↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の塔  作者: banbe
PR
51/65

第49話

(人間よ……最後まで己の職務を全うしようと足掻く、人間よ……)


 誰の声だ?

 モンスターの攻撃は?

 俺は……どうなった?

 聞こえる声に問いかけようとするけど、腹の傷が痛む。どうやら死んではいないけど怪我はそのままらしい。


(あなたのその勇気ある行動を称え、生きるチャンスを与えましょう)

「なに?何の鳴き声?」


 俺の下にいるイスカも状況が分かっていないようで混乱している。

 

「イスカ!その羽に魔力を籠めるんだ!」


 ドラ子さんは叫ぶ。

 気づけばイスカの手の平には七色に輝く神々しい羽があった。


「これに魔力を……?」

「早く!」


 俺の視界はぼやけていて何が起こってるのか確認できない、感じるのは脇腹の痛みだけ。

 どうやらドラ子さんが広範囲魔法を使って周りを助けたようだ。

 けど、なんで俺たちは無事なんだ?


「この力があれば……」


 イスカはドラ子さんの言う通りにしたのか、何か視界が眩しい。


「ダンク今助けるからね。フェロフ・グレース!」


 ぼやけている視界でもわかる、何かが……虹色に輝いている。

 次の瞬間俺の視界は元に戻っていた。


「……えっ!?あれ」


 痛みはない、俺は脇腹に手を当てる。

 気が付くと、脇腹の傷も痛みも消えていた。


「た、助かった?」


 状況は全く理解できないけど俺はすぐに立ち上がる。


「ご、ごめん、重かっただろ?」

「いいの!ダンク……助かって良かった……ほんとに……」


 イスカは俺の手を握り、目に涙を浮かべながら言う。その声は震えていた。

 俺は状況を確認するため周囲を見渡す。

 すると大きなステュムパリデスが何十羽も宙に羽ばたいていた。中には最初の個体よりさらに大きい個体もいる。


「くーちゃんの結界だけじゃ持たない!お前も手貸せ」


 俺たちを守っていたのはイスカの背より少し小さいくらいのくーちゃんだった。

 くーちゃんは翼を広げ、俺たちを守るように結界を張っている。


「くーちゃん!?」


 こんなことできたのか。いや、ぼーっとしてる場合じゃないこの結界は既にヒビが入っていて今にも破られそうだ。

 何よりくーちゃんは敵の羽を受けたのか怪我をしている。


「くーちゃん、代わる!下がって!プロテクト!」


 俺は鍋を構えながらイスカたちの前に立つ。


「ダンク!ここにいる全部を狙う!全力でガードしろ!」

「わ、分かりました!ブレイブガード!」


 俺のスキルの発動を見たドラ子さんは部屋の真ん中に向かって走り出す。その全身は吹き出す竜気で金色に輝いていた。


「行くぞドラゴンキャノン・バラージ!」


 そう叫んだドラ子さんから何十もの竜気の球が発射される、その速度は凄まじく、光の線みたいに空間を走る。

 竜気が直撃したモンスターは次々と爆発して落ちていく。

 ドラ子さんの竜気はモンスターだけじゃない、俺たちの方にも竜気が飛んでくる。

 それを俺は鍋で受けた。けど、このパワーはヤバい!


「イスカ!バフを!それと俺から絶対離れるな!」

「ディ……ディフェンスブースト!」


 イスカは俺にしっかり掴まりながらバフをかけてくれる。


「うおおお!」


 恐らく三つ分の竜気が飛んできてるだろう。スキルの重ね掛けとバフも積んでるのに威力は全く殺せない。一瞬でも気を抜いたら吹っ飛ばされそうだ。

 あの頑丈な鍋もギシギシと音を立てて悲鳴を上げている。


「こ、こうなったら逸らす……!アタックガード!」


 スキルの反発を利用し何とか竜気を横に逸らす、少し角度のついた竜気は壁に向かっていった。すると壁には大きな穴が開く。


「はぁはぁ……イスカ大丈夫か!?」

「う、うん……」


 もう室内に動いているモンスターはいない、けど未だにドラ子さんの攻撃は続いていて竜気を放ち続けていた。

 ダンジョンの外から爆音が絶えず聞こえる。竜気はダンジョンの壁をも貫通してドラ子さんは本当にここにいる全てのモンスターを殲滅する気だ。

 そして最後ひと際大きな爆音が鳴り終わるとドラ子さんの竜気の放出が終わる。

  

「ふう、これで周囲は片付いたな」


 ダンジョンの中は爆発によるクレーターや貫通した壁のおかげで大きな戦争があったみたいになっていた。

 フラップドアも破壊され空いた穴からは、茜色の空が見えた。

 宝箱にも竜気が当たったのか、箱は見るも無残な姿、中身も勿論原形は留めていなかった。


「俺の宝箱が……くそぅ。これだからあんまり力を出したくないんだよ……」


 ドラ子さんは宝箱だったものを見て溜息をつきながら呟く。

 爆音が消えたダンジョンには、焦げた匂いだけを残して静まり返っていた。

 ダンジョンに空いた複数の穴からは夕日が差し込む。


「や、やりすぎですよ……けど俺が倒れてから一体何が起こったんです?俺はてっきりもうダメかと……」


 そう言って俺はくーちゃんを見る。


「……こいつは世界樹に住む幻と呼ばれる存在、シームルグっていう早い話伝説級のモンスターだ」


 説明がざっくり過ぎる、でも俺はくーちゃんのおかげで回復できたってことか。


「ありがとう、くーちゃん」


 俺はくーちゃんにお礼を言う、するとくーちゃんは翼で俺の耳を指して言った。


(人間よ、その耳の道具を少女へ渡してください)


 耳の道具……そうか、言葉が分かる耳飾り。これがあるから俺はくーちゃんの言葉が分かるのか。


「イスカこれを」


 俺は右耳の耳飾りをイスカに渡す、イスカも理解したのかすぐに受け取って自分の耳につけた。


(まずはあのモンスターに傷つけられ倒れていた私を介抱してくれたこと、お礼を言います。ありがとう)


 片耳からは人語、片耳からは犬の鳴き声が聞こえる。ここまでくーちゃんの鳴き声を聞くことが無かったから凄く違和感がある。


(最初私はあなたたちをどんな人間か見極めていました)

「……耳飾りを持つ俺がいたから声を上げなかったのか」


 正直、耳飾りをつけていることを俺はすっかり忘れていた。慣れって怖いな。


(そしてあなたたちは優しかった。それに命尽きるまで少女を守ろうとするあなたの勇気は助けるに値します)

「よかったなダンク、伝説のモンスターに認められたぞ」


 ドラ子さんは俺の背中を叩いて褒めてくれた。


「くーちゃん……」


 イスカはくーちゃんに歩み寄る。


(イスカ、あなたは私を助けてくれました。そのお礼に私の羽をさし上げます、その羽は優しい魔法を使うあなたならきっと正しいことに使えるでしょう。もう羽は使いこなせますね?)

「うん……くーちゃんはもう行っちゃうの?」


 羽を握りしめるイスカはくーちゃんに尋ねる。


(傷は治り元凶のモンスターもいなくなりました、彼の料理の力で十分に成長し、力をつけた私はもう行かねばなりません)


 急激にくーちゃんが大きくなったのはドラゴン族の鍋の力だったのか。


「そっか……うん、分かった。こっちこそ色々ありがとうだよ、くーちゃん」


 その言葉とは裏腹にイスカはくーちゃんの首に腕を回し抱きしめる。

 くーちゃんも答えるように翼でイスカを包み二人は抱き合う。

 互いに別れを拒むように、その腕はなかなか離れなかった。

 けどやがて終わりの時は来る。


「あっ……」

(優しい人間たちよ、これからあなたたちのゆく道に幸あらんことを)


 そう言ってくーちゃんは翼を広げフラップドアから茜色の空へと羽ばたいて行った。


「助けてくれてありがとう!」

「……ばいばーい!」


 俺とイスカは手を振りながらくーちゃんを見送る、フラップドアを潜ったくーちゃんは最後に遠吠えをして空へ帰って行った。


「……てっきりもっと湿っぽい別れ方になると思ったよ」


 耳飾りを返してもらいながら俺はイスカに言った。それにイスカは少し考えながら答える。


「ここが最後だって分かってたから……次はいつ外に出られるかわからなくなっちゃうしね」


 どのみちこれ以上は一緒に行けないことをイスカはきちんと理解していたんだな。


「それにね、くーちゃんとはまたどこかであえる気がするんだ」

「……そっか」 


 イスカの手にあるくーちゃんが残した羽はそんなイスカの言うことを肯定するようにいつまでも輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。