第35話
戦いは終わり金の剣のパーティは、瓦礫に座るドラ子さんの前で正座させられていた。
「……」
自分達のやったことを分かってるのか、誰もヨハンの最後に抗議はしなかった。
俺も被害を受けた身、あいつには同情はしない。
「途中からの一部始終は聞いていた、やったことは許されないが戦士のお前はまだギルドに所属させてやる。当然、条件付きだがな」
「ありがとうございます、ギルドマスター」
金の剣の戦士は兜を外してドラ子さんに頭を下げる。
「ハンターと魔法使い、お前らはさっき言った通り冒険者資格の剥奪だ。一般人のままダンジョンを降りるがいい」
「こ、こんな所でスキルも使えないまま……私はどうすればいいんですか……」
ハンターの女はドラ子さんに怯えているのか目も合わせず呟いた。
「それは知らんよ、お前たちが今まで好き勝手やってきた結果だ」
「私たちに死ねと言ってるんですか?」
「お前たちも俺たちに似たようなことしただろう?」
「……」
金の剣は今、主力であろうヨハンを失ってハンターもスキルが使えなくなった。
戦力は大幅にダウンした形だ。この状況だと無事にダンジョンから降りるのは難しいだろう。
「それに魔法は冒険者資格失っても使えるし戦士もスキルは使える」
「それだけじゃ……」
「はぁ、それでもお前ら元冒険者かよ……自分たちだけで心配だったら他の冒険者について来てもらうよう依頼すりゃいいじゃねえか」
「今まで俺たちがやったことを思うと依頼を受けてもらえるとはとても思えないんですが……」
魔法使いは申し訳なさそうに言う。
「そうだな、けどそれは仕方ないんじゃないか?」
「……」
ドラ子さんの冷たい返答に金の剣は口をつぐんでしまう。
「そもそもお前たちは俺が帰れば犯罪者になる予定だ、そんな奴らに情けをかけるつもりはない。死にたくなきゃ必死に冒険者たちに頭でも下げるんだな」
「そんな……」
「それも含めて全てが罰だ、嫌ならこの場で野垂れ死ねばいい」
ドラ子さんは立ち上がりながらトドメの言葉を言い放つ。金の剣の魔法使いとハンターは絶望の表情を浮かべていた。
「この二人は俺が下まで連れて行きます、一応元仲間ですし」
金の剣の戦士が二人を庇うように言った。
「それは別にいいがお前も似たような立場だからな?冒険者のペナルティは軽くしたが誘拐の罪は償え」
「承知の上です」
「そうか、だったらもういうことはない。行け」
「はい、すみませんでした」
金の剣のパーティは俺たちに頭を下げた後ダンジョンを降りる階段へ向かった。
こうして金の剣との事件は幕を下ろした。
「さて、俺たちも先を行くか」
「はい」
「ヴィ!」
それぞれ元気よく掛け声を出し出発するが数分後――。
「ダメですねこの辺の魔力溜り全部なくなってます」
階段を上った俺たちは一向に先へ進めずに立ち往生していた。バーサーカーがこの辺りの魔力を全部その力に変えたことでダンジョンギミックである魔力溜りも全部吸い尽くされてしまったからだ。
「金の剣はどうやってここから戻ったんですかね」
「たぶん俺の開けた穴降りたんだろうな、あの魔法使いなら多少の高さは問題ないだろうし」
「俺たちは……このままじゃ足止めになりますね」
「……これは緊急事態だ、俺たちはダンジョンギミックが使えなくなった不慮の事故にあってしまった」
「そうですね?」
「だからこれも仕方ないことだ!」
なんかずいぶん念を押すな。というか言い訳みたいだなと思ってると、ドラ子さんは再びイスカを担ぎ、俺を引っ張って天井を蹴破った。
「うわっ!」
「キャー」
うーん豪快、実際先へ進めないのだからこの方法も仕方ない。けど蹴破った天井は一枚だけじゃなかった。
「うらぁ!」
「あの、さすがにこれだけ上がったら魔力溜りに影響はないと思うんですが」
「魔力溜りという通路の一部がなくなったんだ、どこかで行き止まっても不思議じゃないだろ?だからこれは緊急事態だ!」
ああ、そうかドラ子さんはもう魔力溜りのダンジョンギミックやりたくないんだな……。
確かにまともに魔力溜りを辿って行くと時間かかるもんなぁ。ギルドマスターがこのダンジョンギミックを無理やりスルーするのはどうかと思うけど、普通に攻略したら時間が足りなくなる。ここはドラ子さんの案に乗っかろう。
「そうですねー緊急事態ですからねー仕方ないですねー」
「そう、仕方ないんだ!」
そんな俺たちの会話の意味が分からないのか、イスカはきょとんとした顔で見ていた。
幾つかの天井と壁を破ってたどり着いたのはボス部屋前。
「ここが80階か……」
ドラ子さんも階数が分からないからやみくもに天井を破ってたんだろう、ここまで情緒のないダンジョン攻略は初めてだ。
「穴開けまくっちゃいましたね」
「空翼人のダンジョンは自動整備、自動修復機能がついてるから大丈夫。それに三日も経てば魔力溜りの階層のマップも変わってるだろうし問題はないだろう。たぶん」
たぶんっていうのが心配だけど、ダンジョンは徐々に動いてるから短い時間で穴が修復されるっていうのは本当だろう。これからこの階層攻略を目指す冒険者が穴だらけの光景に驚かなきゃいいけど。
「じゃあさっそくボスに――」
ドラ子さんがボス部屋の扉に手をかけたその時、グゥと小さいけどはっきりと主張するような音が聞こえた。
音の主はイスカのお腹。
「……動きっぱなしだったからな。ここいらでちょっと休憩するか」
「わーい」
ずっと気を張る戦いをしてたからな、俺はボス部屋の前で敷物を敷いた、その上でドラ子さんとイスカは足を伸ばしてくつろぐ。
「イスカもよく頑張ったな、偉いぞー」
ドラ子さんはイスカの頭をなでながら褒める。
休憩時こそ俺の本来の出番だ。イスカのお腹を満たすため、これからお茶と軽食の準備をする。
あらかじめドラ子さんには魔法で鍋に水を入れてもらった。
そして簡易的な窯を作りお湯を沸かす、これで大抵のことは出来る。準備万端だ。
そのお湯を乾燥したお茶葉の入ったポットに入れてあとはドラ子さんに任せる。正直お茶は一応用意したけど、普段飲まない庶民の俺より色んな公の場に出るギルドマスターであるドラ子さんの方が得意だろう。
次に軽食だ。もうすっかり乾燥して硬くなったパンを半分に割る、その間にベーコンを挟んで布に包んだ。
まだ少しお湯の残る鍋の底に小石を数個並べる。それからお湯に直接触れないよう布に包んだパンをその上に置いた。
それから蓋をして少し待つ。これで多少蒸され、パンも嚙み切れる程度に柔らかくなる。
最後に蒸されたサンドイッチにトマトソースをかけてみる、すると今までとちょっと違ったサンドイッチの味が出来上がるはずだ。俺は一口味見をしてみる。
「なんというか別物だなこれ」
けど味決して悪くない、むしろ美味いな。よし、これで完成だ。
「軽食できたよー」
「わーい」
イスカはさっそくかぶりつく。
「ウマー」
「トマトソースのおかげで食い応えあるものになったな」
「サンドイッチよく作りますからね、味変にと思ってかけたんですが思ったより別物になりました。これなら多少硬いパンでも違和感ないですよね」
「ああ、美味いぞ」
ドラゴン族の鍋で蒸したからドラ子さんも美味そうに食べてくれる。
俺たちはお茶とサンドイッチを口にしながらゆったりした時間を過ごす。おかげでボスに挑む前に十分な休息が取れた。
「よーし!英気も十分養ったし、ボスに挑むぞー!」
「おー!」
ドラ子さんもイスカもやる気十分だ。まあドラ子さんがいたらボスなんかに苦戦はしないだろう。
俺は敷物を片付けながら微笑ましく二人を眺めていた。




