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迷子の塔  作者: banbe
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第44話

 何とご丁寧に店のすぐ横には屋根がついたかまど、それにイスとテーブルが置かれてあった。

 まさにここで料理してくれと言っているようなものだ。


「丁度いい休憩場所だな。日も落ちて来たしちょっと早いが今日はこの階で休むか」

「じゃあくーちゃんの包帯も代えてあげましょうねー」


 イスカとドラ子さんはテーブルにつきそれぞれのんびり過ごす。そして俺は晩飯の準備だ。

 まずは買った鶏肉を切って炒めながら味付けする、この時点でもう既にいい匂いだ。

 次に卵を半熟状態まで焼く、それに炒めた鶏肉を卵で包んだ。

 これで超巨大チキンオムレットの完成だ。


「さあ出来たぞー。ダンジョンで食べるご飯とは思えない程豪勢なメニューだ」

「いただきまーす」


 イスカは手を合わせ挨拶した後スプーンでオムレットを掬った。そして口に入れた瞬間感嘆の声を上げる。


「ほわぁ~フワフワ~」

「うーん食材が新鮮だとこうも美味いのかぁ」


 さすがのドラ子さんも唸りながら食事を進める。

 二人のそんな声が聞けただけで作った甲斐があったというものだ。

 くーちゃんには刻んでそぼろ状にしたオムレットを与えた。表情は分からないがイスカの隣でがつがつ食べてる。


「あーおなかいっぱいー」

「いやーいいものを食ったな」

「お粗末様でした」


 食後イスカは原っぱの上で仰向けの大の字になって、ドラ子さんはお茶を飲みながらリラックスしていた。

 その姿はとても依頼中の冒険者とは思えないほど、のびのびとした光景だった。

 ダンジョン内の明かりは外と連動してるのか、暗くなっている。

 騒がしかったグロースフーン達も今はすっかり静かになっていた。


「ここまでこの階層の傾向が分かったな」


 ドラ子さんはお茶を啜りながら俺に説明する。


「なんですか、いきなり?」

「この階層は二層一組として数えられる。まずトラップのある下階と、その上にある畜産の上階だ。残りの家畜は恐らくグロースリントとグロースエーバー、つまり牛と豚がいるだろうな」

「なるほど、ならトラップはどうです?」

「うーん落とし穴と重力トラップだろ?使う技術も目的もバラバラ過ぎてそっちはさっぱりだ」

「じゃあ直接トラップを見なきゃ対策は立てられませんね」

「だな、あんまり厄介なトラップじゃなきゃいいんだが……」


 それから俺たちは店の近くの原っぱで寝る準備をする、今日は先にドラ子さんが見張ってくれるので俺とイスカは先に休んだ。

 そして交代の時間――。


「おーい交代だ」

「ふぁーい……」


 俺はあくびをしながらかまどに向かいドラ子さんが沸かしておいてくれたお湯でお茶を入れる。

 ドラ子さんも寝入ったしイスカもよく寝てるな。見張りの時間は退屈との勝負だ、俺はやることもなくじっとかまどの火を眺める。

 すると鶏小屋の方から物音が聞こえた。


「グロースフーンか?こんな時間に?」


 ドラ子さんからはグロースフーンの生態はほぼ鶏と同じと聞いている、そして鶏はこの時間ぐっすりのはずだ。


「……見に行くか」


 何か異常がないか見張るのが俺の仕事。この物音も危ないものかどうか確かめないと、決して暇だから見に行く訳じゃない。

 けど俺は一人で来たことをすぐに後悔した。普段パーティで歩いてるから薄暗いダンジョンも気にならなかったけど一人で歩いていると何か出てきそうで嫌な感じがする。

 暗いダンジョン内、明かりを持ってグロースフーンの鶏小屋の前に到着した。けど物音はここよりさらに奥から聞こえてきている。


「も、物音は鶏小屋からじゃない?」


 俺は音を辿ってさらに奥、一番端の建物に到着する。そこは並ぶ鶏小屋と違って頑丈そうな扉がついていて何か物々しい雰囲気を発していた。


「音はこの中からだな……」


 頑丈そうな扉の取っ手を捻ってみると扉は開いた。中には不気味で大きな影が立っていて、それが物音を立てていた。

 音の正体は巨大な包丁を研ぐ音、それに濃い血の匂いが漂ってくる。


「な……なんだ?」


 大きな影に向かって明かりを照らす、正体は血まみれの大きな鉄製のゴーレムだった。


「う、うわぁ!」


 そしてゴーレムが包丁と共に持っていた物はグロースフーンの首。

 俺の声に気づいたゴーレムはゆっくり俺の方に振り向いた。


「ギギギギギ……ミダナッ!」

「ヒッ……!」


 恐怖で足が動かない、逃げることもできずそこで俺の記憶は途切れた。



「おい……おい!ダンク!」


 俺はドラ子さんの声で目を覚ます。


「ん、ドラ子さん?」


 窓の外は既に明るくなっていてグロースフーンもすでに活動を始めていた。


「お前見張りもしないでこんな所で何してるんだよ……」

「えっと、確か……」


 俺は倒れる前のことを思い出しながらドラ子さんに話す。


「はぁ、それでこんな所で気絶してたのか?」

「たぶん……」

「ここはグロースフーンの解体場だな。そのゴーレムも解体用だろうし特に害はないだろう、そんなのにビビったのか」

「いやあれは誰だって怖いですよ!見ればわかります!」

「……言い訳は終わりか?さっさと戻るぞ」

「……はぁい」


 そうして俺はドラ子さんにお小言を貰いながらイスカたちの元へ戻った。

 そこでまず一番に目に入って来たのはくーちゃんだ。


「なんかでかくないですか?」

「だな……」


 くーちゃんはまた二回りくらい大きくなってイスカの隣で寝ていた。


「いや一晩でこれはおかしくないですか?」

「……」


 ドラ子さんは当初言っていた通り、我関せずといった態度だ。

 ドラ子さんもくーちゃんをモンスターって言っていたし、こういう種類なのか?

 ともあれこうも大きくなるとこのままくーちゃんを連れていても大丈夫なのか心配になってきた。

 それから俺は朝飯の準備をしながらイスカの起床を待った。


「コーケコッコー!」


 グロースフーンが元気よく鳴きだし始める頃、イスカは起きる。


「おはよー」

「お、おはよう」


 イスカはまず一番に隣で寝ていたくーちゃんを見る、すると喜びの声を上げた。


「すごーい!くーちゃん大きい!ダンクーなんで?大きくなってるところ見た?」


 起き抜け早々質問攻めだ、けど残念ながら俺は気絶していてくーちゃんが大きくなったところは見ていない。何とかカッコ悪く思われないようごまかさなくては。


「いやー俺もさっき気付いたんだ……」

「見張りしてたのに?」

「ダンクは途中で気絶したんだよ」


 ドラ子さんはニヤ付きながらイスカに言ってしまう。


「気絶?なんで?」

「いやえーと、寝落ち……そう、途中で眠くなっちゃって気絶するように寝ちゃったんだよ」

「疲れてたの?無理はだめだよ?」

「うん……気をつけるよ」


 何とかごまかせたけどなんかこっちの方がカッコ悪く思えて来た。

 ドラ子さんは座りながら笑ってるし……。


「くーちゃんのことは気になるけどとりあえず朝ごはんだな、今日の朝は鶏肉入りの卵粥だ!」


 二人はさっそく粥をスプーンで掬って口に入れる。


「あっさりしていて朝にはちょうどいいな」

「お肉もっとちょうだい!」


 イスカは朝でも食欲旺盛だな。くーちゃんと一緒に肉がいっぱい入った粥をがつがつ食べていた。

 それから食後、辺りを片付けて出発の準備をする。そんな中イスカは机の上でくーちゃんの包帯を変えていた。


「もう傷はほとんど残ってないね、包帯もいらないみたい」


 その言葉通りくーちゃんはその場で翼を広げて羽ばたいて見せる。翼を広げた事でくーちゃんはさらに大きくなる、もはやイスカの肩には乗らないだろう。なんならイスカを持ち上げて飛んで行ってしまいそうだ。


「イスカ、これからくーちゃんをどうしようか」

「どうするって?」

「傷も治ったしもうかなり大きくなったろ?これから連れて行くのは難しいんじゃないかな」

「くーちゃん連れて行っちゃだめなの?」

「だめって訳じゃないけど……結構厳しいかな」


 正直くーちゃんがこれ以上大きくなると食料事情が変わってくる。

 それにもうイスカの肩にも乗れない大きさだ、となると守る対象が増えるという事になる。

 ここから先へ連れて行くには厳しいだろう。


「じゃあモンスターが出ないこの階層だけ!それならいいでしょ?」


 俺はちらっとドラ子さんの方を見る、腕を組んで黙ったまま。この件に関しては口は出さないだろう。決めるのは食料の管理を預かる俺って事になる。


「しょうがないなぁ、この階層はたぶん食料にも困らないだろうし今だけだぞ?」

「やった!くーちゃんもうちょっとだけ一緒だよ!」


 イスカは大きくなったくーちゃんを抱き上げて喜んだ。

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