第38話
81階、俺たちはダンジョン攻略を開始する。
「まずはダンク、どう思う?」
「原っぱですねぇ、なんていうか大草原?」
俺は目の前に広がる景色をそのまま口にした。
「だな、まあ階段は見えている。とりあえず近づいてみるか」
そうしてドラ子さんを先頭に俺たちは歩みを始めた。
「変わった所は無いな、このまま真っすぐ行けるか?」
ドラ子さんはトラップやモンスターを警戒して慎重に。
最後尾のイスカは手のひらの上にハンカチで包んだ小鳥型のモンスターを乗せて歩いてる、だから俺たちの歩みはちょっと遅い。
「行けたとして、ここ何のための階なんですかね。下の階はあんなに難しかったのに……」
「だからここは何の仕掛けも置いてないのかも!」
イスカは自分の考えを話す。
「そういうやり方もあるのか。なら俺たちが慎重になってる時点で術中に嵌ってるってことになるけど……ドラ子さんはどう思います?」
「そんな単純なものじゃないと思うが……確かに警戒していつまでもノロノロと進むのも性に合わないな。ようし、ここは罠があっても突破する気で行くか!」
ドラ子さんはそう言って大きく一歩を踏み出した。
するとドラ子さんの踏み出した足元からカコンという小さな音がして、急にドラ子さんの姿は俺の視界から消える。
「へ?」
「おわぁぁ!?」
ドラ子さんは俺のズボンを掴んでぶら下がってる状態だった。急に地面が無くなったのだ。
「落とし穴だ!」
「ちょっドラ子さん離して!ずり落ちる」
「離したら俺が落ちる!」
「これパンツまで行くやつだから!だめぇーっ!」
それからドラ子さんは落とし穴から脱出する。同時に俺の尊厳もなんとか守られた。本当に危ない所だった。
「それにしても落とし穴か……なんて古典的な」
ドラ子さんは落ちてる小石を自分が落ちた所へ投げる、だけど落とし穴は小石に反応せずそのまま地面に転がった。
「こりゃただの落とし穴じゃないな、ダンジョンの修復機能を利用した落とし穴だ、冒険者だけを狙ってるな。しかも……」
その場でドラ子さんは大きくジャンプする。どうやら上から床を観察してるようだ。
降りて来たドラ子さんは呟く。
「ダメだ、見分けもつかないな」
「回避不能の落とし穴なんでどうやって進めばいいんですか?」
「俺とイスカだけだったらイスカを背負って一足であの階段の場所まで飛んでいけるんだが……」
「俺が足手まといなんですね……」
俺は不貞腐れながら愚痴る、けどドラ子さんは珍しく否定してくれた。
「いやいや、今はあいつもいるから、そう自分だけを卑下するな」
ドラ子さんが指した方向、イスカの手には傷ついたモンスターがいた。あの傷だらけの身体はドラ子さんの出すスピードに耐えられないだろう。
「でも、それならどうやってここから進むんです?」
「そうだなぁ……ダンク、応急セット以外にどんなアイテム持ってきてるんだ?」
「はい?えっと……」
俺はリュックを下ろし中を漁る。
俺が取り出したのはコンパス、ロープ、小型のハンマーに羽ペンとメモ帳、釣り用の糸だった。
「こんなの持ってたのか」
「ドラ子さんのおかげで今まで出すことはなかったんですけどね」
「いや、今役に立つ。このロープは使えるぞ」
俺たちは当たりを隈なく確認する。そして本当にモンスターが出ないことを確認して敷物を引いた。
「イスカはここでそのモンスターを診ててくれ、そろそろリジェネのかけ直す時間だろ?」
「うん……二人は?」
「俺とダンクはこれから安全な道を探しに行く、このロープでな」
ドラ子さんの提案はこうだ、まず最初に一人がロープに縛られながら先を歩く、もし落とし穴に引っかかったら後ろでロープを持っているもう一人がすぐに引っ張るという凄く単純な作業だ。これをしながら正しい道を見つけていく。
「じゃあどっちが先を歩く?」
「えっドラ子さんが先行ってくれるんじゃないんですか!?」
「俺はどっちでもいいが……たぶん労力は大して変わらないぞ?まあそこまで言うなら俺が先へ行こう」
こうしてダンジョン攻略が始まった。
「まずはこのまままっすぐ行ってもダメだったからちょっと遠回りしよう」
ドラ子さんは俺の数歩先を歩いて俺はしっかりロープを握りながら後に続いた。
「ふむ、この辺は大丈夫か。じゃあここから先へ――」
そう言ってドラ子さんが一歩前に出た瞬間またカコンという音がして俺の腕に一気にドラ子さんの体重が乗る。
「ぐおっ!」
「ここもダメかーほら、早く上げてくれー」
「は、はい……」
小柄な体型をしているドラ子さんと言えど、いきなり人一人の重さが全身にかかってくるのは結構しんどいな。
「じゃあ次ダンクが先頭な」
「えっ」
「なんだ、怖いのかぁ?」
ドラ子さんは俺をからかうように言った。
「い、いや……これでも冒険者の端くれ、大丈夫行けます」
ロープはお互いの身体を縛っているから交代するには前後逆になればいいだけ。次は俺が前に出る。
「じゃあもうちょい横から調べていくぞ」
「よーし!やるぞー」
俺は掛け声とは裏腹にそっと足を踏み出す。
「おいダンク遅いぞ、もっと堂々と歩け!」
「そんなこと言ったって罠に嵌りに行くの怖いんですよ!」
そんなことを話していると俺の足は地面を踏む、するとカコンという音の後に落下感が……来なかった。
代わりに俺を襲ったのは強く上に引っ張られる感覚。
「ぐえっ」
急に引っ張られて自然とそう口から声が出てしまう。そして半円を描くように俺はドラ子さんの隣に落下した。
「ビ、ビビビビックリしたー」
「なんだか釣りの感覚に似てるなぁ」
「次からはドラ子さんが前でお願いします……俺の心臓と腰に悪い……」
「えぇーこっちの方が早いだろう。落とし穴そんなに怖かったか?」
ドラ子さんは不満げに声を上げる、けどあんなスピードでホイホイ釣り上げられたら本当に俺が持たない。もう理由は怖いということでもいい、俺は頭を下げてドラ子さんに役割を交代してもらった。
それから落ちるドラ子さんを引き上げるという作業を何十回も続ける。
俺の腕が限界を迎えるころには窓から見える外の景色は日が落ち暗くなり始めていた。
「なあ、やっぱお前が前に行けばもっと早くなると思うんだが」
「すいません、ホント勘弁してください」
「はぁ……しゃあないもう日も落ちたし一旦イスカの所へ行ってここに連れてこよう」
俺たちが進めたのはこの階の三分の二程度、もう少しすれば階段まで届く。
「階段はすぐ近くなのになぁ、そうだ、ここからお前をぶん投げたらすぐ階段に到着するぞ」
「怖いのでやめてください」
「ちぇー」
そうしてイスカの所に戻ると笑顔で出迎えてくれた。
モンスターはまだ目が覚めていないのかイスカの隣で体を休めていた。けれど傷がふさがりつつあるのか今は安らいでいるようだ。
「とりあえず進めた分だけ移動しよう」
俺は敷物を畳んでリュックに入れた後折り返す。
「一応道の幅とかも調べたんだ、落ちることはないと思うけど気を付けろよ」
ドラ子さんは先頭で注意を促す。
「なんだか凄く遠回りしてたね」
「ああ、俺もまさかダンジョンの真ん中から端をぐるっと回るとは思わなかったよ」
溜息をつきながらドラ子さんはイスカに説明する。そう、俺たちは落とし穴がない所を調べた結果ダンジョンの端、壁際まで行く羽目になった。ドラ子さんの推測ではこの階はS字状にしか道は繋がっていないんだろうとのこと。
「最後まで行かなかったの?」
「もう外は暗くなってきたし今日は色々あって疲れたろ。早めに切り上げようと思ってな、ダンクの身体も悲鳴上げてるし」
そう言う理由ならもっと早く切り上げて欲しかった……。
「よし到着、今日はここで休む。寝相悪いと落とし穴に落っこちちゃうぞー」
「あははーそんなに寝相悪くないもーん」
ドラ子さんとイスカは到着した地点に敷物を敷いて拠点を作った。今日の寝る場所が完成だ。
その横で俺は晩飯の準備を始める、そうして夜は更けていった。




