第50話
「……シームルグはかなり巨大に育つ。奴があれ以上ダンクの料理を食べ続けたら物理的にこのダンジョンから出られなくなるだろうなぁ」
ドラ子さんはイスカに乞われシームルグの説明をしてくれていた。
「シームルグっていうのは知恵と癒しを与える伝説的なモンスターだ。その効能は人智を超える、この羽があればどんな大怪我も治せるだろうな」
「くーちゃんてそんなすごいモンスターだったんだ……」
イスカも珍しい種族だ、別れの際言っていたがイスカの言う通り今後どこかで再会しても不思議じゃないのかもしれない。
現在91階。風景は下の階から変わって、石よりも硬質そうな壁が並んでいた。
明かりも、何やら天井が光ってる、これは下の階で見た明かりと一緒の物かな?
階段を上ったすぐ横で俺たちは休む準備をしながらドラ子さんからくーちゃんの話を聞いてた。
俺は晩飯を作り、ドラ子さんはくーちゃんが残した羽をネックレスにしてあげてる最中だった。
「くーちゃんってどこに住んでるんですか?」
「さあなぁ、力を持つモンスターは大抵不干渉なんだ。知識としては知ってるけどこにいるかまでは……よし、できた!」
「やった!」
イスカは完成したネックレスをさっそくつけて喜んでいた。
ちなみにひもの部分はドラ子さんの髪だ、なんでもその辺の蜘蛛型モンスターの吐く糸より強いんだとか。
「シームルグの羽と俺の髪がイスカを守るだろう、なんつってな」
そりゃ最強の装備だ、なんて心で思いつつ俺は晩飯を完成させる。
「今日はパンがまだ柔らかい内にかぶりつけるようにチーズホットドックにした。どれも新鮮だぞー」
俺は下の階で買った食材をさっそく使ったものを用意した。
イスカたちは早速かぶりつく、すると腸詰がパリッと音を出しチーズがトロリと伸びた。
「ウマー」
「このパリッていうのいいな」
イスカは大満足のようだ。ドラ子さんの分はパンにも軽く火を通してある。これなら文句なしだろう。
「あっ、俺の分取らないでくださいよ!」
二人の食べる手は止まらず俺の分まで奪われそうになる、なので俺も急いでホットドックにかぶりついた。
そうして夜、下の階と同じでダンジョン内も徐々に暗くなっていき辺りはもう、俺が料理に使った火以外に光源は無かった。
イスカが眠る横で俺も寝る準備をする。
「暗いですね、星は無いけどまるで本物の空と繋がってるみたいだ」
「仕組みは分からんけど連動してんだろうな」
「ダンジョンも外と同じように?なんでですかね」
「知らん。作った奴、イスカの両親に聞け」
その言葉で俺は気づいた、もう既にダンジョン攻略は90階を越えている。
イスカを送り届けるという俺たちの目標はすぐそこだ。そうなればイスカの親と会うことになるのか。
なんだか柄にもなく緊張してきた、しかし眠気はその緊張をすぐに上回り俺は眠りに落ちた。
そして朝がやってくるとともに天井の明かりは明るくなっていく。
ドラ子さんと見回りを代わった俺はその明かりを確認して朝食を作り始める。
「……なんかおいしいにおいがする」
するとイスカが寝ぼけ眼で起き出した、この子は本当に食べ物に敏感だな。
「もっと寝ててもいいのに」
「いやーたべるー……」
だからまだできてないんだって。仕方ない、イスカのためにすぐに作ってしまおう。
料理の匂いが広がるにつれ、イスカの目もどんどん覚めていく。
「出来た、腸詰めのリゾットだ」
昨日の腸詰を厚めに切って干し米と一緒に煮る、そして香辛料を入れて上に削ったチーズをかけて混ぜれば完成だ。
「んーおいしそー」
「ありゃ、なんだイスカもう起きてたのか」
料理の完成の声に釣られてかドラ子さんも起きてきた。
「朝から元気だなぁ」
「ドラ子さんもはやく、おいしそうだよ」
「分かった分かった」
こうして三人揃って朝食にする。イスカとドラ子さんは寝起きだっていうのに凄い勢いで鍋の中を空にした。
それから辺りを片付けて出発の準備をする。
「コンプス!よし。準備出来ました」
俺は小さくしたリュックを背負ってドラ子さんに伝えた。
「じゃあさっそく出発だ」
「おー」
ドラ子さんを先頭に俺たちは歩き始めた。
「改めて見てもこの壁が何でできてるか分かりませんね、感触は石っぽいけど切れ目も無いなんてまるで一枚の岩を切り出したみたいだ」
「これも空翼人の技術なんだろうな」
「わたしのお家はほとんどこれでできているよ」
イスカは自分も知っていることなのか、珍しく胸を張って壁のことを教えてくれた。
「へぇ丈夫そうだな」
俺は壁を軽く叩いてみる。空洞音もしないし相当硬そうなのが分かった。
この素材で作った家なら、そう簡単には壊れないんだろうな。
そうして俺たちは通路を進む。途中何度か分かれ道があったけど、この階でもドラ子さんのおかげで迷わなかった。そして――。
「これまたずいぶん頑丈そうな扉だな」
俺たちの目の前にはボス部屋の扉とはまた違う、行く手を阻む鉄製の大きな扉が備え付けられていた。
今度はドラ子さんが鉄製の扉をコンコンと軽く叩く。
「一発じゃ壊せそうにないな……」
「いや壊す前提ですか」
うーん力技過ぎる。脳筋なことを言うドラ子さんに対し俺は別のアプローチ方法を提案する。
「ほら、扉の端の方に何かありますよ。扉を開ける仕掛けがあるんじゃないですか?スイッチがあるとか」
俺が指さした方には何やら色々なボタンがついた装置があってみんなで近づいた。
そこには数個のボタンがついており、ボタンには1~9の番号が書かれている。
試しにドラ子さんが触ろうとすると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「パスワードを入力してください」
「うわっ!仕掛け喋った!?」
驚いて俺はつい声を出してしまう。けどドラ子さんもイスカも慣れているようで気にしていない様子だ。なんだかちょっと恥ずかしい。
「パスワードォ?そんなものどこかにあるのか?ダンク、ちょっと探してみるぞ」
俺とドラ子さんは扉を隈なく観察する。しかしそれらしいものは見つからなかった。
「……面倒だな、適当に押してみるか」
ドラ子さんは装置のボタンを適当に押す、するとどういう仕組みかは分からないけどボタンの上にあった黒い部分にドラ子さんが押したであろう数字が光の文字で表示された。
しかし当然扉は開かない。
表示されている光の数字は四桁しか表示されない、つまりパスワードとやらも四桁って事になる。
「四桁のパスワードねぇ……よし、壊そう」
「ええぇ……ここまでやってですか?」
「だって面倒だろ、行くぞーせーの、うらぁ!」
ドラ子さんは扉の真正面に立つと、大きく腕を振りかぶって拳を放った。
すると扉には大きな亀裂が入る。
ドラ子さんが二撃目を繰り出そうとした時、突如周囲に警報が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「ゲートの損傷を確認、至急修復作業を開始します」
その声が聞こえた後ドラ子さんが入れた亀裂にどこからともなく液体が流し込まれる、そして瞬く間に固まって扉は修復されてしまった。
「ありゃりゃ、元に戻っちまった……」
「ここは大人しくパスワードを探した方がいいですね……」
「でもその肝心のパスワードがどこにあるか分からないんじゃなぁ」
俺とドラ子さんは頭を傾けながら考える。そこにイスカが閃いたように考えを話す。
「もしかしてここまで来た分かれ道のどこかにパスワードがあるとか?」
「あー」
俺とドラ子さんは揃って感心した声を出した。
「なるほど、まだ見てない場所を確認するのはいい案だ」
「えーめんどくさくないか?」
「少なくとも壁を殴るよりダンジョンを探索する方が冒険者として健全だと思いますよ」
「ぐぬぬ」
めんどくさがるドラ子さんだったが俺の正論に黙り込んでしまう。
「じゃあ探索しよう」
「うん」
「仕方がない、戻るか」
こうして俺たちはこの階を探索するため来た道を戻ることになった。




