第1話
クリスタルゴーレムはあっという間に冒険者たちの素材となっていた……。
そんな光景を尻目に、今の俺たちの問題はこの女の子だ。
パーティの仲間たちは戦闘の場になった一階ロビーの片づけを手伝いながら、この子のことを聞き回ってくれている。本当に情に厚い奴らだ。
俺はこの子が目を覚ました時に対応できるようついててやれと仲間たちに言われた。なので今はロビーの椅子に寝かせてる。
この子の年は十歳前後かな?
そもそも、こんな年の子がダンジョンに入るなんてあり得るのだろうか?
そんなことを考えてると、最初に戻って来たのはギルドの職員の手伝いをしていたナンティだ。
「聞いてきたよー」
「どうだった?」
「うん、ギルドってダンジョンに入る冒険者を全部チェックしてるんだって。で、小さい子が入った記録は無いそうだよ」
「なんだって……」
「そもそも冒険者になれる年齢は十六歳で、冒険者以外ダンジョンに入るのは禁止されてるから子供が入ることなんてあり得ないんだって」
ダンジョンってそんなルールがあったのか、また一つ勉強になった。けど問題はそこじゃない、この子の存在はあり得ないってことになってしまった。
「でもこの子上から落ちて来たんだよなぁ……これってやばいことなんじゃ……」
「なんで?」
ナンティは分かってないようだが、この子はもしかしたら何か事件に繋がってるかもしれない。
そして次に戻って来たのはグルーだ。
「ふっふっふ重要な情報を手に入れて来たぜ」
さすがなんでもそつなくこなす男、器用貧乏とか言われてるけど本当はかなり頼りになる。
「なんと上位階には人に擬態するモンスター、スライムがいるそうだ」
「え゛っ」
とっさに女の子のそばから飛び退き、構える。もしこの子がモンスターなら少なくとも俺たちより上階から落ちてきたことになる。俺はパーティの中で一番レベルが低いんだ、襲われればワンパンでやられる自信があるぞ。
「そ、それって判別方法はあるの?」
「簡単さ。俺のスキル、リサーチを使えばいい、行くぜリサーチ!」
やはりグルーは頼りになる。早速手の指で円を作り、眠る女の子を円から覗き込んだ。傍から見たらちょっと怪しい人になるがここは仕方がない。
「んー、んー?」
周りからヒソヒソと噂を立てられながら、怪しげな格好で女の子を覗くグルーは首を傾げて唸っている。周りの目が痛いから早く終わってほしい。
「リサーチで何も出てこない、この子モンスターじゃなくて人間だ」
「そ、そうか……」
モンスターじゃないのはよかったけど、結局存在し得ない人間と言うことに変わりはない。なんだか本当に怖くなってきたなぁ……。
最後に戻って来たのは我らがリーダー、イグレ。彼はいい汗をかきながら戻って来た。片付けも聞き込みも全力だったんだろうなぁ。
「どうだその子は?」
「結局ここには存在し得ない子ってことくらいしか分からなかったんだ」
「そうか、実はなこれはある冒険者から聞いた話なのですが……」
ん?なんでいきなり口調変わるんだ?
「実は上位階には出るらしいんですよ……過去に亡くなった女の子の幽霊が!」
「ひやぁぁぁぁ」
叫んだのはグルー、イグレは光球の魔法を顔の下から照らしながら幽霊話をしたが、俺とナンティは白い目でグルーを見る。仮に幽霊だったとしてここは古代の種族が残した塔の遺跡。何百年、何千年前の幽霊だ?
「……まあ俺が聞いたのはそのくらいだな、実際にダンクが抱えてたんだ幽霊ってことは無いだろう」
「いや俺は真剣にビビったんだけど……」
「グルーってハンターの癖に怖がりだよねー」
皆もこの子が幽霊だとは思ってないようだ。けどいよいよもって正体不明の子供だな。
「後はもうこの子が目を覚ますのを待つしかないんじゃないか?」
さすがリーダー、一番の正論だ。実は既に回復系の魔法使いに診てもらって怪我がないのは確認済み。一応ヒールもかけてあって俺はこの子が目を覚ますのを待ってたのだ。
仲間たちも聞き込み終わりロビーは復旧しつつある。ちょっとかわいそうだけどこの子を起こしてみるか。
「よし、じゃあ俺が起こしてみる」
俺は女の子に近づこうとし一歩踏み出した、すると女の子のまぶたが震え身体が動く。これは自然に目を覚ますか?
パーティ皆で注目する。すると女の子のまぶたからまるでタンザナイトのような綺麗な瞳が出てきた。そうして唇を開き第一声を発した。
「ふああぁぁぁぁ~」
あくびだ、第一声はそれは見事な大あくび。こんな状況でも大あくびをやってのけるのは凄いな。
とにかく目が覚めたならこの子に詳細を聞かなくては。
「えーと俺はダンク、君はダンジョンの上から落ちて来たんだ。ご両親は?君は一体なぜダンジョンの上に?」
「……」
一度に聞きすぎたかな?女の子はきょとんとしている。でも現状何もわからないし本当にはぐれた子なら家族を探してあげないと。
女の子は開ききらない綺麗な目で俺を見つめる。
何かを考えるような仕草をして、ようやく口を開いた。
「@#$%&*」
「は?」
いかん、何を言ってるのか全く分からない。言葉だよな?どうしろっていうんだこれ!?
俺は困って仲間たちを見る、すると頼れる仲間たちはみんなわざとらしく距離を開けて目をそらしやがった。こ、こいつら……明らかに面倒事から逃げる気だ!
「えっと俺の言葉は分かるかな?」
「*@#^&$!#%&*~?」
「言葉は……」
「=*%$#!!"」
「who are you?」
「?」
「こ、言葉が分からない……詰んだ!」
やばい、泣きそうだ。
正体不明の子供を助けたら、言葉が分かりませんでした。なんて展開予想してなかった。
「#&$#=~><&#%?*%!~*&$!」
身振り手振りで何かを伝えようとしてるのは分かる。
というかこの子、知らない相手にめっちゃ話すな。
さっぱり言葉が分からないけど。とりあえず自己紹介してみよう。
「ダンク」
俺は自分を指さし名前を言ってみる
「!ダンク!^^*~&%$!」
どうやら伝わったのか女の子も俺を指さし名前を呼んだ。次は女の子を指差して待ってみる。
意図が伝わったのか女の子も自分を指さして大きく叫んだ。
「イスカ!」
通じた!満面の笑顔で女の子は名前を教えてくれた。異文化交流大成功だ。
「おお通じた」
今更ながら少し遠巻きに見ていた仲間たちは近寄ってくる。コミュニケーションが取れると分かって安心したのか、現金だな。
それぞれ、俺がやったように自分を指さし自分の名前を言っていく。イスカは覚えたと言わんばかりにそれぞれ指差し名前を復唱した。
「イグレ!ナンティ!グルー!」
「うむ!名前も分かったし俺たちはもう仲間だ!」
イグレの言葉にイスカはドッと笑う。おかしなことあったんだろうか?
「なあ、もしかしてこの子こっちの言葉は分かるんじゃないか?」
グルーはボソッとつぶやく、それがホントなら意思の疎通がだいぶ楽になる。肯定するようにイスカはグルーを指さし手を叩いた。
「な、なんだか褒められた気分だな」
十歳かそこらの子供に褒められて喜ぶ大の大人を見るのはちょっと引くな……。
それはともかく、もし本当にこっちの言葉が通じるなら、こっちの質問に答えてくれるかもしれない。
「君の家族は?」
再びイスカに同じ質問をしてみる。
「@#$%&*」
けどイスカはさっきと同じ言葉を話し、少し考えた後、笑顔で頭上を指さした。
「天井?ダンジョンの上?」
「うーん」
やっぱり女の子の言ってることが分からず俺たちは首をひねる、ただダンジョンの上から来たのは確かなようだ。
「あり得ない所から来た存在しない子供かぁ、助けにはなりたいが……俺たちの手には余るんじゃないか?」
イグレは情に厚い男だけど冷静な判断ができるパーティのリーダーでもある。彼の言うことはもっともだ。ここは専門の人に任せるのが一番かもしれない。その専門はどこか分からないけど。
「とりあえずギルドに迷子のお知らせ届けたら?」
「えっ、ギルドってそんなことやってるの?」
「うん、前に迷子になった時イグレに連絡してくれたよ」
ナンティ、ナイスアイデアだが世話になった側なのはどうかと思う。
「実績あるなら頼ってみるかぁ」
俺たちはイスカをつれて、復旧したてのダンジョン受付に向かった。
事情を説明してギルドのお姉さんに迷子の届け出をする。
「迷子ですか。ただこの街では冒険者ギルドはこのダンジョンロビーでしかないので子供を預かる場所がありません。なので冒険者さんたちにはその子の家族が見つかるまで預かってて欲しいのですが」
「えっ」
「勿論ギルドの正式な依頼として少数ですが報酬も出ます、お願いしますね」
なんだって、寝耳に水だ。この子の家族が見つかるまで俺たちが預かるのか?
俺の心配をよそに、ギルドのお姉さんはイスカに質問していく。
しかし――。
「お嬢ちゃんどこから来たのかな?」
「"#%?」
「ええと……お父さんとお母さんは?」
「'?<~=」
「あのふざけてます?」
なんで俺に言うんだよ……俺だって困ってるのに。
「言葉の分からない迷子ですか……似顔絵描いて家族を探して見ますがこれはちょっと時間かかるかもしれませんね」
だろうなぁ。そうして俺たちはギルドの受付を後にしたのだった。




