第3話
「ダンクの新しい門出にかんぱーい!」
俺たちはそのまま、beautyのテーブル席でパーティーをしていた。
俺の引退と面接合格を祝う席だ。
「あなたたちがダンクちゃんの仲間たちね」
ダ、ダンクちゃん……そんな呼ばれ方は初めてだ。
「ああ、店主さん。ん?そう言えば名前は……」
そう言えば俺たち、店主の名前も知らない。そんな中、追加のエールを持って来た店主は不機嫌そうな顔をしながら自己紹介をしてくれた。
「私の名前はパップよ、利用する店の主の名前は覚えときなさい。あとダンクちゃんは店長と呼ぶこと」
「は、はい」
パップさん……店長は俺たちのテーブルにエールを置くと、俺の顔をじっと見る。
「な、なにか?」
「うーん……料理はできるとは言ってたけど腕くらいは見たいわね」
「レシピさえあれば大体できますよ」
パーティ内で調合などをやってた経験が、料理にも生きている。
俺はダンジョン内に生えている薬草を使って、低レベルポーションなら作れるのだ。
「じゃあこのテーブルの次の注文を作ってみて、仲間ならテストに協力しなさい」
「よっしゃ望むところだ!次の注文は……」
イグレはテーブルの上を見る。しかし、パーティーは始まったばかりで料理は出揃ってしまっている。
「ない!新しく頼む物が!俺たちはダンクにテストを受けさせてやることすらできないのか!?」
既にエールが回ってるのかイグレが非常に暑苦しい。
「別に今すぐとは言ってないだろ……でしょうパップさん?」
「まあそうね」
グルーがわざわざ確認してくれる、だったら後に注文を受ければいいのだ。俺は飲み過ぎないように注意しとこう。
「うーんでもこの中だと甘味が足りない!」
ナンティはいきなり立ち上がる、こいつのジョッキの中も空だ。酔ってるんだな。
「という訳で私はデザートを注文するわ」
「デザートねぇ……この店、むさ苦しい冒険者が主な客だからね……スイーツの類は焼き果実くらいしかないのよ」
「えーでもデザート食べたーい!イスカちゃんも食べたいよねぇ」
隣に座る料理を食べていたイスカの肩を掴みながら、ナンティはすごい絡む。
「#$&!!'`;!!」
あのままじゃイスカも食べにくそうだし、簡単なデザートでも作るか。
「分かったよ……店長、厨房借りますよ」
「勿論いいけど……あなたスイーツも作れるの?」
「簡単な物ですけど……蜜と果物ありますか?」
「勿論あるわよ、ついて来て」
俺は店長と厨房へ向かった。そして、しばらくし仲間たちが待つテーブルへ向かう。
その頃には既に皿からは料理が半分くらい無くなっていた。俺、まだあんまり手付けてなかったのに。
「はい、急いで作ったなんちゃってコンポート」
「やったーダンクのデザート!」
「待ってました!」
仲間たちは、酔っぱらったウザいテンションで俺の帰りを迎えた。
そして、俺に厨房を案内した後、接客に行っていた店長も戻ってきて作った物を見る。
「コンポートね、では……」
皆は一斉にコンポートを口に入れる。
「うんおいしい!」
「なんちゃってと言いながらもしっかり蜜がしみてるな」
仲間たちの反応はいつも通り、喜んでくれて俺もうれしいが問題は店長だ。
「うん、あの時間でこれを作れるなら当然合格ね。しっかり仕込みをすればメニューに載せてもいいかも。明日からよろしくね」
そう言って店長は接客に戻る。
よし、店長からもお墨付きを貰ったけど、イスカはどんな反応だろうか。
「'%!*><!&%」
おお、なんだか喜んでるようだ。けどイスカは俺にコンポートの皿を指して何かを伝えようとしていた。
「"#$%'_`?」
なんだろう。こんなに喜んでくれてるから文句って事は無いんだろうけど。
「コンポートがどうかした?」
「!こん……\~=>&%」
ああ、名前を知りたいのかな。
「コ・ン・ポート」
俺はイスカにゆっくりと聞き取りやすいよう伝えた。
「こんぽーと…!^;*\#!」
その後もイスカは覚えたてのコンポートを連呼しながらコンポートを食べていた。
さて、注文の品を出してやっと席に着いたけど、周りが酷い。
「キャハハ」
「美味い美味い」
「……」
「二人ともすっかりエールが回ってる。グルー、この後は……グルー?」
「……zzz」
グルーは腕を組んだまま考え込むかのように寝ていた。じゃあパーティの後始末俺がするって事か。
「の、飲めない……これ俺のためのパーティーだよね……」
イスカが料理を食べ続ける中、俺はでろでろになった仲間たちの介護に追われた。
翌日、俺は二日酔いでヘロヘロな仲間たちを見送るため、ダンジョンの前まで来る。
「だ、大丈夫?」
「あぁ……大丈夫。お前の分までしっかりやってみせるよ……でもいつでも帰りを待ってるぞ」
「うん」
「それに、俺たちはこのダンジョンを攻略するから、この街にいる限りいつでも会える」
「そうだね、でも気を付けて」
「ああ、行ってくる。お前も頑張れよ!」
イグレと俺はハイタッチしその背中を見送った。
そして、俺は俺の新たな戦場。食事処beautyの中へ入る。
「店長、今日からよろしくお願いします!」
「はいよろしく」
昨日、あらかじめ店長から貰っていた店のエプロンを身に着ける。
「よし頑張るぞ!」
いよいよ初出勤。開店に向け気合を入れていると、店長はイスカにフリルの着いた可愛らしいエプロンを着せていた。
「店長まさかイスカにも……」
「こんな可愛らしい子を使わない手はないわ、それにこの子も住み込みの一員。働かざる者――よ」
店長、意外と厳しいな。
でも言葉の分からないイスカは役に立てるのだろうか。店長にはちゃんと言わなきゃな。
「その子言葉が分からないみたいなんですが……」
「昨日から見てるから分かるわ。でもこっちの言葉は理解してるみたいだし最初にやる事を指示すれば問題ないと思う。接客や料理以外にもやる事はたくさんあるもの、足手まといにはならないわ」
「店長がそう言うならいいけど……イスカできる?」
「ヴィ!」
おそらく肯定なんだろう、言葉を上げたイスカはやる気を見せる。
「それに挨拶だって覚えてたんだから。さあイスカちゃん、お客への挨拶は?」
イスカは店長の言葉に答えるよう大きく息を吸い、元気よく挨拶した。
「ヘイラッシャイ!」
「……」
言い切ったイスカの顔は凛々しく、店長も頷いている。
そこは可愛くいらっしゃいませ、じゃないんだろうか。
「良いんですかこれで……」
「ギャップよギャップ。さあ店を開けるわよ」
店長がいいならいいかぁ。
「……」
ふと静けさが周りを襲う。
今までこんな事なかったのにな。視線を上げるとふとイスカと目が合った。
「?」
いつも賑やかだったあいつらがいない。
それだけで、少し寂しさを覚える。
「……頑張りますか」
「ヴぃ!」
こうして俺の新たな戦いが幕を開けた。
***
後日。
ウニルコット王都の冒険者ギルド本部にて、リーホテヴのダンジョンで起きた上級モンスターの出現事件が報告されていた。
ある個室で、大きな椅子に座りながら窓の外を見る人物は部下らしき人から報告を受けていた。
「へぇ、そりゃ危なかったな、でも問題なく対処されたんだろ?」
椅子の背もたれは大きく、後ろを向いている。
正面から報告する部下からは声の主の全く姿が見えない。
「はい、現れたのはダンジョンロビー。その場に居合わせた中級から上級者冒険者に処理されたようです。事件ですのでお耳に入れておこうかと」
「分かった、その後問題なくダンジョンが稼働してるなら問題ない」
「それと……すぐ後にダンジョン内で見つけた迷子がいる、という奇妙な報告もリーホテヴから来ています。見つけた子供は冒険者に預かってもらっていますが、解決法が分からずギルドも困っています」
「ダンジョン内の迷子?ゴーストや変身系のモンスターじゃないのか?」
「スキルで判別済みだそうです。……今までになかった例なのでギルドもどう対処するべきか迷ってまして……」
「ふむ……いや、前例は昔から数件ある、それはこっちで何とかしよう」
その言葉に部下らしき人は驚く。
「まさかあなたが自ら動くのですか!?」
「これは俺じゃないと解決できないからな、という訳で少し空けるぞ」
「わ、わかりました!ギルドマスターが直接動くぞ!」
部下はそう叫びながら部屋から飛び出ていった。




