第33話
ハイポーションを飲んだとはいえまだ完全に俺の体は体は治りきってない。
体の動きを確かめながらドラ子さんに尋ねる。
「追うったってどうするんですか?」
そう、ここは広いダンジョンの中。
しかもこの階層は魔力溜りで階を移動するから、一度離れた人と出会うのは至難の業だろう。
俺たちの場合は口笛を聞いてくれるドラ子さんの超人的な耳と、ダンジョンの床を破るという力技があったから何とか再会できた。けどなんの当てもなく金の剣を探すのはいくらドラ子さんでも難しいんじゃないかな。
そんな心配をよそにドラ子さんは胸を張りながら教えてくれた。
「知っての通り俺はある程度の距離なら同じ階の人間の気配が分かる」
「でもここの魔力溜りでは階も移動しちゃいますよね……」
「だからこの穴を使う」
そうしてドラ子さんは自分が飛び出て来た穴を指した。
「床を破ってて分かったんだがおそらく前に見た壁の中にあった薄い魔力溜り、あれは階段周りの壁にしか設置されてない。だからこれから天井と床を破って奴らを探す」
「ダ、ダンジョンにこんな穴いくつも開けるってことですか?そんな無茶苦茶して大丈夫なんですか?」
「正直わからん!」
「えぇ……」
「だが今回俺が一秒でも遅れていたらイスカの命に関わるほどの危機だった、あんなことを計画した奴らは野放しにはしておけない。迷惑をかけるがイスカの両親には目をつむってもらう」
「はぁ……」
ドラ子さんが言うんだ、きっと何とかしてしまうんだろう。
「そういう訳だから金の剣を探すのにちょっと暴れるぞ、奴らは絶対逃がさん」
「それは良いんですけど俺はこんな大きな穴降りたり上ったりなんてできませんよ」
「安心しろ、今回は特別にお前も俺が担いでやる、動けるようになったならそろそろ行くぞ!」
「へ?」
そう言うとドラ子さんはイスカを脇に担ぎ俺の首根っこを掴んで穴に落ちてった。
「キャー落ちるー」
言葉とは裏腹に楽しそうな声でイスカは叫ぶ。
「おわぁぁ!あの!行く前に一言くらいあってもいいと思うんですけど!」
「あいつらは魔力溜りの行き先を把握していた可能性がある。さっさと別の階層に行かれるのは面倒だ、今すぐに追いつく!」
そうしてドラ子さんは俺たちを抱えながら、階を移動して金の剣の気配を探る。
「ここには居ないな、次!」
「ひゃぁー」
「うわっ!」
この階に金の剣が居ないと分かるとドラ子さんは再び俺たちを掴み下に降りる。
俺は首根っこを掴まれてるだけなのでかなり揺れるし実質振り回されているようなものだ、だからドラ子さんに扱いの改善を申し出る。
「も、もうちょっと手心というものが欲しいんですが!」
「今は時間が惜しい、却下だ!」
「そんなぁぁ」
そうしてドラ子さんが空けた穴の一番下まで来る。
しかしここにも金の剣はいなかった。
「居ないな」
ここまで確認した階数は三階分、そのどこにも金の剣はいなかった。
「クソ、あんまりダンジョンの中を荒らしたくないんだがなぁ」
「ここ今何階なんですかね」
「それが分かればもうちょっと探しようがあるんだが……仕方がない、次は上まで行ってさらに天井を破ってく。行くぞ!」
「やっふー」
「もう好きにして……」
その後も俺は振り回されながらどんどんダンジョンを登って行く。ドラ子さんは丈夫な天井と床下を蹴りで破りながら金の剣の探索を続けた。
そして天井を蹴り破って二回目。
「む?」
ドラ子さんはこの階の床に着地するとそのまま俺たちを持ったまま走り出した。
「居たな!金の剣!」
「いけいけー」
「ァァァァ……」
凄まじい浮遊感の次は疾走感、どうしてイスカはこんな元気なんだ。
俺は全てを諦め引っ張られる。するとドラ子さんの目の前に壁が迫る。けどこれも大丈夫なんだろうな。
「うらぁ!」
予想通りドラ子さんは蹴りの一発で壁を破ってしまった。それを機にどんどん壁を破って行く。
そうしてとある行き止まりの前にドラ子さんは立ち止まる。
「ここは蹴り破らないんですか?」
「これは階段を囲う壁だ、破れば薄い魔力溜りが出てくるだろう」
「それじゃあ一体どうするんです?」
「それはな、まずはこうして」
ドラ子さんは今立っている床を思い切り踏み抜くと穴が開く、そこに俺とイスカを持ち上げなら降りる。
「こうして」
それから三歩ほど前に進み。
「こう」
再び天井を破って上がった。
後ろにはさっきまで俺の前を塞いでいた壁がある。
「……なんていうか本当に力づくですね、こんな方法あるならわざわざ正攻法でダンジョン攻略しなくてもいいのでは?」
「今回は例外中の例外だ。俺たちの目的はダンジョンを壊す事じゃないし、出来る限り正攻法で行くことを心がけてる」
「案外とちゃんと考えてるんですね、最初は壊そうとしたのに」
「黙れ、それに案外とは余計だ。さて、この奥に金の剣がいる。俺たちが離れている間にあいつらはさっさと進んだようだな」
ドラ子さんは通路の奥を指さす、そこから話し声が聞こえて来た。
いや、話すというより何か揉めてる口調だな。
「だから俺はやりすぎだって言ってるんだ!あれじゃ故意に殺したと言われてもおかしくないぞ!」
「良いんだよ、直接手を下したわけじゃないんだし。それにあれが手を汚さない貴族のやり方だ。お前も俺の家からそんな上等な装備貰ってるんだ、だったら俺の家のやり方に従ってもらおう」
俺たちは気配を殺しながら遠巻きにこっそり一部始終を覗く。
どうやらフルアーマーの男があのヨハンって奴に意見しているところみたいだな。
「これからも気に入らないやつがいたら嵌めるのかよ」
「散々宝箱を横取りしといて今更だろ?それにきちんと実力があれば生き残るさ。弱いのにこんな所まで来る奴の方が悪い」
「……もうここまでするお前らには付いていけない。俺はこのパーティを抜けさせてもらう」
「そうか、だったらそのフルアーマーも返してもらわないとな」
「いいだろう」
フルアーマーの男はまず最初にフルフェイス型の兜を外す、すると刈り上げた黒髪の男の顔が出て来た。
「へぇ意外と整った顔立ちしてるじゃん」
俺たちは未だに金の剣の前には出ず遠目からこっそり覗いていた。
「あの、行かないんですか?」
「こんな面白いとこ……じゃなくて酌量の余地がありそうなやつがいるからな。キリの良い所まで観察してよう」
完全に面白半分なの丸分かりなんですが。金の剣のヨハンは話を続ける。
「この際だからはっきりしよう、お前ら二人はどうだ?まだ俺についてくる気はあるのか?」
どうやらハンターの女と魔法使いの男に尋ねているようだ。
「俺は……前衛が居なきゃ戦えない、こんな所でパーティを抜けるなんてできる訳がない」
「じゃあこんな場所じゃなかったら抜けるのか?」
「いや、おいしい思いができるんだ、どこまでも付き合うよリーダー」
「そうかい、お前はどうだ?」
「自分の女に普通そんなこと聞く?」
「パーティとしての確認だよ。これでメンバーから外れるのはお前だけだな、これじゃ今流行りの追放物っぽいな。まあお前は自分から抜けたから違うか、ははははは」
ヨハンは高笑いしながら先へ進もうとする。
「罰を与えるべき奴は決まったな、行くぞ二人とも」
ドラ子さんは俺たちに合図を出し、金の剣の前に姿を現した。
「メンバーをコロコロ変えるパーティは大成しないんだぜ、金の剣?」
ドラ子さんは金の剣の会話に参加しながら近づいて行く。
声に反応し振り向いたヨハンは驚いて目を見開いた。
「お前はギルドマスター……それにその腰巾着まで、お前ら生きてたのか……」
「おいおい、生きてる事に驚いたってことは死なす意図はあった訳だ、なぁヨハン?」
迂闊にこぼしたヨハンの言葉にドラ子さんは怒りを露にした。
「っち!」
ヨハンは手を挙げて仲間に合図する、すると鎧を外した男以外の金の剣のメンバーは皆煙玉を取り出す。またさっきのと同じように煙で逃げる気だ。
「同じ手は食わん!」
ドラ子さんは拳を放つ、その凄まじい拳圧で金の剣が持っていた煙玉は後ろに吹っ飛ばされる。
「この……モンスターめ。俺たちをどうするつもりだ」
「処分を下しに来たんだ」
「俺たちが何したっていうんだ。あんたの仲間は助かってるし責められる謂われはないと思うけどな」
「本気で言ってるのか?だったら相当おめでたい頭だな」
「なにぃ?大体はぐれただけでやられるような弱い奴を連れている方が悪いだろう!ここは命を賭けて登るダンジョンだぞ?」
「確かに命を賭ける場所だが強い弱いは関係ない、役割があるから居る。それがパーティメンバーだ、C級なのにそんなことも理解してないのか……それに弱者が悪というならお前たちも今から悪になる」
「は?」
「マスタースキル発動!」
ドラ子さんは宣言する、すると竜の紋章が宙に浮かんだ。
「まさかまた!」
「残念ながらお前たちはギルドの信用を落とす存在で、その上罪を犯し反省もしていない。ギルドマスターの権限でレッドカードを執行する!効力は金の剣の戦士以外の冒険者資格剝奪、ギルドカードの抹消、スキルの封印だ」
「なっ……」
「俗にいう追放ってやつだな、おまけに俺がこの依頼を終えたらお前たちのことを誘拐と殺人未遂の罪で告発しといてやるよ、これが明るみに出れば家ごと取り潰されるかもな」
「なんてことしやがる!家の取り潰し……?いや、それよりこんな所でスキルが封印されたら……」
ヨハンたちは慌てて自分の持ち物からギルドカードを出す。そのギルドカードから徐々に記載されている情報が消えていって最後にはギルドカードは文字通り塵となった。
「お前たちはこれで資格もスキルもない一般人。いや、一人は貴族だったか。まあこの場ではどのみち弱者だ」
「戻せよ!俺の冒険者資格!」
「それが頼む態度かよ……」
「頼む?これは貴族としての命令だ!」
「そんな命令拒否してもお前は何もできないだろ?なんの力も持たない弱者の貴族さんよ」
「ぐっ」
ヨハンは俺とイスカをモンスタートラップに入れたようにドラ子さんもこのモンスターが闊歩する中その力を奪った、意趣返しだ。
「まあ恨むなら弱い自分を恨むんだな」
「お前さえ、いなければ……」
なんだ、ヨハンの雰囲気が変わった?
「俺が弱くなったのはお前が力を奪ったからだろうが!その力が使えないなら別の力を手に入れるまでだ!」
ヨハンは懐から気味の悪い臓器のような物体を取り出した。
ドラ子さんはそれに反応する。
「あれは……転生の心臓?」
「それはいったい?」
「早い話、魔力を吸ってクラスチェンジできるアイテムだ」
「なっ……」
なんであいつがそんなものを持ってるんだ!?
「このダンジョンでドロップしたレアアイテムだ。売れば大金になるが、こうなったら俺が使ってやる!お前にさえ勝てれば全部上手くいくんだ……ドラゴンを超える力を俺は手に入れる!」




