第52話
「当たりの部屋だぁ?」
「そうさ、俺たちはお前たちが知りたがっているパスワードを知っている、十分戦う理由になるだろ?」
「ふーん……」
ドラ子さんはガーゴイルを値踏みするように眺める。
「まあいいぞ。ただパスワードを知ってるのはお前だけか?お前を殺しちまった場合、誰が教えてくれるんだ?」
「へぇ、ずいぶん自信家な冒険者だな。そんなことまず俺たちを倒してから考えな!」
ガーゴイルたちはドラ子さんに襲い掛かる。俺もイスカを守るため咄嗟に鍋を構えた。
しかし一分後――。
そこには地面に転がるモンスターたちがいた。
「ま、参りました……」
モンスターたちはドラ子さん一人に制圧されてしまう。
ドラ子さんに踏まれながら一体のガーゴイルは降参する。
「ったく、これでも全員殺さないように手加減したんだぞ。で?誰がパスワードを教えてくれるんだ?それ以外は倒していいのか?」
「降参したんだからこれ以上は勘弁してください……パスワードは2571です」
ガーゴイルは文字通り地面に頭をつけながら懇願した。
「はぁ……お前らみたいな高知能のモンスターが何で人間が上るダンジョンにいるんだ?本来はあんまり人間と関わったりしないだろ」
ドラ子さんは呆れながら尋ねる。
「このダンジョンの魔力は心地いいから居着いたんですよ。もう何年も人間は上がってこなかったので……でもそろそろ引っ越し時かなぁ。はぁ……」
ドラ子さんの質問にガーゴイルはため息をつきながら答えた。
なんだかかわいそうになって来たな。
「これからパスワードを聞くためにお前達みたいのを倒さにゃならんのか……お前ら何とかできないか?ここから先のモンスターとも繋がりくらいはあるんだろ?」
「あはは無理無理、俺たちはここで暮らしてるんですよ?縄張りに侵入者が来たら追い返すのは当たり前でしょう」
ガーゴイルはあっけらかんと言ってのけた。
「使えねえなぁ」
「まあそれだけの力があればここからの奴らからも簡単にパスワードを聞き出せるでしょう、健闘を祈ってますよー」
モンスターたちは既にやる気がないのか再び各々自由な恰好でくつろいでいる。
話していたガーゴイルも寝転びながら俺たちに手を振った。
「クソ、これからはこんなだるい奴らを相手にしなきゃいけないのか。しかもパスワードがあるから完全に倒せないし……」
個人的には言葉の分からない問答無用で襲ってくるモンスターよりかは愛着が湧くのだけど……どうやらドラ子さんにはそれが煩わしいらしい。
その後もずっと一人で文句を言っていた。
そして俺たちは来た道を戻るためUターンして鉄の扉まで戻る。
「2571っと……」
扉に到着してガーゴイルから教えてもらった番号を入力する、すると重そうな音を上げながら鉄の扉は開いた。
分かれ道に着くと、再び進む道を決めて先へ進む。
一度はモンスタートラップに当たったけど二回目に正解らしき道に着いた。
そこにはやはりモンスターがリラックスしていた。
「お、人間じゃーん。冒険者?」
モンスターは複数のハーピィ。けどドラ子さんはハーピィが準備する前に無言で制圧してしまった。
「いきなり酷くなーい?」
やる気のない言葉遣いでハーピィたちは抗議する。
「どうせ戦うんだろ?実力差は分かったはずだ、だったらこっちから向かっていった方が早い」
「ぐぬぬぅ……」
「さ、パスワードを教えろよ」
「8426だよ、あたしたちもそんなに弱くないはずなんだけどなぁ」
パスワードを聞いたドラ子さんは既に戻るためハーピィたちに背を向けていた。
「種族が違う、俺はドラゴンだ」
「そりゃ勝てんわ」
ハーピィはおとなしく負けを認めて再びリラックスし始める。
この階層のモンスターって言葉が分かるせいかみんなちょっと緩く感じるな。
そこからドラ子さんは当たりの道を行くたびにモンスターにはまず襲い掛かるという盗賊ムーブをかまし続ける。
「はぁ、何が悲しくてモンスターを襲っていかなきゃならんのだ……」
ドラ子さんはボソッと呟きながら先を歩く。
そして順調に進んで現在95階、ここはまるで80階層の家畜型モンスターがいた階のように広々していた。
最初から上るべき階段が見えるのも一緒、ただいるのは家畜型モンスターじゃなく普通のモンスター。
壁には大きなフラップドアがあり、翼を持つモンスターが自由に出入りしていた。
下のガーゴイルやハーピィもあそこから来たんだろう。
他にもクイーンアントやリッチなんかもいて、自系統のモンスターを生み出したり、魔法で地上のモンスターを召喚したりしていた。
「さしずめモンスター製造所って感じだな」
「この状況やばくないですか?」
「まあこの程度の連中なら問題ないだろ」
「ひえぇ……マジですか?」
モンスタートラップより遥かに多いモンスターの数に俺はビビる。
けどドラ子さんは気にせずダンジョンのど真ん中を歩き出した。ドラ子さんに離されないように俺はイスカと手をつなぎながら進む。
まるで小さな子供に守られてるみたいだが、実際ドラ子さんが一番強いのでこの姿は仕方がないのだ。
「おい、あれ人間じゃねえか?」
「ホントだ、冒険者か?」
ついにモンスターたちに見つかってしまった、まあこれだけ堂々とど真ん中を歩いてるんだから当然なんだけど。
向かって来たのはガーゴイルとウイングアント。
俺たちを見つけたモンスターたちは近づいてくる。戦闘態勢を取ろうとして鍋を構えようとした時、モンスターは口を開く。
「いやーこんな所まで上ってくるなんて凄いな!」
「人間達は本格的にこのダンジョンの攻略でも始めたのか?前にも一人ここを通った奴がいたけど」
なんとこのモンスターたち気易く話しかけて来た。
普通に話しかけて来たモンスターにドラ子さんは返す。
「俺たちは用があってダンジョンを攻略してるだけだ。それより前に通った奴ってのは金髪の魔法剣士だろ」
「お、あいつの仲間か。俺たちと話できると分かるとしばらくこの階に居着いてな……ああ、階段へ行くなら誰も邪魔はしないぞ」
「あいつはモンスターにまで迷惑かけたのか……」
あいつとは恐らく前に話していたドラ子さんのもう一人の教え子だろう。
それにしてもこんなにモンスターがいてどうして誰も襲ってこないのか?俺は疑問に思いガーゴイルたちに尋ねた。
「俺たちに何もしないで通すっていうのか?」
「この階は言わばモンスターが準備をするための階だ、休んでる奴もいるし正直ここで暴れられたら俺たちの方が困るんだ。勿論相手は見てるけどな」
つまりドラ子さんが強そうだから襲ってはこないって訳だ、やっぱり迂闊にドラ子さんから離れない方がよさそうだな。
「ま、俺たちは先を急ぐから居着くなんてことはしないから安心してくれ」
「それはよかった、人間に居座られたら落ち着かないしな。そうだ、上の階には俺たちの系統じゃないとんでもなく強い奴がいる、気をつけろよ」
モンスターに襲われるどころか逆に心配されてしまった……なんかここにいると感覚が麻痺しそうになるな、早い所階を上がってしまおう。
俺たちはガーゴイルと別れてモンスターの大群の中を歩く。
人間が珍しいのか注目はされるが本当にモンスターが襲ってくることはなかった、そうして変な視線の中無事階段を上がった。




