第47話
同時にグロースシュヴァインも俺たちに向かって突進してくる。
「行くぞぉ……うらぁ!」
ドラ子さんは同時に二頭のグロースシュヴァインを殴る。
真っすぐにしか突進できないのを利用して左右に逸らした形だ。
次にトラップがどんどん発動する。それも走って避け、正面と背後に出現したハンマーを殴り止めた。
これでもまだ走り始めたばかりだ、正直気力的に俺はもうしんどい……。
けどそんなことは言ってられず俺たちに気づいたグロースシュヴァインは前後左右から突進してこようとする。
「こりゃ逸らすだけじゃ無理だな」
「ええ!じゃあどうするんですか!」
グロースシュヴァインの突進がスタートする。
「力のトラップと力のモンスターなら負ける気はしない。けどお前はちょっと上にいろ」
「え?」
ドラ子さんはそう言うと俺の襟をつかみ宙に飛ばした。
「あぁ……」
凄く高く飛ぶ、そして空中から見た光景はすさまじかった。ドラ子さんは八体のグロースシュヴァインを一瞬でダウンさせた。
それから跳び上がって俺をキャッチし、着地と同時に下ろしてトラップを拳で止めた。
「す、すげえ……でもなんでいちいち俺を下ろして走るんですか。前みたいに抱えて走ってくださいよ」
「今は縛ってないだろ?俺は体小さいから固定してないとバランス崩れるんだよ。それに野郎を抱えて走るなんてなるべくやりたくないしな。今は走れるんだから走れ」
「……はい」
そんな理由だったのか……ドラ子さんが楽ならもう次から自分から縛られようかな。なんて考えてるとまた襟を掴まれ上に飛ばされる。
相変わらず上から見る光景は凄い……今度はグロースシュヴァイン投げてるよ。
そうして俺はその後も投げられ続け階段横の店へ到着する。
「はぁはぁ、いやーもうここまで来ると色々麻痺してきそうですね」
「死線を幾つか超えると身につく感覚だな、ベテランになるなら必須だ。さて到着」
死線、今のこれは死線だったのか。
俺がぼーっと考えていると店の中からイスカが出迎えてくれた。
どうやらグロースシュヴァインは階段とこの建物には近づけないようで一定ラインを超えると突進は収まっていた。
「すごいね、ダンクポンポン飛んでたよ」
「まさか俺もあんなに飛ばされるとは……」
「ダンクの飛ばされた話はそれくらいにして店の中に入るぞ、ここでもなんか買うんだろ?」
「あ、はい」
俺たちは建物の中に入る、まず出迎えてくれたのは毛や牙を使った小物。でも豚は体はほとんどが可食部位、店の面積の大半は肉類だった。
下にあった野菜も少なからず置かれているが何せここはダンジョンの中、あんまり日持ちしない生肉や生野菜は少なかった。
「容量や保存期間の問題で最初は見送ったけど、近日中に食べるんだったら問題ないだろう」
ドラ子さんに鉄の箱にお金を入れてもらう。ボタンを押して出てきたのは腸詰めの燻製だった。
日持ちするベーコンは既にあるし、ここは今までにない食材を買うのがいいだろう。
「なんだ、これだけで良いのか。もっと色々買うと思ってたが」
「イスカが食べれるチーズが手に入りましたからね、食材はまだ残ってるしここは今日食べる分で十分ですよ」
「わかった、じゃあさっさと次の階に行くぞ」
俺たちは店を出て階段に向かった。
「次はトラップがある階ですよね、前にドラ子さんが言っていた二層で一組って言ってましたがこの構成変わると思いますか?」
「どうだろうな。でもボス部屋にはトラップは無いだろう」
「そうなんですか?」
「今までそんなボス部屋は報告に上がった事ないしな。恐らく次が最後のトラップだ、張り切って行こう!」
89階、辺りはこれまでと違い81階のような短い芝生の風景だった。それに予想通りモンスターも見当たらない。
「なんか普通の草原に戻りましたね」
「周りを一望できていいじゃないか。よし、早速どんなトラップがあるのか見てみようか」
ドラ子さんは地面を確かめるように先を歩く。すると足元からカコンという音がした。
瞬時に警戒するドラ子さん、だがそこで止まってしまったのが失敗だった。ドラ子さんの足元の地面が抜けたのだ。
「うわっ!」
ドラ子さんは咄嗟に後ろにいた俺のズボンを掴む。
「またこれですか!ぬ、脱げる!」
「前に見た光景……」
俺たちが落とし穴で焦っている後ろでイスカは冷静に状況を見ていた。
何とかドラ子さんは穴から抜け出す。
「落とし穴って事は81階と同じか?」
「じゃあロープの出番ですか」
俺が鞄からロープを取り出しているとドラ子さんは塞がり始めている落とし穴の横に足を踏み出す。
すると今度は天井から大きなハンマーが振られてきて、後ろにいた俺まで巻き込まれそうになる。
「あぶねえ!」
ドラ子さんはそれをパンチで止める。
「び、びっくりした……」
「ここは……落とし穴だけじゃなくて今までトラップが全てあるのかもな」
「えっ、じゃ……じゃあまた俺を縛るんですか?」
俺は今出したロープを手にしながら聞く。
「ここのトラップは踏んで発動するものだから、飛び越えるならそれが一番早いか……よし、じゃ縛ろう」
涙を流しながら俺は再び手で足を囲った状態で縛られる。
「前の経験を生かしてちゃんと固定する、そうすればダンクが熱い思いをすることはないだろう」
俺はそのままドラ子さんに背負われて固定される。
気を使ってくれるのはありがたいけど、それならこの情けない格好ももうちょっとどうにかならないかなぁ。
「よし、くーちゃん、イスカを頼んだ。ダンク、行くぞー」
「もう好きにして……」
ドラ子さんに言われたくーちゃんは素直にイスカを足でつかみ階段の方まで飛んで行ってしまった。あれ楽そうでいいなぁ。
そしてドラ子さんはダンジョンの一番端まで下がる。
「準備はいいか?」
「信用していますからね、いつでもいいですよ」
俺はもうドラ子さんに全てを任せて体を預けることにした。
「じゃあ遠慮なく、せーの!ホップ!」
ドラ子さんは駆け出した、しっかりロープを巻いた分俺は締め付けられる。
「ステップ!」
もはや魔法名さえ唱えない。足から炎が噴き出し、さらに加速する。しっかり背負われてるから熱さが軽減されている。
「ジャーンプ!」
最後の大ジャンプ、これ熱さより反動の方がきついな。
そうして最後のダンジョントラップもあっさりクリア。慣れたのかドラ子さんは手際よく俺を縛るロープを解いてくれる。
「どうだった?二回目だからそんなに負担もなかっただろう」
ドラ子さんは得意げな顔で聞いてくる。
「熱くなかったですし結構快適でしたよ。一回目と違って周囲を見る余裕もありましたしね。いい景色でした」
「ははは、お前もすっかり運ばれ慣れたってことだな」
「それ褒めてるんですか?それにしてもやっとトラップが終わりましたねぇ」
「ドラ子さーん!ダンク―!」
そんなことを話しているとイスカが走って近づいてきた。
「綺麗なジャンプだったね!」
「だろ?」
イスカはくーちゃんを傍に連れて屈託のない笑顔でドラ子さんと話している。
けれどこれから大事な話をしなくちゃならない。場合によってはイスカの笑顔を奪うことになるかも。
「イスカ、ちょっといいか」
イスカは賢い子だ、俺がこれから何を話そうとしているのか分かるんだろう。ドラ子さんと話してた表情がすぐに伏し目がちになる。
「くーちゃんのことだよね……」
「うん、次の階はもうボスだ、このままじゃくーちゃんを危険な目に遭わせてしまうかもしれない。放してやるならこのタイミングだ」
「うん……」
俺たちはダンジョンの端、大きな窓に近づいた。すると外が何やら騒がしい。
「ここ高層階だぞ?一体なにが……」
俺は窓の外の様子を覗く、ドラ子さんも窓のふちに飛び乗り一緒に外を見た。すると窓の外では鳥型のモンスターが大量に飛んでいるのが見えた。
「うわ、なんだあれ」
「あれはステュムパリデスだな、群れで行動する獰猛な鳥型モンスターだ」
ステュムパリデスはどうやらここより上の階を中心に群がっているようで、俺は窓の上を覗き込む。
「うーん……ここからじゃ何も見えませんね」
「ダンク、ここでくーちゃんを放すのは危険だと思う」
ドラ子さんは珍しくくーちゃんについて言及する。
「獰猛ですか、このまま外に出したら……あんまり考えたくないですね」
「というか最初にくーちゃんが倒れてた怪我の原因、あいつらだろ」
ドラ子さんはそう言って窓の外のステュムパリデスを指した。そうか、あの傷はこのモンスターから受けた傷だったのか。
「じゃあまだくーちゃんといられるの!?」
「今ここで放すのは危ないからね」
「まずは上の階がどうなってるのか確認だな」
上の階、つまりボス部屋の確認ってことだ。これは心していかないとな。
そうして俺たちは次の階へ上る階段に向かった。




