第45話
臨時の仲間を一羽追加した俺たちは次への階段を上った。
ドラ子さんの予想ならトラップの階だ。85階、俺たちは周囲を観察する。
一番奥にはいつも通り階段が見えた。そしていつもの丈の高い原っぱそれ以外にもこの階には麦畑が見られた。
「ここは麦も育ててるのか、家畜に麦、こんな施設があるならそりゃ自給自足できるよなぁ」
今まで俺は空翼人という種族は、ぼんやりと凄そうな種族としか考えてなかった。けどこういう暮らしの土台を見るとグッと身近に感じる。
「あれは未加工だから持って行けないだろうけど、次の階の店には並んでるかもな」
「楽しみになってきました!」
「その前にこの階の罠だな」
「はいぃ……」
俺たちはドラ子さんを先頭に警戒しながら先へ進む。
「今の所罠は無いようだけど……」
それから数分間歩き続ける。しかし――。
「ドラ子さん、なんか変じゃないですか」
「だな、こりゃ魔法か?」
俺たちは数分歩き続けてるけど全く景色が変わらない、全然階段に近づかないのだ。
「歩いても進めない、これがこの階の罠だな。よし、ひとまず全力疾走してみるか」
そう言うとドラ子さんは俺たちを少し下がらせ走る準備をする。
「よし!行くぞぬおぉぉぉ!」
速い、ドラ子さんの脚は速すぎて消えて見えるほどだ。けど全然進んでない……。
「なんでだぁー!」
ドラ子さんは叫びながらも全力で走り続けた。そして数分後。
「いやー久しぶりに全力で走ったな!」
爽やかな笑みを浮かべてドラ子さんは水を補給する。
「いや、いい汗かいてる場合じゃないですよ、この罠どうするんですか」
「うーん素早く行ってダメなら遅く行ってみるのはどうだ?」
今度は俺が前に出る。ドラ子さんが言うには別にダメージがあるような罠じゃないから安心しろとの事だった。
「じゃあまず一歩目、行きます」
俺はのっそりと前へ踏み出した。そしてゆっくり重心を移動して片足を上げまた一歩踏み出す。
この作業を三回くらい続けた。
「ダメだなこりゃ」
突然のドラ子さんのダメ出し。進んでなかったんだろうか?
「進んでるのか分からんくらい遅すぎる。そもそも全員でそんな行動取りながら進むのは非現実的だな」
「ドラ子さんがやらせたんじゃないですか……」
「すまんすまん、やっぱここも正解の道を探るしかなさそうだな。ここも害があるモンスターはいなさそうだしイスカには待っててもらって……」
ドラ子さんが説明してると、イスカの隣を歩いていたくーちゃんは翼を広げ羽ばたいた。そしてその足でイスカを掴んで階段の方まで飛んで行ってしまった。
「あーれー?」
「イスカー!黙って運ばれるなー!」
ドラ子さんは飛んでいくイスカを追おうとする、けどトラップのせいで全然前へ進まない。くーちゃんに連れて行かれたイスカはあっという間に小さくなり階段の下に到着したようだ。
「凄い、もう階段に着いちゃった」
「くそ、あいつめ、さっさとこの罠を見破って先へ進みやがったな」
「見破った?」
「ああ、おそらくこのトラップはちゃんとした場所を歩かないと進まないトラップだ。だったら歩かなきゃいいんだ」
それで飛んでいったくーちゃんたちは難なく階段まで行けたのか。
「だがいいヒントを貰った、俺たちも続くぞ。ダンク、ロープを出せ」
それからドラ子さんはトラップを攻略するための準備を始めた。
まずトラップが発動するであろう場所に魔法で焦がして目印をつける。それから俺を縛ってダンジョンの端ギリギリまで下がった。
「お前は図体がデカいからな。地面に手足がつかないよう、コンパクトになってもらった」
「はぁ……」
俺は手で脚を抱えた状態で縛られ担がれている。ちなみに俺はこれからドラ子さんが何をするかは知らない。
「あの、めっちゃ怖いんですが。説明くらいしてくださいよ」
「なに、簡単さ。助走をつけて階段下までジャンプするだけだ」
「ははは、いやいや。そんなの無理でしょう」
「じゃあ行くぞー」
俺の否定は無視されドラ子さんは俺を縛っているロープを担ぐ。
「本気ですか!?」
「ああ!舌噛むなよ!」
ドラ子さんは助走をつけて大きく跳躍する。いくらドラ子さんと言えど飛んだ幅はダンジョンの三分の一程度しかない。これからどうするんだ?
「ダンク!防御スキル!」
「プ、プロテクト!」
「行くぞ!バーン!」
ドラ子さんは地面に足がつく瞬間炎の魔法を足から噴射した。その反動で宙を蹴り駆ける。
「熱っつ!」
当然すごい勢いの炎は俺まで巻き込んで燃え上がる。
「二歩目行くぞ」
「ドラ子さん!これ熱いです!」
「我慢しろ、これが最短距離だ!バーン!」
二歩目を駆ける、これでダンジョンの半分を超えた。恐らくあと一歩だ。
「もういっちょ!」
「ブレイブガード!」
熱さに耐えかねた俺はブレイブガードを発動する、これで最後のドラ子さんの魔法は俺には効かない。
「バーン!」
そして三歩目を飛んで俺たちは階段前にたどり着いた。
全てを見ていたイスカは拍手する。
「すごーい!ドラ子さん足から火出して飛んでた!」
「カッコよかっただろ?」
ドラ子さんはポーズを決めながら言う、けどその後ろで俺は縛られたままだ。
「あの……俺のロープ早く解いてくれませんか?」
「どうだった?我ながらいいアイデアだったと思うが」
そう言いながらドラ子さんは俺のロープを解く。
「もうちょっと事前に相談とかあってもいいと思います!めっちゃ熱かったんですからね!」
「まあまあ……これでこの階は攻略だ。この勢いでさっさと次に行くか!」
「おー!」
「はぁ……」
ドラ子さんもイスカも元気よく次の階に進み始める。
待てよ、家畜の階層も同じ罠がある。もしかしてまた縛られるのか?俺は先が予想出来てしまい足取りが重かった。
二人の後に続いて階段を上った。86階、周りを見渡すとそこには巨大な牛がいた。
「やっぱり、予想通りだな。こいつらはグロースリントだ」
「一番大きいね」
グロースリントは自由気ままに地面に生えた草をもしゃもしゃと食べていた。
「グロースリントも攻撃性は無い、こっちから何かしなければ襲われることはないだろう」
「へぇ」
俺は注意深く周囲を観察する。すると歩いてるのに全く進んでないグロースリントを発見する。
「ドラ子さん、あれ」
「ああ、トラップが発動してるがありゃ散歩だろうな。グロースリントは案外頭の良いモンスターだし移動できる道はちゃんと覚えてるはずだ」
よく見れば多くのグロースリントはちゃんと移動している。グロースリントが進んでる所がこの階の正規ルートってことか。
「じゃあのグロースリントを辿れば階段までの道は分かりますね」
俺が言うや否やくーちゃんはイスカを持って浮かび上がる。
「え?イスカ!?」
「くーちゃん先に行くって、二人とも早く来てねー」
そう言い残しイスカはくーちゃんに運ばれて行ってしまった。
「えぇ……」
「行っちまったな、じゃあダンク縛るぞ」
「ちょっと待った!正規ルートは見えてるんですからそっちから行きましょうよ!」
「いやこっちの方が早いだろ」
俺はあっという間にドラ子さんに縛り上げられる。
今度はシンプルにぐるぐる巻きだ。
「なに、安心しろ。次はグロースリントの背中を利用させてもらうから熱い思いはさせないぞ」
「縛られて引っ張られること自体不服なんですが……」
「諦めろ、バランス崩したら危ないし縛るぞ」
「そんなぁー」
ドラ子さんは俺を担いで駆けだした。そして次々とグロースリントの背中を伝って前へ進む。
運ばれ心地もさっきよりだいぶマシだ。俺が苦労することは無いしもうこのままでいいか。
「ほい、到着」
「どうも」
数分も経たないうちに俺たちは階段前にたどり着いた。
今回ドラ子さんは手際よくロープを外してくれた。
「なんだ無理やり運ばれてもっと不貞腐れてるかと思ったぞ」
「こっちの方が早いのは事実だし今回俺は本当に楽だったので文句はありませんよ」
「現金な奴だな、この階も店に行くんだろ?」
「当然ですよ!これでまた食のクオリティが上がります!」
「やったーダンクのご飯たのしみ!」
その言葉に一番喜んだのはイスカだった。
「じゃあ行きますか!」
俺たちは階段から店に続く道を辿った。




