第32話
「はぁはぁ……プロテクト!」
隙ができれば、なんとか口笛を吹く。イスカのリジェネレートで徐々に回復はしているがレベルの高いモンスターの数が多すぎる。
傷も増えてきたけどけどイスカは、イスカだけは守り抜かなきゃいけない!
「ダンク……」
イスカは心配そうに俺の顔を見上げる。イスカのこんな顔初めて見たな、俺じゃ頼りないだろうけど、絶対耐えてみせる。
「大丈夫、ドラ子さんはすぐに来てくれる……それまで俺が耐えればいいだけだ。タンクだからな、守りは任せろ……」
自分にも言い聞かせるように、イスカに語りかける。だが再び羽の生えたネコ科のモンスターがブレスを吐く動作をし始める。
「またあれか!ブレイブガード!」
モンスターの吐いた巨大なブレスの炎は再び周囲のモンスターも巻き込んで、俺とイスカに向かって来た。
「うおぉぉぉぉ!」
ブレスをガードした後は周囲のモンスターもすぐに近づかず一瞬隙ができる。
そのわずかな隙で俺は再度口笛を吹く。どうかドラ子さんが聞いてますようにと願って。
「プ……プロテクト!」
一瞬の隙は終わり再びモンスターの攻撃が始まった、ドラ子さん急いで。
***
張り詰めた空気の中ドラ子は集中しながらイスカとダンクの気配を追っていた。
やみくもに魔力溜りに入る事はせず進みは遅いが、これが一番確実だと分かっていた。
しかし集中している途中、人間を凌駕するドラ子の耳に僅かな口笛の音が聞こえて来た。
「これはダンク?音は上からだ、上の階にいるのか」
(ダンクの居場所は分かった、だが行く方法が分からない……このままゆっくりだが気配を追っていくのが確実か?)
しかしドラ子は先程の口笛に違和感を覚える。
(いや待て、なんであんなに口笛が短いんだ。俺に位置を教えるなら前みたいにもっと長く吹くはずだ……)
「まさか……戦闘中!?この階層はあいつらの適正レベルのはるか上だぞ!」
ドラ子の頭にはもう既にゆっくりとイスカたちの気配を追うという選択肢は無かった。
「やってくれたな金の剣……この代償は必ず払わせる!」
***
モンスタートラップに入ってから数十分、俺は既に満身創痍で、何とか立っている状態のまま鍋で攻撃を受けていた。
「はぁ…はぁ…アタックガード……」
「ダンク!これ以上は死んじゃうよ!」
「その前にドラ子さんが来てくれるさ……」
イスカは泣きながら俺の腰に手を当て、リジェネレートをかけ続けてくれている。それでも回復は全然追い付かず俺の傷は増えていくばかりだった。
イスカにこんな顔をさせて、こりゃあドラ子さんに怒られるかもな。
「ねえダンク、力をあげる。奇跡の力を……そうすればこの危機も乗り越えられるよ」
「イ、イスカ?」
後ろにいるイスカの表情は分からなかったが今までとは違う声色で俺に語り掛けてくる。
その言葉を聞いた瞬間前にドラ子さんから聞いた話を思い出した。
(もしこれから何らかの事故が起きてイスカから力が欲しいかと聞かれても絶対に欲しいと答えるな)
機密にかかわる事だから。ドラ子さんはあの時ああ言ったけど、この状況を楽にしてくれるような素晴らしい力があるのならぜひともそれにあやかりたい。
そうすればイスカのこの泣き顔はすぐに笑顔になるだろう。けど――。
「し……心配しなくてもいい、こ……これくらいなんてことないさ」
「でも……」
直感的に感じる、これを受け取れば何か大きな波に飲み込まれることに。そしてイスカの笑顔が消える気がした。
攻撃をガードしながらそんな話をしていると三度ネコ科のモンスターがブレスを吐く動作に入る。
「あれはさっきの炎の……」
「お……俺はタンクなんだ……安心していい。後ろにいるイスカには傷一つつけないさ」
「ダメ!あんなの受けたら今度こそダンクは持たない、お願い!わたしの力を受け取って!」
「大丈夫、あれくらい耐えられるさ……ブレイブガード」
そうして俺たちはまた炎に包まれた。ブレイブガードはちゃんとイスカを守れている。けどもう体に力が入らない、このブレスが終わったらもう俺はイスカを危険に晒してしまう。
「だから早く……ドラ子さん……」
モンスターのブレスは耐えきった、一瞬出来た隙に俺はもう動かない体で口笛を一音だけ鳴らす。
だけどそこまでだ、最後の盾はこの動かない体。俺の目の前にモンスターの爪や牙が迫る。
(まだだ……ここで終わったらイスカが……!)
肩にモンスターの爪が食い込む。それでも俺は歯を食いしばりながら身を挺してイスカの前に立った。
「ダンク!だめぇ!」
イスカの叫びと共に俺たちの立つ地面が大きく揺れる。次の瞬間床が弾け飛んだ、部屋中のモンスターは床の瓦礫と一緒に宙に浮く。
その中心、大穴から衝撃と共にドラ子さんが飛びだしてきた。
「イスカ!ダンク!無事か!?」
「ドラ子さん!」
(ナイスタイミングだ……)
俺はドラ子さんが姿を現したのを確認してそのまま前に倒れ込む。
「ダンク、ドラ子さんが来てくれたよ。もう大丈夫」
イスカは倒れた俺を抱えてドラ子さんの姿を見せてくれた。
「ダンク、そんなボロボロになって……イスカを守りきったんだな。まずは掃除だ、ドラゴンキャノン!」
宙に浮いたままのドラ子さんの手には光球が現れて、それをモンスターの群れに向かって投げつけた。
その速度は金の盾の時に見せたものとは違い、ものすごいスピードでモンスターの一体に当たる、威力も前に見た物よりも凄まじく爆風は全てのモンスターを飲み込んだ。
あれだけ俺をいたぶったモンスターたちはドラ子さんの一撃によっていとも簡単に消滅した。
着地したドラ子さんはそのまま俺たちの元へ駆けてくる。
「これでこの場は安全だ。イスカ、ダンクはどうだ?」
「全身傷だらけだけど生きてる……ごめんねダンク、守ってくれてありがとう」
「そうだな、俺からも礼をいう。イスカを守ってくれてありがとうな」
俺の身体は動かないし声も出ない、けど笑うことで何とか二人に返事をした。
「にしてもモンスタートラップか……金の剣が居ない所を見るとここに無理やり押し込まれたという事か」
「そうなの、ダンクはずっとわたしを守ってくれていたの……だけどあの人たちの方が強くて……」
「イスカも頑張ったな、ずっとバフでダンクを支えてたんだろ?」
「それしか出来なかったから……」
「……あとはダンクの回復を待つか、すぐ治してやれればいいんだけど回復魔法はイスカのリジェネしかないしなぁ」
俺はイスカのリジェネレートを受けて徐々に回復はしている、けど傷が多すぎて回復速度は微々たるものだった。
「そうか、ここはモンスタートラップだったな……だったら宝箱がある」
ドラ子さんは思い出したように呟いて部屋の真ん中を見る、そこにはモンスターを倒した時に出る宝箱がドロップしていた。
その宝箱の中身をドラ子さんは確認しに行く。
「えーと……よし!ダンクお前の運はいいみたいだぞ」
そう言って宝箱から取り出したのはポーションの瓶だった。
「しかもこれはハイポーションだ、これでダンクの回復が早まるぞ。イスカ飲ませてやれ」
「うん」
ドラ子さんはイスカにハイポーションを渡す。イスカはふたを開けて俺にポーションを飲ませてくれた。
すると体力と傷はだんだん回復していって立ち上がって喋れるくらいにはなった。
「ありがとうイスカ、ドラ子さんも来てくれるって信じてました。床を破って来たのは想定外だったけど」
「助けたんだから方法についてはスルーしろ」
「はは、いてて」
ハイポーションをもってしても俺の傷は完全に塞がっておらず、ちょっと力を入れるとまだ痛みが走った。
「動けるか?」
「はい、傷はイスカのリジェネレートが徐々に塞いでいってくれてます」
「よし、だったら金の剣を追うぞ。あいつらは冒険者として許されないことをした」
ドラ子さんは険しい顔つきで言った。




