第41話
そう誰がどう見ても服屋だ。
いくつもの人型に男女様々な服が飾り付けられている、そして奥には温泉の更衣室で見た鉄の箱が置いてあった。
「ふむ、この人型についている服は見本で欲しければあの鉄の箱に金を入れろという事か……でも俺は服なんていらんなぁイスカはどうだ?」
「わたしもドラ子さんが買ってくれたこの服があるし」
「俺も……」
必要ないと言いかけた時ドラ子さんからじっと見られる。
「な、何か?」
「お前はもう少し身なりに気を遣った方がいい。まず油跳ねの跡!調味料のシミ!焦げた袖!全く冒険者らしくない!」
「いや、今の俺は料理が役割ですし……」
「にしても寄り過ぎだ。せめてもうちょっと冒険者らしくだな……」
とは言われても現状このパーティでの役割は料理だからなぁ……。
「俺としてはもうちょっと冒険者らしくしてほしいわけだ」
「でも俺こんなに金持ってないですよ、ここ街の服屋より高いし」
「じゃあ貸してやる。無利子無期限、だがいつかお前が冒険者でも料理人でも大成した時に返せ」
「まあそれなら……」
そんなのくれるって言ってるようなものだ、断る理由も無いしここはありがたく貰っておこう。
ドラ子さんに対し俺は頭を下げた。
「分かりましたありがとうございます」
「よし、じゃあイスカ、ダンクの服選ぶか」
「うん!」
二人は俺の服を選ぶために店内を見て回る。自分が着る物だ、俺も好みの物を探そう。
そうして三人で俺に合いそうな服を選んだ。各自選び終えたのか、鉄の箱の前に集まる。
「前提としてダンクはどんなのは好みだ?」
ドラ子さんは俺に尋ねる。好みも考慮してくれるのか、俺は自分が選んだ服を見せながら話す。
「好みはあんまりありませんね、機能がしっかりしていれば大丈夫です。なので俺はポケットを増やして、防御に鎖帷子。肩アーマーを着ける器具、これでどうです?」
「ダッ……いや、なしだな」
「今ダサいって言おうとしましたよね……」
「うーんカッコ悪い」
イスカまで!?
「それに戦闘は俺担当だろ?そんなにガチガチに固めてどうするんだ」
「何度かイスカの盾になったことありましたし、守りは固めといて損はないかと……」
「その気持ちはありがたいが、ブレイブガードを覚えて。良い装備もある、あとは重くせずフットワークを軽くした方がいい」
「そういうもんなんですか?」
「ああ、という訳で俺たちが選んだのはこれだ」
二人はバラバラで動いてたのに一緒に選んでたのか。
「まずグロースシャーフの毛をふんだんに使った軽くて弾力もあるボトム、匂いのつかない抗菌作用のあるインナーに、汚れを落としやすい繊維でできている冒険者ジャケット。これだ!」
「でも防御力が……」
「俺が買ってやるんだからこれにしろ!」
「えー」
鉄の箱に金貨を入れたドラ子さんは買ったものと俺を有無を言わさず更衣室に押し込めた。
「せっかく俺の意見聞いたんだから少し反映してくださいよー」
そう言いながらしぶしぶ着替えた俺は更衣室を出る。すると二人からそれぞれ感想が上がった
「いいね、清潔感が出てる」
「ダンク似合ってるよ!」
「それとこれだ」
ドラ子さんは俺に追加で買ったであろう畳まれた布を渡してきた。
「これは……」
俺は畳まれた物を広げる、するとそれはグロースシャーフが小さめに可愛く描かれたエプロンだった。
「これがあれば汚れも防げるだろ?」
「ですね、ありがとうございます」
「まあ、いつかこの分は返しに来い」
「はい」
そうして俺は新しい服を手に入れて店を出る。
他の建物も回ってみたが、あとは大きい羊舎、つまりこのデカい羊たちの家だった。なんだか牧羊所を見学をしてるみたいだな。
「この階層は家畜のための場所なのかもな」
ドラ子さんが顎に手を添えて呟く。
確かにこの階層は窓があったり土や草があったり他の階層とは何か違う気がする。モンスターも出ないし。
「家畜の……という事はこれから食料が手に入るかもしれないって事ですか?」
「その可能性はあるな。じゃあそれを確かめに次の階へ行くか」
俺たちは道を戻って階段を上った。
そして83階、辺りを見渡す。
「家畜の階層って話でしたが……」
「あれー?」
勘が外れたドラ子さんは素っ頓狂な声を出しながら首をひねる。
ここから真反対の一番奥には上へと続く階段が見えるが、周囲は下の階と同じ丈の原っぱの風景と変わらない。けど家畜となるモンスターは見当たらなかった。
「何もいないですね、この草の中に隠れているとか?」
「いや周囲に家畜みたいな動物はいない、野生の小動物ならいるが……」
へぇここには動物がいるのか。そう思っていると後ろから葉っぱの擦れる音が聞こえて来た。草を分けて覗いて見ると白いうさぎと目が合う。
「あ」
俺が声を出すとうさぎは逃げ出してしまった。
「何の動物だった?」
ドラ子さんは当然何かいたのは分かっていたようで俺に聞いてきた。
「うさぎですね」
「えー、うさぎいたのー?見たかったなぁ」
「あはは、ごめん逃げちゃった」
イスカは残念そうに肩を落とす。動物が好きなんだな。
そんな姿を見た肩に乗るくーちゃんはイスカを励ますようにそっと顔に寄り添った。イスカの感情が分かっているのか、結構頭いい鳥だな。
「そのうち見れるだろ。先へ進むぞー」
「はーい」
俺とドラ子さんは落とし穴を警戒してまたお互いの体にロープを結ぶ。
「じゃあまた落とし穴探索始めますか」
そうしてドラ子さんを先頭に俺たちは歩き始めた。しばらく階段に向かって直進する。
すると先を行くドラ子さんの足元からカコンという音が聞こえた瞬間ドラ子さんは立ち止まり、俺たちにも止まるよう指示を出す。
「止まれ、この階の罠は落とし穴じゃない」
「でもドラ子さん、ロープがだんだんそっちに引っ張られて……」
なぜか引っ張ってる訳でもないのに俺たちを繋いでいるロープは見えない力によってドラ子さんの方へ引っ張られている。
「む?分かった一旦戻る」
そう言ってドラ子さんはロープを外しながら俺の前に戻ってくる。
「ふむ、範囲はここまでか」
「いったい何があったんですか?」
「ありゃ重力トラップだな」
「重力トラップ?」
「ああ、俺はちょっと力を入れれば脱出できるが……お前らはどうだろうな」
重力トラップか、思い浮かぶのは全身が重くなって地面に押しつぶされるってやつだけど。
「ちなみに重さ的にはどれくらいでした?」
「全身にプラス百キロされた感じだな。落とし穴よりは危なくないと思う、とは言えあんまりイスカには入らせたくないな」
「全身に百キロは俺も動けるかどうか分からないですね、安全のためトラップのない道を探しましょう」
俺たちは階段までの道を探して横にそれる。
しかしそこでも重力トラップが発動して先頭のドラ子さんが引っかかった。
「おわぁっ!これは!」
今度はドラ子さんの身体が浮いて、行き空中で静止する。
ドラ子さんは空中で泳いだりもがいたりするけど進むことも引くこともできないみたいだ。
そこで俺は外したロープの端をドラ子さんに向けて投げる。
「掴まって!」
ロープを掴んだドラ子さんは、俺に引っ張られてやっと重力トラップから脱出できた。
「うへー、重力が反発するトラップもあるのか、さしずめ反重力トラップだな。これは一人で引っかかったら身動き取れなくって危険だ。重くなるより厄介かもしれん」
「こんなトラップの中から正しい道を見つけるのなんてかなり大変そうなんですが……」
「でも進むにはやるしかない、ここには大きいモンスターも居ないしイスカにはまた待っててもらおう」
草の丈が高くてイスカがここに座るとすっかり見えなくなる。
けど万が一にも罠にかからないようにイスカには再びこの場所で待っててもらうことにした。
その為に敷物を敷いて拠点を作る。
「じゃあイスカ、もし何かあったら思い切り叫べ、すぐに飛んでくる」
「ヴィ、二人とも気を付けてね」
こうして俺とドラ子さんは再び道を探すための探索を始める。




