第46話
店に入るとまず目に入るのは牛革の製品。
だけど俺たちはそれにあまり目もくれず奥に進む、お目当ては――。
「おぉ色んな種類のチーズがある」
俺はここに単なる食料じゃなく保存食であるチーズを探しに来たのだ。
ここで食べるだけなら下の階の卵や肉のように新鮮な物でもいいけど、今やってるのはダンジョンの攻略だ。
ここからいつまた食料が手に入るか分からない。そのために保存食であるチーズが必要だった。
けどイスカは最もオーソドックスである冒険者の飯である干し肉とチーズが嫌になって逃げ出した。
だからそこらへんで売ってる安いチーズを出す勇気は俺にはなかった。
でもここの高品質のチーズならイスカも食べてくれるだろうと思ったんだ。
「えーチーズー?お肉買おうよー」
案の定イスカの反応は微妙なものだった。最初にイスカが食べたチーズはたぶん臭くて硬かったんだろう。
それが保存食と言われればそうなんだけど、俺も少し苦手だから気持ちは分かる。
「まあまあ、まずは一口食べてみてよ。嫌なら俺たちが食べるからさ」
俺はドラ子さんに頼んで若いゴーダチーズを買ってもらう。
そして一口サイズに切ってイスカに渡した。
イスカは俺を信用してるからか、躊躇いながらも口に入れる。
「あれ、前に食べたのと全然違う……柔らかくて臭くない!味もまろやかー!」
「その上チーズは温めると料理が一段うまくなる万能食なんだ」
「そうだったの!?じゃあまえに食べたのは一体……」
「ま、まあチーズにも色々あるんだ」
この様子ならイスカはチーズを食べてくれそうだな、保存期間も数週間くらいは平気だろう。
ダンジョンを登りきるまであと少し、これならダンジョン登頂どころか帰る分にも回せるだろう。
イスカはチーズを気に入ったのか、さらにお代わりを所望した。仕方なくもう一切れあげると嬉しそうに食べた。
それからドラ子さんの言う通りここにはパンも置いてあった。恐らく下の階の麦でできてるのだろう。
パンはかさばるしすぐ固くなるから実はあんまり数は無かった、だからここで手に入るのは非常にありがたい、これも買ってもらおう。
必要な物を買いそろえて、俺たちは店を出た。そして階段へ向かう。
「これからは冒険中とは思えない程料理のクオリティがアップするぞー」
「やったね!」
「ダンクの料理なら俺も楽しみだな」
それぞれ次の食事に胸を膨らませて階段を上がっていった。
87階に到着すると相変わらず背の高い原っぱが広がる。
「さて、次はどんな罠ですかね」
「まずは俺が先を歩いて確かめる、ちょっと待ってろ」
ドラ子さんは俺たちより少し離れて先を歩く、俺は念の為ロープを手にしながらドラ子さんの後をつけた。
ある程度歩いてドラ子さんは急に止まった。
「罠を踏んだ、何が来る?」
ドラ子さんの言葉の後、天井から大きなハンマーが振り子のように向かって来た。しかしドラ子さんはそれを殴って止める。
「これだけか?」
止められたハンマーはキリキリという音を発しながら戻っていき天井に収納された。
「なんだ、簡単に止められるし、今までで一番楽なトラップじゃないか」
俺的には一番殺意高いトラップだと思うんだけど……ドラ子さんの力の前では意味をなさないんだな。
「これなら正規の道を見つけなくても直進できそうだ、行くぞー」
「なんか怖いんですけど……」
「大丈夫だ、俺が守ってやるって」
自信満々に言うドラ子さんだがなんだか不安だ。
そんな雰囲気を察してか、くーちゃんは再び翼をはためかせる。
「まさか……」
予想通りイスカを足で掴むとまたも先に飛んで階段の方へ行ってしまった。
「あー」
「あいつ、また先に!」
確かにこのトラップも地面を踏んで作動するものだ、飛んで行けば引っかからないだろう。
「イスカたちもう階段に着いちゃいましたね……」
「くそー、俺たちもさっさと行くぞ!」
「は、はい……」
ドラ子さんは一歩踏み出す、そしてまた天井からハンマーが振られてきた。
「ひっ……」
今度は俺も当たる範囲にいる、向かってくるハンマーに俺は思わず目をつぶってしまう。
勿論ドラ子さんが止めてくれたからハンマーは当たらなかった。けど目を開けると数十センチ先に俺を潰せるであろうハンマーがあるのは恐怖でしかない。
「ドラ子さん!これ怖いです!」
「大丈夫だって!それにこのトラップは発動して当たるまでラグがある、急いで行けば全部回避することもできそうだな。ダンク、走るぞ」
「マジですか!?」
「イスカが待ちくたびれるからな、そら行くぞ!」
「ひぃぃ!」
走り出したドラ子さんの後を俺は遅れないように必死について行く。
ドラ子さんの言った通りハンマーが降りてくるまでには若干のラグがあって、俺たちは何とか回避しながら先へ急いだ。
しかし振られてくるハンマーは左右からだけじゃなく前後からも来る、その時はドラ子さんの拳の出番だ。
「うらぁ!」
「後ろからも!」
「あいよぉ!」
躱せないハンマーは次々と殴り止めてトラップをやり過ごす。そして数分間走り続けやっと階段の元に到着した。
「はぁはぁ……」
「やっぱこのトラップは簡単だったな」
「すごいね!二人でハンマーいっぱいよけててカッコよかった!」
息を整えてるとイスカが興奮したように俺たちの元へやってくる。
「だろー?冒険者はあれくらい余裕さ」
「いやいや、それはドラ子さんだけで、万が一俺があのトラップに当たってたらかなりグロいことになってましたよ……」
「そうなのか、人間は脆いなぁ」
生物的にドラ子さんについて行くのは大変なことだと思い知らされるトラップだった。
俺は階段に座り一息入れることにした、するとこの階に上って来た時には見えなかった畑らしきものが幾つも見えた。
「ここでは野菜も作ってるんですね」
「畜産に農業。全てこのダンジョンだけで完結してるから空翼人は地上に降りる必要がないんだ」
そう説明するドラ子さんの表情は俺には読み取れなかった。
「さぁ、息が整ったなら次の階行くぞー」
ドラ子さんはさっさと次の階へ進んでしまう、俺は慌てて続いた。
階段を上りきる前にドラ子さんから説明を受ける。
「鶏、牛と来たら次はおそらく豚、グロースシュヴァインだろう。けどこいつらはかなり気性が荒い。けど、おそらくここの家畜だろうから俺もあまり倒したくない。下の階と同じく一気に走り抜けるぞ」
「でもそれだとイスカは危なくないですか?」
「ずっとくーちゃんが運んでたし今回もやってくれるだろう、ダンクも余裕があればグロースシュヴァインを弾き飛ばしてくれ」
今までの家畜のサイズを見たら俺にはそれはちょっと難しそうだ。
けどドラ子さんは俺の返事も聞かず先へ進んだ。
俺たちは警戒を怠らず88階へ足を踏み入れる。まず目に飛び込んできたのは立派な牙と毛の生えた巨大な猪だった。
「あれのどこが豚ですか!牙も生えてるしめちゃめちゃ猪じゃないですか」
「知らん、そんなこと名付けた奴に言え」
「クソー!名付け親ー!」
俺はグロースシュヴァインと名付けた誰かに文句を言う。
そんなことをしているといつも通りくーちゃんはイスカを掴み先に飛んで行ってしまった。
「ダンク気を付けてね」
連れて行かれるイスカは慣れたもので、手を振りながら行ってしまった。
今回くーちゃんの行き先は階段から逸れ、初めから階段の近くにある店の建物だった。
イスカが建物に入ったのを確認すると俺たちも先へ進む。
当然ここでもトラップは健在みたいだ、グロースシュヴァインがトラップを作動させている。けどグロースシュヴァインは振り下りて来たハンマーをその牙で弾き返す。
「うわ、グロースシュヴァインの突進ってあのトラップより強いって事じゃないですか……俺が食らったらガードどころか吹っ飛びますよ」
「そうか、お前はもうちょっとタンクとして鍛えた方がいいかもな」
あの突進はもうタンク云々って話しじゃない気がする……。
そんな話をしてると近くに居る数頭のグロースシュヴァインが俺たちに気づき突進しようとしている。
「……気づかれちゃいましたね」
「予定調和だ、ほら走るぞ」
「くそっもう自棄だ!ドラ子さん必ず守ってくださいね!」
「おめーはどこぞのお姫様かよ」
お互い軽口を叩きつつ真っすぐ走り出した。




