第2話
復旧したダンジョンのロビー。
休憩スペースで俺たちはテーブルを囲んでいた。
「さて、図らずも子供を預かる依頼を受けてしまったが……困ったことにこのままじゃダンジョンに挑めなくなってしまう。ということで……第百八十六回グレート会議!」
「ワー!」
イグレの宣言にナンティはどこからか取り出したクラッカーを鳴らす。もちろん議題はイスカについて。
当の本人のイスカは、ペロキャンをおいしそうに舐めていた。なぜかギルドで売っていて物欲しそうに見ていたから、つい買ってあげてしまった。
「俺たちは現在故郷から離れこの街にきている、だが、こんな離れた地で子供を預かりながら活動するには制限がかかってしまう」
そう、俺たちは生まれ故郷を離れダンジョンに挑んでいた。
この国の名はウニルコット。この地方には古代の種族が作ったダンジョンが幾つもある。
冒険者を目指し故郷を飛び出した俺たちは、このダンジョンがあるリーホテヴの街までやってきたのだ。
当然、全員家はなく、街にある宿暮らしだ。
宿代を稼ぐため、全員ダンジョンに入り浸っている。
おかげで子供の相手をしている暇は無いのだ。
「これはギルドからの正式な依頼だけどいつ親が見つかるかわからない中、この子を預かるというのは結構きついな……」
「まさかこんな子供を置いてダンジョンに入り浸る訳にもいかない」
「でもそうすると宿代がぁ~」
冒険者がダンジョンに潜るのは、当然手っ取り早く稼げるからだ。
古代の種族の技術のおかげで、ダンジョンには凄いアイテムが多くある。
俺たち冒険者は見つけたアイテムを売ったり、新たな武器にしたり、そうやってダンジョンの上階を目指す。
冒険者の目的も様々で、純粋にダンジョンの踏破を目指す者、金目の超レアアイテムを見つけて引退する者も様々だ。俺たちは一応踏破を目指しているけど、グルーなんかは普段から「億万長者になれば引退する」なんて言ってる。
「やっぱり一人ずつ休んで、お留守番を決めるのが不公平じゃないか?」
「けど俺たちは少数、誰が抜けてもバランスを著しく欠く」
「うーん」
全員が頭を悩ませる。
……これは、もしかしたらいい機会かもしれない。
この街にきて二か月。
俺たちは新米冒険者として精一杯頑張ってきた。しかしダンジョンで経験を積むほど見えてきたものがある。
それは――自分の限界だ。でもここで辞めるって言ったらみんな心配するだろうなぁ。
「しかし依頼は依頼だ、新しく部屋を借り、お留守番を――」
「俺、このパーティを抜けるよ……」
言ってしまった。
故郷の同郷、云わば幼馴染になるのかな。みんなで冒険者を目指して一緒に故郷を出たけどこいつらには才能がある。でも俺はそろそろ付いて行くのがキツくなっていたのだ。
「おいおい、そこまでしなくても。皆でこの依頼を……」
イグレはこの依頼限定のことだと思っているのか、軽く否定する。
「前々から思ってたんだ、これを機に俺は冒険者を引退しようと思う」
「なんだって……」
俺の言葉の意味を理解した全員の顔は険しくなる。
「それはこの依頼関係なく、ずっとということか……」
グルーもダンジョン外では珍しい真剣な目つきで俺を見る。
「そう、俺はもうお前たちに付いて行けそうにないんだ……」
「えっ、でもみんなでここまでやってきたのに……」
「ごめんな、ナンティ。でもレベル差を考えたらそろそろ本気でパーティの足を引っ張ることになる」
そう、現在レベルが一番高いのがリーダーのイグレで19。続きグルーは17、ナンティも15とそろそろみんな初心者という枠から外れようとしている。
そんな中、俺はまだ一桁のレベル9なのだ。
最近はダンジョンで登る階数も上がってきた。
スキルを使ってのガードをしても、敵の攻撃を防ぐことが辛くなってきてる。
今までも攻撃を受けてヒヤッとしたこともあったし、このままじゃいずれ受けきれず仲間に怪我を負わせてしまうだろう。
「レベルの差はリーダーとしても何とかしなければと考えていた、だから辞めるなんて……」
「ありがとう。でもレベルのことだけじゃなくて、俺やりたいことが出来たんだ」
「やりたいこと?」
これは本当だ。俺はパーティでの役割はタンク、戦闘外だと荷物持ち兼食事係だった。
ダンジョンの中、限られた食材でこいつらに食事を振る舞って、美味いって言ってもらうのが俺の密かな楽しみだったんだ。だから密かに料理の勉強をしていた。
だけど俺の料理を他の冒険者に、いや冒険者だけじゃない。色んな人に提供すればもっと美味いって言ってもらえるんじゃないかって思ってたたんだ。
「俺、お前たち以外にも料理を振る舞ってみたいんだ」
「本気なのか?」
イグレは俺の目を真剣に見ながら聞くが、嘘はない。俺もイグレの目を真剣に見返しながら頷く。
「ついて行けないことは悔しいけど、料理をやりたいってのも本当だ」
「だ、だけど……ダンクなしじゃこのパーティはやってけない、考え直してくれないか?」
説得するイグレの言葉に静かに首を振る。
「……むむむぅ」
その場の全員静かにがイグレの返答を待つ。
「……わかった!ダンクの脱退を認めよう」
「ごめん、イグレ。だけどそう言う訳だからこの子の世話は任せて欲しい」
こいつらは本当に良い奴らだ、レベル差もどうにかしようとしてたのは本当だと思う。だけど俺のためにこんな所で足踏みする必要はない。
俺のレベル上げのためだけに時間を取らせるくらいなら、その時間をダンジョン攻略に費やして欲しい。
こいつらはもっと先へ行けるんだ。
「適当な理由だったら却下したけど、新たにやりたいことを出来た仲間を縛るのも違うしな。けどお前の居場所は、いつでも開けてるぞ」
「そんな、必要な人員は入れるべきだ」
「いいんだ、これが俺たちのやりたいことだから」
イグレの言葉を肯定するように他の二人も頷く。
「そうだよいつでも戻ってきてよ、ダンク」
「全く、こんなこと言うのお前だけなんだからね!」
ありがとう皆、けどグルーのツンデレはキツいなぁ。
「で、料理って言ってもどうするんだ?この子の世話もある」
「この街に冒険者たち行きつけの店あるだろ?あそこは住み込み働けるらしいからまずはそこに面接に行こうと思ってる!」
「なるほど、よし皆で行こう」
「えっ?皆で?」
「仲間の新しい門出だ、皆で見送らなきゃな」
なんだか保護者に着いてきてもらうみたいでなんだかむず痒いけど、これから新しいことを始めるんだ。仲間に見守ってもらうのもありだな。
ここ、リーホテヴの街はダンジョンを中心に賑わってきた街。
ダンジョンの近くには冒険者御用達の店が幾つもある。
当然、冒険者行きつけの飲食店も同じ。
この街で一番大きい飲食店、食事処beautyはダンジョンと並ぶように建っている。
俺は未だペロキャンを舐めているイスカの手を握り、店のドアを開けた。
中にはまだ明るいのにもかかわらず、それなりの数の冒険者がいた。そんな中、青髭を生やした坊主頭の店主がカウンターで客と話している。
「いらっしゃい。好きな所へ座って」
オネエ言葉の店主に、俺は緊張しながら用件を伝える。
「い、いえ。今日は食事じゃなくこの店に雇ってもらいに来ました!」
「バイト希望?見た所冒険者の様だけど……」
「訳あって冒険者は引退するつもりです、この子と共にこの店に置いてくれませんか?」
「子連れのバイト希望者なんて珍しいわね、いいわ面接してあげる」
店主はさっきまで話していたカウンター席の客をテーブル席に移動させ、面接は始まった。ちなみに仲間たちは別の席で見守ってくれている。
俺は子供を預かる依頼をギルドから受けたこと、これを機にパーティを抜け料理で食っていきたいことを店主に話した。
「――なるほどね、じゃあその子の親が見つかっても店は辞めないと、それに料理の経験もある」
「はい、この子も一緒に住み込みで働かせてもらえないでしょうか」
「いいわよ、採用」
なんと、二つ返事で採用の返答を貰ってしまった。見ていた仲間たちはあっけにとられたあと、ハイタッチして喜んでいた。
「正直ここってダンジョンがあるだけで辺鄙な場所でしょ?客は多いのに人手が足りなくて困ってたのよ。ちゃんと料理ができるなら即採用よ」
「ありがとうございます!」
これで俺の冒険者引退と、新たな道が決定した。




