第48話
90階、ここは原っぱではなく普通の石造りのダンジョンに戻っている。そしてボス部屋の前。
「ダンク、負担は増えるがくーちゃんとイスカを頼む」
「任せてください」
「さてじゃあこのボス部屋で何が起こってるか確かめるか」
ドラ子さんはボス部屋の扉を開けて中に入る。それに俺たちも続いた。
ボス部屋はボスが暴れてもいい様にかなり広い空間になってる、普段は石造りの壁や天井でできているがここは少し違った。
「あの黒い壁は扉?」
壁には数か所、黒い円状のフラップドアがあった。さらに、いくつもの小さな窓から光が差し込んでいる。
その光に照らされてボス部屋の中央には五メートルはあるステュムパリデスが鎮座していた。
ボスはこちらをじっと見ながら微動だにしない。羽は窓からの光を反射させていて堂々とした風格だ。
「あれがボスか」
けどそれ以外にも下の階で見た二メートル程の個体達が二十羽近く鳴きながら飛び回っている。
奴らは侵入した俺たちに羽を飛ばして攻撃を仕掛けてくる。
「ダンク!」
「はい!スキル、プロテクト!」
俺はイスカとくーちゃんを守るように前に出て飛んできた羽をガードする。
ドラ子さんは既に前に出ていた。小さい個体を一度に二羽まとめて殴り倒す。
「先手必勝!」
そのまま突進。ドラ子さんは一人群れの中に飛び込んで、周りを飛んでいる群れから一斉に羽攻撃を受ける。しかし――。
「効かん!」
飛ばされた羽はドラ子さんに直撃するけど、なぜか金属音を発して床に落ちる。
そのまま無傷で動き続ける、いやどうなってるんだドラ子さんの体……。
そしてそのままボスの元まで接近して殴りかかった。殴られたボスの身体からも金属音が響くが巨体は吹っ飛ぶ。
「キエー!」
けど飛ばされたボスは起き上がる。
「ドラ子さんの拳を耐えた!?」
「硬いな、鋼の身体か!」
「ギエェェェ!」
殴り飛ばされたボスは叫ぶような声を上げた。
すると周囲の小さい個体は一斉に羽を飛ばしてドラ子さんに攻撃する。ドラ子さんはそんな周りも気にせずボスに追撃した。
だけど狙われているのはドラ子さんだけじゃなかった。数羽がこっちにも攻撃してくる。
「イスカ、くーちゃん、俺の後ろに!インターセプト!」
「うん、頑張ってダンク、ディフェンスブースト!」
羽を飛ばす攻撃は範囲が広い、俺の鍋一つではとても防ぎきれない。だから体全体でガードする。
「くっ……でも耐えられる!」
イスカがかけてくれたバフで俺のスキルは強化される。おかげで羽が体に当たっても鈍い痛みはあるけど刺さりまではしなかった。
文字通り体を張ってイスカを守ることができる。
「あいつらにも攻撃が行ったか……おいダンク!一気に殲滅するぞ!」
ドラ子さんは大声でこちらに呼びかける。という事はドラ子さんは全体攻撃を使おうとしているな。
「スキル!ブレイブガード!」
「くらえ!オーバーン!」
俺がスキルを発動した瞬間、間髪入れずドラ子さんは範囲魔法を放った。
俺たちもドラ子さんの魔法に巻き込まれる。鍋を持つ腕が炎で震え、熱風が俺の体を包む。
「ぐっ……」
ブレイブガードのスキルで俺の後ろには安全地帯ができる。おかげで後ろにいるイスカとクーちゃんは無事だ。
ボス部屋全体に炎が広がる。
ドラ子さんの至近距離にいた大きいボスはもちろん、俺たちに攻撃をしてきた個体も焼けて落ちる。
「よし、これでボスは倒したな」
「相変わらず火力がすごいですね」
全てが終わり俺は一息つく。
ドラ子さんの元へ向かおうと一歩踏み出した時目の端に影が動いたのに気づいた。
「えっ?」
次の瞬間、俺の身体はインターセプトに反応し引っ張られる。
「な!?」
俺は反射的にガードする。
けどその巨大な鍵爪はやすやすと俺の身体を鷲掴みにした。
食い込んだ鍵爪は俺の脇腹を抉る。
「ぐあっ!ア、アタックガード!」
何とかスキルで鍵爪を引き剥がす。
「はぁはぁ……」
だけど抉られた脇腹から血がドクドクと溢れ始めた。
「ダンク!」
イスカとドラ子さんの声がボス部屋に響く。
「ぜ……全部燃えたはずなのに……」
俺はつぶやきながら壁を見る、するとフラップドアから次々と新しいステュムパリデスが入ってくるのが見えた。
その光景を見て俺は床に膝をつきながら吐血する。
「お、終わってない……?」
「すぐに回復するから!リジェネレート!」
近くに居るイスカはすぐに魔法をかけてくれた。
けど新しく入って来た個体は容赦なく羽で攻撃してくる。俺は立ち上がりイスカを庇うように身体で防御した。
「うぐっ!」
何とかイスカを守るけど、動いたせいで余計に傷が広がってしまう。
「竜気!」
ドラ子さんは俺たちの元へ敵を倒しながら駆けつけてくれた。拳にエネルギーを纏っていて数羽ならすぐに倒せている。
だけどステュムパリデスは外から入ってきて際限なく数を増やしていった。
「クソッ、ミスった。こいつらは殲滅型のボスだ、全滅させなきゃ進めねえ……」
「マジですか……」
俺は再び膝をつく。
「ダンク!大丈夫か!?」
「すいません……これ以上はちょっと無理みたいです」
脇腹の傷は大きく開ききっていてどんどん血が流れ出る。
リジェネはゆっくり回復してくれているが、どう見ても俺の血が流れ出る方が早い。
ドラ子さんは近づいてくる敵を片っ端から殴り倒していくけど、背後を守っているせいで十分力を発揮できないみたいだ。
本来なら守るのは俺の役目なのに……なんて体たらくだ。
「ダンク!ダンク!」
イスカは隣で俺を呼び続けていた。
けどその声に釣られて、二羽がイスカに向かって羽を飛ばした。
ドラ子さんはとっさに前に出て全ての羽を殴り落とす、しかしそのせいで敵の接近を許してしまった。
「これじゃあきりがない!」
複数の敵の鍵爪が俺たちに迫る、ドラ子さんの身体に傷はつかない。だが敵の数が多すぎる。
「ちょこまかと……フレイム!」
魔法の一撃で十数羽のステュムパリデスが焼け落ちたけど、減った分だけ外から入ってくる。
これじゃあ焼け石に水だ、戦況は完全に膠着してしまった。
「ちっこんなの持たないぞ、弱点付かれればすぐに瓦解する!」
目の前の敵を少しずつ減らしながらドラ子さんは言う。その時一羽のステュムパリデスが高く宙に舞い上がったのを見た。
「やべえ気づかれた!」
羽ばたいたステュムパリデスは丁度俺の真上。狙いは完全に――。
「俺だ……」
ドラ子さんは俺たちを庇いながら戦ってくれている。でも真上からの攻撃は完全に無防備。
あの角度はドラ子さんがどう動こうが必ず隙が出来てしまう角度だ。
「これは詰んだ……か」
いくら俺でもこれは分かる。どうにもならない、ここが俺の最後だ。
けど俺にもタンクとしての意地がある。この羽攻撃は範囲が広い、このままだとイスカにも当たってしまう。
「せ……めて……」
血を流し過ぎてもう声も出ない、俺は最後の力を振り絞りイスカに覆いかぶさった。
「ダメ!ダンク!もう動かないで!」
その動きで腹の傷が再び大きく裂けて血が大量に流れ出る。
「ワオォォォォン!」
その時、聞きなれない雄たけびが周囲を包んだ。




