第36話
ドラ子さんが先頭に立ってボス部屋の扉を開く。すると大きな音が響いた。
俺たちは中に入り周囲を見渡す。けれどボス部屋の中にはモンスターの姿は確認できなかった。
「何もいない?」
「いや、警戒を怠るな、気配は感じる」
ドラ子さんの声に俺は注意深く周りを観察する。すると部屋の隅々にはいくつもの魔力溜りがあった。
「ボス部屋にも魔力溜り?」
「なーんかめんどくさい予感がするな」
俺とドラ子さんはあまり魔力溜りに良いイメージがないので険しい顔をする。
けど魔力を見れるイスカはその使い道を予想する。
「あの魔力溜りどこかに移動するための物じゃないと思うよ」
「みたいだな、濃いし相当の魔力量だ。用心しろよ」
俺は観察しながら進むドラ子さんの少し距離を取ってついていく、いつでもイスカを守れるように。
そうしてついにドラ子さんは部屋の中央付近に到着してしまった。けれどモンスターの姿どころか何も起きない。
「何かいる気配はするんだけどなぁ」
ドラ子さんは頭をかきながらも周囲を探っているようだ。
「キキッ……」
「!」
声が聞こえた方向、背後に向かってドラ子さんが裏拳を放つ。しかし何にも当たらずそのままの体勢で俺に向かって言った。
「ダンク、聞こえたな」
「はい、鳴き声のような何かが……」
「ボスはゴースト系だ!どこから来るか分からん、構えろ!」
「イ、インターセプト!」
俺はどこから攻撃が来てもいいようにスキルでイスカを守る。
ゴースト系のモンスターってことは、物理攻撃が無効ってことだ。つまりドラ子さんの拳は効かない。
「どう戦うつもりですか?」
「魔法しかないな、その前に敵がどこにいるか確かめにゃならん」
そう話していると空中からドラ子さんに向かって火球が飛んでくる。ドラ子さんはそれを躱し魔法が発射された場所に拳を放つ。しかし――。
「くっ……何もいない」
空中を確認したドラ子さんはそのまま降りてくる。
「こいつ、やっぱり透き通るな。その上どこにいるのかもわからん、ちょっと手間がかかりそうだ……」
「竜気を放つ技はどうですか?」
「うーん、あれ場所も分からない相手に手加減しながら撃つのしんどいんだよなぁ」
「手加減しなければいいのでは?」
「手加減しなきゃこのダンジョン、この階から上は折れてなくなるぞ?」
ひえーそんな強力な技だったのか。今まで見たのはあれでも手加減してたんだなぁ。
このままじゃ俺たちが攻撃できる機会は来ない、何とか突破口を見つけなきゃ。
そうしていると今度は後ろ、イスカに向かって電撃が飛んでくる。
「うわっ!」
俺はインターセプトのおかげで何とかイスカの盾になることに成功する。スキルで体が勝手に動いたのだ。
「このままじゃ一方的にやられるだけですよ!?」
「分かってる!でも俺だけじゃこのボスを追うことは出来ない、だからイスカ!力を貸してくれ!」
そうか、イスカは魔力溜りを見極められる程魔力を感じるのに長けている。だったらこのボスの魔力を追ってもらえば……。
「ボスの場所分かるか?イスカ!」
「ぼんやりとしか……」
「それでもいい、方角さえわかれば俺が何とかする!」
「右!攻撃来るよ!」
俺が反応するより早くインターセプトで体が引っ張られる。次の瞬間俺の目の前には水が圧縮されたカッターが飛んできていた。それをギリギリで鍋で防ぐ。またも狙われたのはイスカだった。
「あっぶな……」
「ボサっとするなダンク、常に気を張れ。もうこのボスはイスカが魔力を追えることに気づいている。イスカが優先的に狙われるぞ」
「は、はい!」
「けど俺もイスカの感覚は必要だ、だからここは……」
そう言いながらドラ子さんはイスカをおんぶする。
「じゃーん!合体だ、これだけ体が触れ合ってたらイスカが感じた方向が肌で分かる」
イスカはなんだか楽しそうだけど、自分が狙われてること分かってるのかな。
「ダンクは俺の、イスカの背後を徹底的に守れ」
「はい!」
俺とドラ子さんは別々の方を向きながらボスの攻撃を警戒する。
すると俺の目の前、ドラ子さんからちょうど真後ろの方から電撃の魔法が飛んでくる。
「タンクの俺がいるってのに……そんな攻撃通す訳ないだろ!」
俺でも簡単にガードできた、この階のボスにしては攻撃が軽いな。
そして受けた後でもやっぱりボスは姿を見せない。
そんな油断をしていると次の瞬間俺の身体は勝手に動いてジャンプしていた、インターセプトが発動したんだ。
俺の向いた方向は上、突然の浮遊感に一瞬混乱してしまう。
「ド、ドラ子さん上です!?」
ダンジョンには吹かない風の起こりを瞬時に感じて、瞬時にモンスターの風魔法を防御した。
「よし、飛んでようが俺の範囲内だ」
ドラ子さんの言葉に何か冷たいものを感じる、俺が本当に注意すべきなのはボスの風魔法なんかじゃなかった。
落下する俺のすぐ横でドラ子さんは相手も見ずに手をあげて魔法を放った。
「フレイム!」
俺の真横から放たれた炎は凄まじく、炎が部屋の天井を全て覆ってしまった。
「ひ、ひえぇ……いでっ」
俺はその威力にビビッて着地すら失敗してしまう。
ドラ子さんの魔法は何度も見ていた。そう料理で。
いつも見ているあの火種のための魔法と今放った魔法、同じフレイムだとはとても信じられない。フレイムの幅が大きすぎませんか!?
「イスカ、当たったよな?」
「うん、ばっちり」
「でも倒せてないな、さすがは80階のボスってところか。ほらダンクいつまでそうしてるんだ。起きろ」
「あ、はい」
ボスは変わらず姿を消しているけど魔法は飛んでこない、その隙に俺たちもイスカを守る体制を整えた。
イスカは何となくボスの魔力を感じてるようだけど、ボスの移動が早すぎるのか宙を見ながらオロオロしている。
そうしている間にも先手はボスに取られてしまった。ボスからは幾度も魔法が放たれている。
前と横はドラ子さんがガードする。
けれどイスカの真後ろ、俺の真正面から来る魔法が異常に多い。
これは俺が舐められてるのか、ガードを崩そうとしてるのか分からない。でもこんなにもポンポン撃たれたら面白くない。
俺だって魔法の対抗策はあるんだ。
「ミラーガード!」
俺は目の前に飛んできた火球の魔法を跳ね返した。
ミラーガードは魔法を放った相手に直接魔法を返すスキル、だからこのボスが飛んでどこに移動しようと隠れてようと当たる!
「ナイスだダンク!フレイム!」
火球が返された方向に向けてドラ子さんも魔法を放つ。
ドラ子さんのフレイムの範囲は広い、確実に当たったはずだ。
しかし次の瞬間ボス部屋の隅々にあった魔力溜りが反応するように光り出す。
「なんだ!?」
「どうやら今までは単なる遊びだったみたいだな」
各魔力溜りから俺でもわかるほどの魔法の気配を感じる。
「おそらくこいつはレイスの上位種だろう、あの魔力溜りは魔力の補給や姿を隠す魔法を発動させる補助的な役割をしていたようだな」
次の瞬間、周囲の魔力溜りから様々な種類の範囲魔法が発動される。
「だがあの魔力溜りを攻撃用に変えた今なら奴の姿が見えるはず!」
ドラ子さんの言う通りボスは姿を現す。その姿は半透明でローブを被ったまるで幽霊みたいな風貌だった。
レイスは俺たちの真上に浮いておりそこから魔力溜りを操作している。
「それどころじゃないですよ!どれも広範囲の魔法、こんなの避けれない!」
「魔法でもパワーじゃ負けねえ!ダンク!ブレイブガードだ!」
「え?は、はい!ブレイブガードォ!」
「くらえ!オーバーン!」
ドラ子さんを中心に炎の範囲魔法が発動する、出現した炎は迫って来たレイスの範囲魔法を全て飲み込んで俺たちに届くことはなかった。
そればかりか、周囲の魔力溜りさえドラ子さんの魔法に飲み込まれ炎の魔法が暴発、消滅した。
「んなーはははっ。あとはレイス、お前だけだ!そらフレイム!」
姿が見えたボスはドラ子さんの魔法によってあっさり消滅した。
「よし、終わり!」
ドラ子さんの言う通り本当に終わったのか次の階の階段が現れた。




