プロローグ
冒険者――そう呼ばれる者の仕事は、本来なら各地を旅して、モンスターを討伐したり、お宝を探したりすることだ。
だが、この地では少し事情が違う。今や冒険者といえば、古代の種族が残した塔の遺跡――ダンジョンを攻略することが主な役割になっている。
で、今俺たちも例にもれず、そのダンジョンを攻略してたんだが……どうやら厄介な奴らに目を付けられたらしい。
「おい!その宝箱は俺たちが先に見つけたんだぞ!」
「おいおい、そんなこと言われても分からねーだろうが。名前でも書いてたか?」
「なにぃ!」
せっかく俺たちが苦労して倒したモンスターだ。
その宝箱を横取りしようとしてる奴らがいるのだ。
そいつらは割と良い装備を身に付けて、俺たちよりもランクが上らしい。
俺たちは二か月前にこのダンジョンを潜り始めた新人だというに……全く勘弁して欲しい。
そんな相手の真正面から言い合っているのはこのパーティ、「グレート団」のリーダー。剣士のイグレ。
その後ろで、子供みたいにキレてる女は、魔法使いのナンティ。今は怒りで魔法をぶっ放しそうで非常にヤバい。
ナンティをなだめながらも、静かに怒ってるのが一番の大人でこのパーティのハンター、グルー。
そして俺は一番レベルの低いタンクのダンク、ダジャレじゃないよ。
今はそんな仲間と、自称上級ランク四人の冒険者と宝箱を巡って火花を散らしてる状況だ。
「宝箱は早い者勝ちってルールだろ!」
「だったら俺たちだな、先に触ったんだから」
「俺たちがモンスターと戦ってる隙にな!それを横取りっていうんだよ!」
「でも早い者勝ちだろ?」
相手はハイエナする気満々。埒の開かない問答を繰り返していると、なんだか全身がすごく揺れてくる。
「なんだ!」
ここにいる全員がそれを感じ取ったようで、みんな焦り出す。俺は焦るというより超ビビってるが……この揺れどんどんデカくなってる、と言うか近づいて来てないか!?
「うわっ!」
「きゃあ!」
立てないくらい揺れが大きくなる。
全員がその場でしゃがみこむ。
その瞬間、俺たちの目の前の天井からデカい穴が開いて、床にも穴が貫通した!
「な、なんだぁあ!」
驚きすぎて自称上級冒険者さんのリーダーなんか、声裏返ってる。
その場にいる全員が穴を凝視する中、揺れは最高潮に達して、ビビった俺はとっさに盾を構える。
すると穴からでかい見たこともないモンスターが落ちてきた。
次の瞬間、俺たちのいる広間に衝撃波をぶっ放す。
みんな衝撃波を食らったけど、盾を構えていた俺は見たんだ。デカいモンスターに女の子が引っかかっているのを。
モンスターは下に落ちたけど、次の瞬間、勝手に体が動いていた。
「女の子がいた!」
「なに!?どういうこと?」
ナンティが聞き返してくるが、細かく説明してる時間はなさそうだ。だから簡単に伝える。
「女の子だ!分からないけど危ない気がする…だから助ける!ガードスキル・プロテクト!」
俺は仲間たちの返答も待たず穴に飛び込んだ。後ろからは仲間たちの止める声が聞こえたけどもう遅い、身体は重力に従ってどんどん下に落ちて行った。
***
―残された仲間たちの視点では―
「おいダンク!」
「えーんダンク飛び込み自殺しちゃったよ~」
「あいつスキル使ってたし落下くらいじゃ死なんでしょ、ここ五階だし」
仲間たちの声も聞かず、ダンクは穴に飛び込んだ。
「いいのかよ、仲間行っちゃったぜ」
上級パーティーは宝箱に座りながら、薄ら笑いを浮かべて言った。
「……くっ!みんな、あいつを追うぞ!グレート団信条!」
イグレが突然声を張り上げる、するとナンティとグルーも答えるように叫んだ。
「仲間は絶対見捨てない!」
イグレたちは宝箱を諦め、ダンクを追おうと穴に近づく。
だが、グルーが不安げな声を上げた。
「この穴、どこまで続いてるんだ?あいつは丈夫でスキルもあるから良いが……」
ナンティはその声に得意げに答える。
「私の魔法でカバーするから安心して落ちよう!」
「なら安心だな、行こう!」
「マ、マジかよ……お前の魔法って脳き……」
グルーが言い終わる前に、イグレに襟をつかまれ、三人も落ちて行った。
「宝箱目の前にして諦めるとか馬鹿かよ」
「だよな。それよりこいつ開けちまおうぜ」
「そうだな」
上級冒険者の四人は宝箱を開けた。
***
俺たちがいたのは五階。落下中、三つのフロアが見えた。
つまり、次のフロアが一階、落下の最終地点。
そうじゃなくあの穴がさらに下に続いたら俺は痛いじゃ済まないもしれない。
今更ながら安易に落ちたのを後悔してきた。
けど、穴は常識的だったのか、一階で止まったようだ。明かりが見えて落ちたモンスターもそこで止まってる。
俺は盾を構え衝撃に備える。
「くっ!」
落下速度+ガードスキルの硬さで、落ちた衝撃はかなりの物だった。盾を構えた腕がすんごい痛い。
でも、そんな速度で落下したにもかかわらず、先に地上に居たモンスターにはダメージがない。なんだこいつ硬すぎる……。
「痛てて、それより女の子は!」
俺はモンスターを見回す、すると服の一部がモンスターに引っかかってる女の子を発見する。近づいてみると、女の子はただ気絶してるだけみたいで、急いでモンスターから引きはがす。
「良かった、これでもう安心だ……」
そんな一息つく暇もなく落下先、つまり俺の落ちた塔の一階は大パニックだった。
ここはダンジョンに挑む冒険者が準備をするロビーだ。
様々な冒険者やギルドの職員がたくさん集まってる場所でもある。
そんな所に突然、こんなモンスターが落下して来たら……。
「何が落ちて来たんだ!」
「うわあああ!モンスターだ!」
ああやっぱり、こうなるよな……でも、一階にいるのは何も初心者やギルド職員だけじゃない。
「あれは上級モンスターのクリスタルゴーレムじゃないか!」
そう、ダンジョンを上がるには、全てのランクの冒険者が全てここで受け付けしなければいけない、当然レベルの高い猛者も例外じゃない。
このモンスター上級のゴーレムだったのか……だから硬化落下してもダメージがない訳だ。
クリスタルのゴーレムは、名の通りで透き通るような綺麗な青色をしていた。
「こんなこと今まで無かったぞ!」
「ランクの低い冒険者と職員を避難させろ!」
冒険者にはトラブルが付き物と言うけど、慣れてる中級者以上の冒険者は動きが違う。たまたまその場に居ただけなのに手際よく低ランク冒険者やギルド職員を避難させてる。
「おいそこの!お前もそのゴーレムから離れろ!」
当然俺も避難するよう言われる。このゴーレム全然動かないから安心してたけど、上級モンスターなら急いで逃げないと。動き出されたら俺なんて一瞬でやられる。
そう思い一歩踏み出した瞬間、まさかのゴーレム起床。
「え゛っ」
落下で気絶してのか知らないが、俺が離れるまで眠ってくれてても良かったじゃないか!とにかくすぐに避難だ。
「よし!みんな一斉に攻撃だ!」
周りの避難が完了したのか、中級以上の冒険者たちがゴーレムを包囲して攻撃態勢に入った。珍しい冒険者たちの合体攻撃が見られると思った矢先、俺が落下してきた穴から悲鳴が聞こえて来た。
「うおぉぉぉ」
「ああぁぁもう地面だ!カバー本当に頼むぞぉぉぉ!」
「任せて!」
その姿は俺の頼もしい仲間たち。俺を追ってきてくれたのか……でもナンティがカバーって大丈夫か!?
「ハイブラスター!」
やっぱり威力凄い!上級モンスターだっていうのにゴーレムの頭部にヒビが入って一部砕けて飛び散ってるし……落下の勢いは死んだけど逆に明後日の方向へ飛んでいった!
「おっ、ダンク無事だったか!」
「本当に女の子いたんだな……」
空中で俺を発見したイグレたちの一言目はこれだ。自分たちの心配をしろよ。あの様子だと着地考えてないだろ。
俺の予想通り三人はそのまま様々な格好で地面に落ちる。
「いてっあはは、失敗」
「はぁお前最悪だよ……」
「だが、落下死は回避できたぞ。終わりよければ、だ」
「みんな大丈夫!?ごめん、俺先走っちゃって……」
身体が勝手に動いたとはいえ、仲間を危険に晒したんだ反省しなくては……。
「良いの良いの!楽しかったし」
「今の楽しかったのか……すげえよお前。けど、ナンティの言う通り気にすんな。全力で守る、それがお前の役職なんだから」
「そうだ、それに人助けは冒険者の基本だろ?」
突然パーティを離れた俺を咎めるメンバーはいなかった。俺はいい仲間を持った。
「みんな、ありがとう……」
仲間たちとそんなやり取りをしてると、再びゴーレムは動き出そうとしている。
同時に、攻撃の用意をしていた冒険者たちも構えるのが見えた。
「改めて攻撃用意!」
あの凛々しい顔付きの冒険者たちは、このダンジョンのみんなを助けたヒーローとなるだろうな。
「金!」
「経験値!」
「上級モンスター、俺らの糧となれ!」
いや欲望に忠実なだけだった。もしかして周りを避難させてたのは取り分が減るからか?
ナンティの魔法でさえ、ヒビを入れるのが精いっぱいだったゴーレムが、冒険者たちによってどんどん解体されて行く……やはり数は力、こんな所で自然の摂理を見せられるとは。
「それが見た女の子か、上から落ちて来たんだよな」
「不思議だね」
「何で上から?クリスタルゴーレムに引っ付いてたってことはかなり上階から落ちて来たってことだよな?」
俺たちの興味はクリスタルゴーレムなんかより、ゴーレムと一緒に落ちて来た女の子に向いていた。
「ダンジョンの落とし物?は受付に持っていくのが基本だけど……」
当然こんな騒ぎじゃ受付は避難済み。
「うーん……」
女の子を抱きかかえながら、俺たちはみんなで首を傾けた。




