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迷子の塔  作者: banbe
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第34話

 そう言ってヨハンは転生の心臓に魔力を込めた。

 するとヨハンの身体は光り出し、体躯は徐々に大きくなっていく。


「ドラゴンより強く……奴を倒せればもう何でもいい、ギルドマスターを倒せる何かにさえなれれば!」


 ヨハンがそう叫んだ瞬間転生の心臓はヨハンの魔力だけじゃなくすごい勢いで周囲の魔力も取り込み始めた。


「馬鹿!転生の心臓にそんなこと願ったら……!」


 ドラ子さんはヨハンに向かって駆け出す。けどヨハンの懐まで入ったドラ子さんの身体は透明な壁のようなものに弾かれた。


「結界!?マズい、このままじゃ……」


 転生の心臓はこの階層の濃い魔力をどんどん取り込んでいく。ダンジョンギミックであるはずの魔力溜りさえ取り込んでヨハンの体を変貌させていく。 


「おい!お前ら逃げろ!」


 ドラ子さんは金の剣のメンバーに言った。


「ここから出てくるのはもうヨハンじゃない!」

「はぁ?」

「嘘だ!俺たちは最後までヨハンに付いて行く!」

「チッ、ダンク!戦闘準備!そっちの戦士も脱いだアーマー装備して下がってろ!」


 真剣な声色のドラ子さんに言われ、金の剣の戦士はアーマーを持って、俺たちの後ろへ下がる。

 イスカもすぐに俺にリジェネレートとガードブーストをかけてくれた。

 この階を満たしていた魔力が吸われていった。

 そして、空気が変わる。

 目の前にいるのは、ヨハンと呼べる物じゃなかった。元が人間と言われても誰もが疑問に思うだろう。

 膨れ上がった巨大な肉塊に、体のあちこちから黒い汁を垂れ流していた。

 辛うじて豚の姿と分かるけど所々肉が腐り落ちている。臭いもひどくイスカは鼻をつまむ。


「くさーい!」

「ドラ子さん!あれは!?」

「バーサーカーだな。見境がない、絶対イスカを近づけるなよ」

「は、はい!」


 ドラ子さんはバーサーカーの前に構えて立つ、だが金の剣の魔法使いは不用意にバーサーカーに近づいた。


「ヨ、ヨハンこれならあのギルドマスターを倒せるのか!?」


 しかしバーサーカーは返事することなく、拳を魔法使いに叩きつけながら叫んだ。


「ヲ……オレ、ハ……ボウケンシャァァァ!」


 拳の威力は凄まじくダンジョンの床に亀裂を入れる程だった。

 魔法使いは間一髪でバーサーカーの拳を避けていたけど、その威力に腰を抜かしその場でへたり込んでしまう。


「邪魔だ!」


 ドラ子さんは魔法使いを俺たちの方に蹴り飛ばす、受け止めたのは鎧を装備した金の剣の戦士。


「おい戦士、金の剣のメンバーはお前が守ってやれ」

「わ、分かりました」


 今の行動に完全に委縮した金の剣のハンターも俺たちの元へ逃げてくる。


「ブォ……ヲォレハァァァァ!」


 次の瞬間バーサーカーはドラ子さんを捕まえようと突っ込んできた。それをドラ子さんは真正面から受け止める。


「ぐっ……どうやら単純な力だけはかなり上がったようだな!」


 ドラ子さんとバーサーカーの力は拮抗する、二人の足元は衝撃で大きな亀裂が入った。


「転生の心臓は取り込まれたか……意識がありゃまだ亜人として生きていけたがこうなりゃただのモンスター、討伐する!」

「そ、そんな!あのアイテムを取り除けば治るんじゃないの!?ヨハンを戻してよ!」


 ドラ子さんの言葉を聞いた金の剣のハンターは懇願する。このハンター、どの面を下げてそんなことを……。

 しかしドラ子さんは冷酷に返した。


「無理だな、クラスチェンジってのはそんな甘いものじゃない」

「そ、そんな……」

「嘘……」


 金の剣のハンターも魔法使いも仲間が元に戻らない事実に絶望する。


「ボォォケンシャァァァ!」


 力が抑えられて悔しいのかバーサーカーは地団駄を踏むようにその場で暴れる。

 振動で少し離れているはずの俺たちも立っているのが困難な状態になる。


「おいおい、そんなに暴れたらダンジョンに穴空くじゃねえか!」

「ブァァァァ!」


 今度はバーサーカーはドラ子さんに向かって何度も拳を振り下ろす、その姿はまるで駄々をこねてる子供のようだ。

 攻撃は止まず土埃がドラ子さんの姿を隠してしまう。


「アアアアアアアァァァ!」


 衝撃波は離れいるこっちにもに飛んできて、俺と戦士は仲間たちを守るためガードに徹した。


 「う、うわぁ!」


 何とか鍋を構えるけど床の揺れも相まって、とても動ける状態じゃない。

 俺が衝撃波を防御してる間もバーサーカーはドラ子さんに拳を振り下ろし続ける。


「くっ!」

「ダ、ダンク……」


 イスカは俺の後ろで心配そうな表情をしてドラ子さんの方を見る。


「あれくらいドラ子さんなら大丈夫さ」


 しかしバーサーカーの攻撃は止まらない。

 

「ド、ドラ子さん!?」


 あまりのバーサーカーの猛攻に俺にも不安がこみあげて来た時、辺りにドラ子さんの声が響く。


「だぁ!うざってええ!」


 叫びと共にバーサーカーの顔にジャンプしたドラ子さんの拳が炸裂する。けどそのダメージは体を反らして力を逃がしたのかバーサーカーは倒れることはなかった。


「痛ってぇ……!こいつ硬さもあるのか……」


 ドラ子さんの声色が変わる。

 そればかりかドラ子さんの拳の方にダメージが行ったみたいだ。ドラ子さんの拳が通じないのなんて初めて見た。


「ヲォォォォォォ!」


 バーサーカーは今度はドラ子さんに頭から突っ込む。


「攻撃はワンパターンだがさすがに強いな……だったら俺も……竜気!」


 そう発するドラ子さんの拳が黄色い光に包まれた。


「あれが……」


 黄色い光は今までにない異質な存在感を放っている。

 ドラ子さんは向かってきたバーサーカーの額に思い切り拳で殴りつける。すると、さっきと違い拳が額にめり込んだ。


「ガアアアァァァァァァ」


 バーサーカーは痛みを感じたのか額を抑えながら大声で叫ぶ。

 しかし続けざまにドラ子さんに掴みかかった。


「ふん!」


 けどドラ子さんはその腕さえも竜気を纏った拳で殴り飛ばす。するとバランスを崩したバーサーカーが土煙を上げその場に派手に倒れた。


「ギャァァァ」


 バーサーカーが倒れた衝撃で飛んできた床の破片を、俺はイスカたちに当たらないように何とか防ぐ。


「ドラ子さん、ヨハンは……!?」

「まだだ!来るな!」


 土煙が晴れていく。そこに見えたのは四つん這いの姿勢で明らかに口からブレスを撃とうとしている光景だった。


「ダンク全力で防御だ!」

「は、はい!スキル・インターセプト!プロテクト!」


 俺はイスカを全力で守るためスキルを重ねて発動する。


「ヴォォォォォ!」


 ブレスがドラ子さんに向けられて発射する、その形状はただ広がる炎などではなく、圧縮された光線のようなブレスだった。


「させるか!ドラゴン・フィンガァァァァァァァァ!」


 ドラ子さんが広げた手に竜気が集まる、手の竜気は巨大な竜の爪の形に形成された。

 そのままドラ子さんはブレスに向かって行く。

 

「あの技は……」

 

 俺はギルドカードを見せて貰った時の説明を思い出す。


(こ、効果は?)

(相手は死ぬ)


 ドラ子さんの確殺スキル!これでヨハンは……。


「うおぉぉぉ!」


 ブレスの光線を真正面から受けながら、それでもドラ子さんは止まらなかった。

 その衝撃は今までとは桁が違う。防御してなければ体ごと吹っ飛ばされていた。今でもスキルでギリギリだ。


「イ……イスカ……!」

「ダンク……」


 俺たちは離れないように固く手を握り合う。

 そのままドラ子さんはバーサーカーの頭部へ一気に距離を詰める。そして、竜気で形成された竜の爪はバーサーカーの頭部を鷲掴みにする。

 口がふさがった事によってバーサーカーのブレスは止まった、それでもドラ子さんは止まることなくバーサーカーの頭を引きずりその巨体を壁まで追い詰める。

 バーサーカーは掴まれてる頭部を何とかしようともがき暴れ叫んだ。


「ヴォレバアアアアアボォォォケンジャャャ」

「お前の冒険は終わりだ!でりゃぁぁぁ!」


 竜の爪の形状だった竜気は物凄い勢いでバーサーカーごと発射される。


「お……俺は……冒険……」


 壁まで追い詰められたバーサーカーは巨大な竜気によって押しつぶされる。

 それだけでは終わらず、竜気は壁を何枚も貫き、ダンジョンの壁に大穴を開けた。

 穴の奥で少し遅れてダンジョンを揺らす大爆音が鳴る。

 ドラ子さんは大穴を背に俺たちの方へ向かって歩いてきた。


「……これで、終わりだ」 

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