第54話
これまでのダンジョンギミック通り、俺たちはキリクを倒せないと先へ進めないってことか。
それにしてもドラ子さんの動きはなんだか変だったな。
「様子見は終わりだ、ここからは普通にやらせてもらうぞ」
「いいぜ、啖呵切ったお前の力、見てやるよ」
「「竜気!」」
二人は拳に竜気を溜めた。
あんなの食らったらお互い、かなりのダメージになるんじゃないか?
二人は攻防しながら竜気を叩き込めるタイミングを作り出そうとしている。
「もらった!」
「ちっ!」
まず仕掛けたのはドラ子さん、一瞬遅れてキリクも竜気を纏った拳を放った。
どう見てもドラ子さんの方が早い、俺たちはドラ子さんの勝利を確信していた。
しかし竜気を纏った拳を顔面に受けて吹っ飛んだのはドラ子さんの方だった。
「ぐあぁ!」
「ドラ子さん!」
「えっなんで!?ドラ子さんの方が早かったのに……!」
イスカが聞いてくる、俺もはっきり見えた訳じゃないから定かではないけど何となくドラ子さんがやりづらそうにしてた原因が分かった気がした。
「たぶんリーチだよ」
「リーチ?」
「ドラ子さんは子供の姿。だけどあのキリクは恐らく190以上はある大男だ。だったらいくら早かろうとリーチの長い方が圧倒的に有利なんだ」
「そんな……」
「それよりイスカはドラ子さんの所へ行って回復してあげてくれ」
「そ、そうだね!分かった!」
壁際まで飛ばされたドラ子さんの元にイスカは向かった。
「そんなものか!ドラグヌスゥ!」
キリクはドラ子さんに一発食らわせて興奮しているようだ。
後ろでは……うん、イスカがちゃんとドラ子さんを回復してくれている。
あのシームルグの回復の力があればドラ子さんはすぐに戦えるだろう。
けれど、ドラ子さんの元に向かったイスカから思いもよらない言葉を聞くことになる。
「だめ、ドラ子さん気絶していて起きない!」
「なんだって……」
それを聞いたキリクは一歩踏み出しドラ子さんの元へ行こうとするが、その対角線上に入って俺は止める。
「待て、ドラ子さんをどうするつもりだ」
「無理やりにでも起こす。お前たちは先へ進めばいい。俺の狙いはドラグヌスただ一人だからな。パスワードは5012だ」
「……」
パスワードは知れた、けど俺はドラ子さんとキリクの間から動かなかった。
「なんだ?邪魔をするな、お前は正直そこまで強くないだろ。さっきも言ったが俺の狙いはドラグヌスだけだ」
「あんた、冒険者じゃないんだな」
「ああ、違うが?」
「冒険者のルールにはこういうのがあるんだよ……仲間は絶対見捨てない!ドラ子さんが起きるまで俺が時間を稼ぐ!」
俺は鍋を構えガードの姿勢でキリクに立ちはだかった。
「冒険者とは難儀なものだな、だが俺には戦う理由が無いぞ?」
キリクは俺の横を通り過ぎようとする。
やばい、このままだとあいつは殴ってでもドラ子さんを起こそうとするだろう。何か俺に注意を向けられる方法は……。
「理由ならあるさ」
「ほう……聞かせてもらおうか」
キリクの足が止まった。ハッタリでも何でもいい、ドラ子さんが起きるまで少し時間を稼ぐんだ。
「俺はドラ子さんの弟子なんだよ、自分が弟子入りを断られて逆恨みしている手前、俺の存在は無視できないんじゃないのか?」
その言葉を言った瞬間キリクからの裏拳が飛んでくる、幸い鍋でのガードで受けることができた。鍋は頑丈で傷一つつかなかったけど衝撃を受けた俺の腕はめっちゃ痛い。
「弟子か……弟子!こんな弱いのが弟子だと!俺を断っておきながら!?いいだろうドラグヌスの弟子を俺に名乗ったことを後悔させてやる!」
よし!釣れた!後はドラ子さんが起きるまで時間を稼ぐだけ!
「スキル、プロテクト」
「ふん!」
キリクの正拳を鍋で受ける。
なんてパワーだ、これも受けるのが手一杯だしダメージは貫通して来る。
俺はスキルを使ってるにもかかわらずガードの上から吹っ飛ばされてしまった。
しかし追撃とばかりにキリクは攻撃の手を緩めない。
吹っ飛んだ先に待ち構えており、今度は蹴りを食らった。
「ぐぁ!」
完全にガードはしたはずだった。
しかし鍋の上からでも衝撃を受けきれず肩が動かなくなる、これは肩が外れたのか……。
そんな状態で鍋を構える事は出来ず今度は体に直接ボディーブローを食らってしまう。
「ぐっ」
この一撃で肋が何本か折れた気がする。
マズい、呼吸が安定しない。俺の力量じゃキリクの攻撃をガードすることは無理だ!でも、せめてドラ子さんが起きるまでは……。
次に蹴りが飛んでくる。軌道は頭、これは食らったら確実にヤバイ。
俺はぶら下がってる鍋を装着している方の腕を持ってスキルを発動する。
「アタックガードォ!」
タイミングはばっちり、それでもキリクの蹴りの威力は受けきれず俺たちは互いに吹っ飛ばされてしまう。
「は、はは……どうだ……一発かましたぞ……」
「くっ……ついカッとなってしまった。だが今のでわかった、お前の様な弱者がドラグヌスの弟子な訳がない」
「はぁはぁ……ドラ子さんはこんな俺に色々教えてくれた。これで師匠じゃないって言うならなんだって言うんだ……」
「黙れ!」
一瞬で接近してきたキリクに顔面を掴まれ持ち上げられる、頭の骨が割れるようだ。
「あ、あぁ!」
「ダンク!」
ドラ子さん、早く起きてくれ……!
その願いが通じたのかイスカがドラ子さんの目が開いたことを教えてくれた。
「ドラ子さん起きた!」
「うーん、モロに食らっちまった……イスカ俺はどれくらい気を失っていた?」
「ほんの少しだけど……」
そうしてドラ子さんは体を起こす。
「そのほんの少しでダンクがボロ雑巾みたいになってるぞ……でもそんなダンクに助けられたようだな」
「ふん!」
キリクは俺をイスカの側へ投げる。
「ぐあっ!」
「その少女がヒーラーだろ、最初に言った通り俺の目的はドラグヌスだけだ。お前らは邪魔だ、さっさと治して先へ進むがいい」
そう言って再び立ち上がったドラ子さんと向かい合う、しかしドラ子さんはそんなキリクを無視して俺の心配をした。
「色んな所折れてるじゃねえか……かなりの無茶したな」
「冒険者は……仲間を見捨てないんですよ……」
「……だな。イスカ、ダンクを治してやってくれ」
「ヴィ、フェロフ・グレース」
イスカの首元にあるシームルグの羽が光り出し俺の体を癒していった。
「な、治った……」
外れた肩も折れた肋も治り顔の痛みも消えた。
やっぱりシームルグの羽の効果はすごいな。
「さて、パーティの仲間をここまでボロボロにされたんだ、俺も少しやる気を出さなきゃな。冒険者は仲間を見捨てないんだぜ……」
「たった一撃入れた程度じゃ俺も満足できないが……だがリーチの差はどうする?」
「そんなものどうとでもなる、ほれ」
そう言ったドラ子さんは目に見えるほどの竜気を手に集めキリクに投げた。しかしキリクは片腕でそれを払う。
「こんなものが対策か?それよりさっさと本来の姿に戻ったらどうだ?俺は竜を殺せるほどの力を得たんだ、全力でやり合おうじゃないか」
「そんなことをしたらこのダンジョンが持たないだろうが……だがこの姿で戦うのもちょっとハンデがありすぎるかもな。よし、お前の努力と強さに免じてちょっとだけ力を出してやろう」
「ちょっとだと?」
「ああ、あり得ないと思うがそれでもお前が勝るようなら弟子にでも何でもしてやる」
「面白い、今更弟子になんて拘ってはいないが……本気でお前と戦うためにさっさとその力とやらを出すがいい!」
「いいぜ、人化!」
ドラ子さんは叫ぶとドラ子さん自身の体が光り出した。その光の中でドラ子さんの身体はどんどん大きくなっていく。
「ドラ子さんが成長している?」
場の周囲の空気が変わる――
俺は目の前の得体の知れない強大な力を持つ存在に恐怖を感じていた。
「ド、ドラ子さん……?」
光が収まっていく。
そこには長い赤髪の美女が立っていた。
背は俺くらいありそうだ、足も手も長くスタイルもいい。
服は小さかったドラ子さんの物をそのまま大きくした感じでとても綺麗だ。
俺とイスカは現れたその美女にしばらく見惚れてしまっていた。




