって事か?」
ドラ子さんは拳を握りしめるがオーちゃんは慌てて否定する。
「いえいえ、このボス部屋は少し特殊です。あなた達にはあるゲームに挑戦してもらいクリアしてもらいます」
「ゲームぅ?俺はあんまりゲームの類は嗜まないんだが……」
「いいや違うよ先生、俺たちが挑戦するのはボードゲームの類なんかじゃない。このバーチャルゴーグルを使った没入型映像体験ゲームさ!」
ラキさんはオーちゃんの説明に続き、なぜか自慢げに説明し始める。なんか専門的な用語が多くてよく理解できないけど……。
「ふーん?よくわからんがそれをやったらいいのか?」
「その通りです、この部屋のクリア条件は提供するゲームでエンディングを見ること。私はここに来た冒険者が条件を満たすか諦めるまでお世話をさせていただきます、何でもお申しつけください」
「なんだ、ずいぶんと気前がいいな。腹が減ったら飯も用意してくれるのか?」
「勿論です」
「ほう、じゃあいくらでも挑戦できるじゃないか。分かったありがとう。じゃあ次はお前だラキ!」
ドラ子さんは目を吊り上げて怒りの形相でラキさんと向き合った。
「まずいろいろ聞きたいことがあるが長い間何やってたんだ」
「そう怒らないでよ先生ー。俺だって頑張ってるけどこのボス部屋がクリアできないんだよぉ」
ラキさんは半泣きでドラ子さんに許しを請う。
「はぁ?お前程の力を持つ奴が苦戦してるのか?」
「これに関しては実力が完全に枷になってるんだ。俺が難しいんだから先生は完璧に詰むと思うよ」
ゲームとやらが想像できないので俺とドラ子さんは顔を見合わせる。実力が枷になるってどういう事だろう。
「まあそれはやればわかるだろうから置いておこう、俺が一番キレてるのはイスカのことだ!」
ドラ子さんは俺の後ろに隠れているイスカを指してラキさんに怒鳴る。けどラキさんはイスカを見て呑気に言葉を発した。
「あれーあの時の子じゃん。無事に下に下ろせるように思いっきり魔力込めたんだけど戻ってきちゃったの?」
「はぁ?お前わざとだったのか!」
「え、なんか問題あったの!?」
なんか話がかみ合ってないな。そもそもイスカのことは極秘だしラキさんは事態を把握しているのか?
「ドラ子さん、イスカから話を聞いた時俺はラキさんが元凶だと思ってたんですがこれラキさんも何やったのか理解してないのでは?」
「おお、お前いいこと言うな!そうだ先生、俺が何かやっちゃったんなら、せめてそれを教えてくれよ」
ラキさんはドラ子さんに抗議する。
「お前……幾つもダンジョン攻略してるのに空翼人のこと知らないのか?」
「いや、それくらいは……ダンジョンを作った種族だろ?それが何か?」
「イスカはこのダンジョンに住む空翼人の娘だ」
「……えっ?ってことは俺は……」
ラキさんはドラ子さんの話を聞いてやっと事態を理解したようだ。
「ダンジョンに住んでいた家族を引き離したんだ……」
「うえぇぇぇとんでもなくやらかしてる!俺はてっきりダンジョンに迷い込んだ子供だと思ったから下ろしたのに……」
「お馬鹿!もし迷子だとしてもこんな頂上付近まで来るか!しかもお前に対するイスカの第一印象は最悪で怖がっている」
「その子を下ろしたのは、えーと……」
記憶をたどるようにラキさんは考え込む。
「はっ!このゲームにキレてぶっ壊した時だ!イ、イスカちゃーん俺は怖くないよー」
不自然な笑顔で急に俺の後ろに隠れているイスカに笑いかけるラキさん。それじゃ逆効果だって。俺が思った通りイスカは超嫌そうな顔をしながら引いていた。
「とにかく!すまなかった!知らなかったとは言えそんな大事になってるとは……」
「はぁ……イスカ、こいつは馬鹿なんだ」
「はい!俺は大馬鹿です」
ドラ子さんに言われるがままに頭を下げるラキさん、それでいいのかA級冒険者。
「……別に怒ってないからいいよ」
俺の後ろからひょこっと顔を出してイスカはラキさんに答える。
「えーとなんて?」
そうだ、イスカの言葉は俺やドラ子さん以外分からないんだった。
「イスカは別に怒ってないってよ」
ドラ子さんがラキさんに通訳する。
「そ、そうなのか!よかったぁ。本当にごめんな、怖がらせた上余計なことをしたみたいで……」
「イスカは優しいからな。だが!俺は怒ってるぞ!お前がこの事態を引き起こしたのには変わりないんだ。帰ったら罰があると思え!」
「勘弁してくれよぉ先生ぇ……」
どうやら今回の事態を引き起こしたラキさんはドラ子さんに罰せられてしまうようだ。南無。
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